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小松 茂久(こまつ・しげひさ)早稲田大学教育・総合科学学術院教授 略歴はこちらから

教育委員会制度は生き残れるか

小松 茂久/早稲田大学教育・総合科学学術院教授

1)教育委員会と教育長

 教職員が不祥事を起こすたびに、あるいは学校において児童生徒に不適切な対応があるたびに、マスコミの前でずらりと並んで、頭を下げつつ謝罪会見を行っている教育関係者の中心にいるのは、たいていのところ地方自治体の教育委員会の教育長である。近年の大津市におけるいじめ自殺をめぐる報道が典型例であろう。教育長は教育委員会によって任命され、教育委員会の指揮監督を受けながら、委員会の権限に属するすべての事務をつかさどるとともに、教育委員会に対して専門的な助言を行うことを職務としている。同時に、教育長は教育委員会の事務局の責任者として事務局の扱う個別具体的な事務を統括し、所属職員の指揮監督などの役割を果たすことになっている。

 教育委員会制度は1948年に制定された教育委員会法によって設置された。第一次教育使節団報告書の勧告や教育刷新委員会などの建議にもとづいて、アメリカの教育委員会制度をモデルとして導入された。制度の導入当初は全自治体での一斉設置をめぐる論争、教育委員の住民による直接公選にともなう政治的な偏向に関わる議論などで、相当の混乱を来しており、期待された機能を十分に発揮して運営されたとは言いがたいものであった。その後の1956年には「教育行政と一般行政との調和を進めるとともに、教育の政治的中立と教育行政の安定を確保する」ことを理由に地方教育行政法が制定され、教育委員会法は廃された。地方教育行政法が制定されてから後の教育委員会制度は、決して安定的とは言えないまでも、存続し続け、およそ半世紀経過しようとしている時に、同制度の見直しに関する議論が活発化するようになった。

2)地方分権改革と教育委員会制度の見直し

 この背景には地方分権の推進や市町村合併にもとづく地方自治体制の変化がある。国と地方との役割分担の在り方を抜本的に見直そうとする中で教育行政についても再編論議が活発化してきた。現行の一斉設置を見直して任意設置に改変することや、教育委員会制度自体の廃止に至るまで議論の幅は広い。こうした論調に触発される形で文部科学省は中央教育審議会などを通して教育委員会制度の在り方について見直しを進め、制度の基本的枠組みを維持しつつも、機能の強化、責任体制の明確化、地方分権の推進、首長と教育委員会との連携強化などを図るために、2007年には地方教育行政法の改正が行われている。

 今日において、教育委員会制度の見直し論を加速化しているのは、橋下徹大阪市長であろう。府知事在職中から機会を捉えては教育委員会制度批判を展開しており、結果的に首長主導の教育改革の旗頭的な役割を担っている。論点の一つに教育と政治との関係の見直しがある。大阪維新の会が提出した条例案には、教育行政に政治が関与できるし、関与すべきであるとの主旨が含まれており、多くの議論を巻き起こした。そして2012年3月には、知事が府教委と協議して教育目標を設定できる規定や知事の教育委員罷免権を明記した「教育行政基本条例」、志願者が3年連続で定員割れして改善の見込みのない高校は再編整備の対象とすることや校長の採用を原則公募とする「府立学校条例」、同一の職務命令に3回違反した職員は分限免職の対象とする「職員基本条例」が成立した。

 「教育の政治的中立」を目的として設置運営されてきた教育委員会による教育行政と並んで、住民から直接公選された独任制の首長による教育行政が行なわれつつある。大阪の試みは緒に就いたばかりで、このことが地方教育行政にいかなる帰結をもたらすのか、子どもたちにとっていかなる効果や影響をもたらすのかについての判断は時期尚早である。アメリカでは既に1990年代半ばから教育委員会を廃して市長に教育の統制権を付与するメイヨラル・テイクオーバーが、ボストン、シカゴ、ニューヨークなどの全米的には一部であるものの代表的大都市で展開されており、多くの研究者の関心を集め、その功罪について研究が進められている。

3)首長主導教育改革と教育委員会制度に関する日本教育行政学会シンポジウム

 2012年10月27日、28日の両日、早稲田大学の国際会議場において日本教育行政学会第47回大会が開催されます。特別企画(一般公開、27日9:30から)および公開シンポジウム(第1部は27日午後0:30から、第2部は28日午後3:30から)は誰でも参加できます。特別企画は「教育長のリーダーシップを基盤とした教育委員会の活性化」で、積極的な活動で全国から注目を集めている教育長をお招きして政策課題への取り組みと成果や課題について理解を深めます。公開シンポジウムは「首長主導教育改革と教育委員会制度」と題し、第1部は「大阪府・大阪市の動向と全国的含意」、第2部は「首長の教育行政に対する影響力の検討」をテーマに、わが国の地方教育ガバナンスの在り方全体について検討するための重要なヒントを得る機会になるのではないかと考えております。関心をお持ちの方は是非ともご参加下さい。

小松 茂久(こまつ・しげひさ)/早稲田大学教育・総合科学学術院教授

【略歴】
1953年生まれ。東京都出身。博士(学術)。相愛大学、神戸学院大学などを経て、現職。
専門は教育行政学。著書に『アメリカ都市教育政治の研究』(人文書院)、『学校改革のゆくえ(改訂版)』(昭和堂)など。