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大久保 孝治/早稲田大学文化構想学部教授 略歴はこちらから

文化としての家族の寝方
―血液型より確実 結婚の相性診断

大久保 孝治/早稲田大学文化構想学部教授

結婚披露宴でのスピーチ

 大学の教師をしていると、ときどき卒業生の結婚式に招待され、披露宴でスピーチをする機会がある。たいてい新婦の側なのだが、それは新郎が会社の上司にスピーチを依頼することが通例であるからだ。トップバッターである新郎の上司のスピーチは型どおりのものであることが多いので、二番手の私は場の雰囲気を和ませて、続く乾杯へとつなげる役目を期待されている。そこで私はスピーチの中で新郎新婦にこんな質問をする。

 「想像してみてください。最初のお子さんが生まれて1年余りが経過しました。さて、一家はどのような寝方をしているでしょうか。次の中から選んでください。」

  • タイプ1(C中央型):3人とも一緒の部屋で、子供が真ん中に寝る
  • タイプ2(M中央型):3人とも一緒の部屋で、母親が真ん中に寝る
  • タイプ3(F別室型):母子が一緒の部屋で、父親は別室に寝る
  • タイプ4(C別室型):夫婦が一緒の部屋で、子供は一人で別室に寝る

 この問題には正解はない。どれを選んでもかまわない。肝心なことは、新郎新婦が同じ選択肢を選ぶかどうかである。家族の寝方(就寝時の家族の空間的配置)は文化の一種である。それぞれの寝方のパターンはそれぞれの家族イメージ(家族のあるべき姿)と対応している。同じ寝方を選ぶということは同じ家族イメージを共有しているということであり、別々の寝方を選ぶということはそうではないということである。前者は新婚生活のスムーズなスタートを予感させ、後者は新婚生活での文化摩擦(夫婦喧嘩の一形態)を予感させる。

日本の家族のコアは母子関係

 2002年1月に日本家族社会学会が実施した全国調査「戦後日本の家族の歩み」に家族の寝方についての質問が組み込まれていた。全国規模で家族の寝方の実態を調べた初めての調査である。家族の寝方という「目に見える構造」を指標として、家族関係という「目に見えない構造」に迫ろうとしたのである。結果は、タイプ1(C中央型)が50%台でトップ、続いてタイプ2(M中央型)が30%台、この二つのタイプが日本の家族(子供がまだ小さい3人家族)の寝方の90%近くを占めている。他方、タイプ3(F別室型)は10%程度で、タイプ4(C別室型)にいたっては2、3%あるかないかである。日本の家族の同室就寝傾向はすこぶる高い。

 これはアメリカの家族の寝方の主流がタイプ4(C別室型)であるのとは鮮やかに対照的である。アメリカ人の家族イメージでは、夫婦関係こそが家族のコアであって、夫婦の寝室に子供が入ってきたり、ましてや夫婦の間に子供が割り込んでくることは、子供の自律にとって、また、夫婦の性生活にとってよろしくないと見なされる。実際、戦後日本のロングセラーである『スポック博士の育児書』にはそう書かれているが、日本の読者はこの点は見習わなかった。日本人の家族イメージでは、親子関係とくに母子関係こそが家族のコアであって、家族同室就寝の原則が壊れるタイプ3(F別室型)においても母子関係のユニット分離されることなく維持されているのである。

タイプ1(C中央型)とタイプ2(M中央型)では夫の育児参加度が違う

 では、「家族は一緒に寝る」「母子は隣り合って寝る」という暗黙の規則に従っている点では一致しているタイプ1(C中央型)とタイプ2(M中央型)は何か違うのだろうか。全国調査「戦後日本の家族の歩み」のデータをあれこれ分析してみてわかったことは、夫の育児参加と家族の寝方には関連があるということである。すなわちタイプ1(C中央型)の夫の方がタイプ2(M中央型)の夫よりも育児参加度が高いのである。それはなぜだろうか。ここから先は推論になるが、どちらの寝方を選択したかで夫の育児参加度に差が生じるというよりも、むしろ夫の育児参加志向の強弱(あるいは夫の育児参加を求める妻の志向の強弱)が家族の寝方の選択に影響を与えているということではないだろうか。

 家族の寝方は家族関係の空間的表現である。タイプ1(C中央型)は親子関係を夫婦関係よりも優先した寝方である。そこでは夫婦関係は子供によって分断されている。男女は「夫/妻」という役割よりも「父親/母親」という役割をより強く意識しているだろう。他方、タイプ2(M中央型)は夫婦関係と母子関係のバランスを重視した寝方であるが、父子関係は母親によって分断されている。「子供は夫婦一緒に育てるもの(母親まかせにしない)」と夫が考える場合、あるいは夫にそう考えてほしいと妻が考える場合、タイプ1(C中央型)の寝方が選択される確率はタイプ2(M中央型)の寝方が選択される確率よりも大きいと推測される。

家族の寝方と夫婦の相性

 どういう家族の寝方を選択するかでその人の家族イメージがわかる。余談だが、もしあなたが未婚で、これから結婚を考えている人がいたら、何気なく「どういう家族の寝方がよいと思うか」を尋ねてみるといい。少なくとも血液型や星座などよりもずっと確かに二人の相性をチェックできるはずである。

 ところで、結婚披露宴のスピーチの話に戻るが、新郎新婦に家族の寝方を質問して二人の回答が一致していればよいが、もしずれていたときはどうするのかを心配されている方があるかもしれない。大丈夫、実は私は事前に二人にリサーチをしているのである。二人の回答が一致しているときだけ、家族の寝方の質問をスピーチの中に組み入れるのである。一致していないときは、この話題には触れないことにする。 でも、もし事前のリサーチを怠って、うっかりスピーチの中で寝方の質問をしてしまい、運悪く二人の回答がずれていた場合は、うろたえることなく、こう言えばよい。「自分が育った家族を当たり前、普通、理想と考えていると、きっと新婚生活で『あれっ?』と思うことがあると思いますが、それはお相手の方も同じなので、寛容ということが大切です。二人で力を合わせて、時間をかけて、自分たちの家族の文化を創っていってください。」

大久保 孝治(おおくぼ・たかじ)/早稲田大学文化構想学部教授

【略歴】
1954年東京生まれ。都立小山台高校卒業。早稲田大学第一文学部人文専修卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士課程(社会学専攻)満期退学。早稲大学助手、放送大学助教授、早稲田大学助教授を得て、現在、早稲田大学文化構想学部教授。専門はライフストーリー研究。とくに近代社会の変動に伴う「人生の物語」(生き方についての社会規範)の変容に関心がある。主要な著作に、『ライフストーリー分析』『日常生活の社会学』(共に学文社)、『変容する人生』(コロナ社)、『きみたちの今いる場所』(数研出版)、『ライフコース論』(放送大学教育振興会)などがある。詳しくはHP「大久保孝治研究室」を参照。