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安彦 忠彦(あびこ・ただひこ) 早稲田大学教育・総合科学学術院教授 略歴はこちらから

「6-3-3制」にメスを!
-もう改革は避けられない-

安彦 忠彦/早稲田大学教育・総合科学学術院教授

小中一貫教育の進展!?

 去る1月19日の朝日新聞の夕刊は、一面トップで「横浜市が小中一貫教育」と大見出しで報じた。市全体の小中学校491校について、2012年度からこれらをすべて連携強化して一貫教育とするというのである。少なくとも、6-3制が今の大部分の子どもたちの成長・発達の状況に適合していず、生理・心理的に思春期が過去50年で約2年早まって、小5には始まること等を考えると、それ以外の区分にすることがのぞましいと主張して、このような方向への動きを支持してきた者としては喜ばしいが、必ずしも手放しでは喜べない。

 それは、この方向は、新学校教育法に新設された第21条の、9年間の義務教育の目標規定を受けるもので、一方で制度改革への踏み台になる点で歓迎されるが、他方でこれ以外のあり方を認めず、他の動きに対しては抑制をかけ、保護者の学校選択の幅を狭める一面をもつからである。本来ならば、横浜市教委は保護者に、6-3制を含めたどのような学校体系にするか、市内の学区で選べる形で、小中一貫教育に踏み出すべきである。保護者に選択の余地を残す施策としては、一貫教育の下位区分として、6-3制、4-3-2制、5-4制、3-4-2制、4-5制など、それぞれの学区の住民が自分たちの地域の子どもに最適な区分を選べる、というものであることが望まれる。

中高一貫教育との関係は?

 他方、これによって、先行している「中高一貫教育」と合わせるなら、一見「小中高一貫教育」が実現するかのように見えるが、これは実はそれほど簡単ではない。なぜなら、「小中一貫教育」は「義務教育」を基礎としているが、「中高一貫教育」は「中等教育」を原理としていて、この二つを貫く原理が共通でないからである。つまり「中学校」が一方で「義務教育の後期」の観点から扱われ、他方では「中等教育の前期」という異なった観点から扱われているのである。このままでは「小中高一貫教育」を構成することはできない。

 ではどうするか。もし、小中高一貫教育を公式に構成したければ、「義務教育」が「初等教育から中等教育の前期まで」含めて行われる、という観点に立つしかない。この観点は、今回の「義務教育」観ではやや後退したが、従来からの基本的な考え方であり、望ましいものである。今後の中央教育審議会で早急に調整・決定すべき、重要かつ緊急な検討事項の一つであると言えよう。

高大接続テストとの関係は?

 また、最近の中央教育審議会の答申の一つに、大学の学士課程教育についてのものがあり、その中で「高大接続テストの検討」が言われている。これは、最近の日本の大学入試の多様化により、とくに種々の推薦入学制度によって入学した学生に、大学教育に必要な基礎的な学力のない者が多いので、これらの推薦入試で入学を希望する者には、いわゆる一般入試のペーパー・テストに代えて「高大接続テスト」という学力テストを課してはどうか、という提言である。

 全国高校長会はこの方向を前向きに検討してよいとしているが、それは主に高校教育の混乱を少なくするからというものである。学力面での高大の接続をスムーズにする点ではあってもよいが、これを高校教育の修了資格試験に類するものにするのかどうか、検討が必要である。すでにそのための作業を文部科学省は始めており、高大の接続のあり方も全体として早急に見直されねばならない。

6-3-3制の学校体系を見直すべし!

 以上に加えて、自民党では幼稚園の義務教育化を具体的に考えており、そうなると近々、幼-小-中-高-大と、主要な学校段階の切れ目にみな手を入れることとなる。改めて、6-3-3制の現行の学校制度・学校体系を、種々の面から見直すべき時期に達していると考える。単線型学校体系は維持すべきだが、地方分権の進むのを受けて、その学校区分はもっと多様にしてもよいのではないだろうか。

 最近は、地方教育委員会が、かつての文部省のように、上から強権的に学校や保護者に対している面があるが、むしろ地方・地域の住民や保護者が決められ、選べる学校・学校区分にするというのが、あるべき地方分権の理念であろう。もちろん、国全体の質の保障は国が共通に保たねばならないが、個々にはもっと多彩な学校の教育活動があってよいと思われる。

 小1プロブレム、中1ギャップ、高大接続問題など、いずれの問題も関心を持たれてからかなりの時間が経っており、もはや放ってはおけない状況にある。制度改革はもう避けられない段階にあると言ってよい。

安彦 忠彦/早稲田大学教育・総合科学学術院教授

【略歴】

東京大学教育学部卒業。同大学院を経て、大阪大学、愛知教育大学、名古屋大学に勤務。その間、名古屋大学附属中・高校長、同大学院教育発達科学研究科長兼教育学部長を歴任。カリキュラム学・教育課程論(主に中等)を中心に、教育方法、教育評価を専門とする。第3、4、5期中央教育審議会委員。日本カリキュラム学会代表理事、日本教育方法学会理事、日本教育技術学会理事などを歴任。名古屋大学名誉教授。博士(教育学)。

【主な著書】

・『新学力観と基礎学力』 明治図書 1996
・『中学校カリキュラムの独自性と構成原理』 明治図書 1997
・『学校知の転換-カリキュラム開発をどう進めるか-』(編著) ぎょうせい 1998
・『教育課程編成論-学校で何を学ぶか-』 放送大学教育振興会 2002
・『カリキュラム開発で進める学校改革』 明治図書 2003
・『改訂版 教育課程編成論-学校は何を学ぶところか-』 放送大学教育振興会 2006
・『「活用力」を育てる授業の考え方と実践』図書文化社 2008
・『成長のものさし』(共訳)図書文化社 2008
・『中学校 学校力がUPする新教育課程マネジメント』(共編著)明治図書出版 2008
他、多数