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ダニエル・ドーラン(Daniel Dolan)早稲田大学大学院会計研究科教授 略歴はこちらから

日本人の“プレゼン下手”克服術
~東京五輪招致活動に学ぶ~

ダニエル・ドーラン(Daniel Dolan)/早稲田大学大学院会計研究科教授

 日本の2020年オリンピック招致活動における英語での最終プレゼンテーションをご覧になりましたか。このプレゼンテーションは、IOC役員やその他の聴衆に大きなインパクトを与え、ほぼ間違いなく日本の招致成功に貢献しました。日本人は効果的なプレゼンテーションができないと言われることが多く、母国語でも、そして特に英語によるプレゼンテーションが苦手とされています。今では、その認識が間違っていることが分かりました。2013年という年を、日本人が年齢に関わらず効果的なプレゼンテーションのスキルを身に付ける自信を持つ年にしましょう。

 プレゼンテーションを効果的にする要素は何でしょうか。効果的なプレゼンテーションには、対話形式による戦略的なコミュニケーションが必要です。強力なプレゼンテーションには、①「戦略的であること」ーすなわち、戦略や周到な計画の上に成り立っていること、②「対話で成り立っていること」―興味深いアイディアを対話形式で直接聴衆に伝えること、が必要なのです。以下では、効果的なプレゼンテーションをするための3つのカギをご紹介します。

1.「聴衆のため」であること

 用意した原稿を講演者が読むだけのプレゼンテーションは誰しも経験があるでしょう。やっとのことでプレゼンテーションが終わると、何かを発見したという感覚よりも安堵感が広がります。このようなプレゼンテーションには少なくとも2つの問題点があります。ひとつは対話ではなく朗読だということ、そしてもうひとつは内容が聴衆の興味に沿っていないことが多いということです。講演者には自分の言いたいことがあり、それについて話をします。聴衆は講演者にとって、話を聞いてくれる都合のよい道具にすぎなくなります。

 そうではなく、講演者はプレゼンテーションをする前に必ず次の3つの基本を問うべきです。それは、(1)聴衆が知りたいこと、知る必要があることは何か、(2)聴衆が知りたくないこと、知る必要が無いことは何か、(3)どうすれば、聴衆が最も知りたいことや知る必要があることを、最もよく聴衆に伝えられるか、です。効果的なプレゼンテーションとは聴衆のためにあるものです。聴衆へのプレゼント、情報や経験や知恵の贈り物なのです(プレゼンテーション[presentation]の語根がプレゼント[present]であることにご注目ください)。聴衆のためになるには、利己的ではなく思いやりのある態度が必要です。そして忘れてならないのは、聴衆が変わればニーズも変わり、従って3つの問いへの答えは常に異なるということです。柔軟に対応しましょう。聴衆の興味に自分の興味を合わせましょう。聴衆のためになるようにしましょう。

2.要点を特定し順序づけること

 あなたのプレゼンテーションの聴衆が、何を知りたいか、知る必要があるかを考える際は、中心となる要点を決めることから始めるべきです。要点は3~5つが良いでしょう。2つ以下では価値ある情報を聴衆に伝えるにはおそらく不十分で、6つ以上だと情報が多すぎて聴衆が処理しきれなくなります。説明のためのプレゼンテーションの場合、つまり情報伝達を主な目的とする場合は、取り上げる事実を強力な証拠と情報源で補強すべきです。しかし、説得のためのプレゼンテーションの場合、つまり聴衆の考え方や感情、行動を変えることを主な目的とする場合は、名誉、平和、共同体といった誰もが共有する理念を事実と組み合わせることに重点を置くのが良いでしょう。次に、選択した要点を何らかの順序で配置する必要があります。時系列や物語としての順序(「まずAがあり、次にBがあり、続いてCがある」)に配置する方法もあれば、あまり重要でない要点から最も重要な要点へと並べる方法もあります。自然で論理的な順序になったと感じるまで、配置を自由に試してみましょう。

3.聴衆とつながること

 取り上げる3~5つの要点を選び、その順序を決めたら、聴衆に自分のアイディアを効果的に伝える必要があります。聴衆とつながる必要があるのです。これはプレゼンテーションの中でもほとんどの人が恐れる部分です。なぜなら、自分が舞台の上で注目されていると感じ、ミスをしないか不安になるからです。聴衆とうまくつながるためのカギは、プレゼンテーションに対して自分が抱く観念を「スピーチ」や「講義」から「対話」へと変えることです。この観念について考えてみましょう。どの言語であれ、あなたが一人以上の人と対話するとき、あなたは自然に何をするでしょうか。興味深い話題を選び、対話中は自分の話す番が再び回ってくるまで相手の話を注意深く聞きます。つまり、相手に注意を払うのです。これが効果的なプレゼンテーションのイメージです。聴衆と対話しましょう。自分の興味深いアイディアを聴衆に伝え、聴衆に注意を払いましょう。どの対話でもするように、聴衆の目を直接のぞき込みましょう。原稿を読んだり、メモやパソコンに集中しすぎたりすると、そうした対話をしにくくなります。従って、自分の言いたいことを熟知し、スライドを使う場合はその練習を積み、そうして自分自身をメモから解放しましょう。そうすれば聴衆と自然な対話をすることができます。聴衆はあなたに朗読してほしいのではありません。あなたと対話がしたいのです。あなたのアイディアや体験や物語を共有したいのです。

 以上です。効果的なプレゼンテーションは、対話形式の戦略的なコミュニケーションからなります。効果的なプレゼンテーションをするための3つのカギは、(1)聴衆の役に立つこと、(2)要点を特定し順序づけること、(3)聴衆とつながることです。この3つのカギを理解し練習すれば、誰でも効果的なプレゼンテーションができます。とはいえ、質問がある方もいらっしゃると思いますが…

Q&A
Q:

私は仕事で、英語でプレゼンテーションする必要があるのですが、英語がとても下手なので…。

A:
待った! そういった話はよく聞きます。英語でプレゼンテーションする場合は、何を伝えるか、聴衆といかに対話するかに集中しましょう。発音が良くなくても、文法が間違っていても、誰も気にしません。聴衆は、あなたの情報、経験、知恵が欲しいのです。
Q:

スライドは何枚使えばよいですか。

A:
あなたの戦略によります。スライドを使うことに決めたのなら、各スライドをごくシンプルなものにします。文章を最小限に抑え、分かりやすい言葉を使いましょう。2020年オリンピック招致で日本招致団は説得力のあるプレゼンテーションをしましたが、使用したスライドのほとんどは写真でした。招致団の戦略は、IOC役員の心とつながること、東京は安全であり、オリンピックの理念が尊重され、日本はIOCと協力する準備が整っていると確信させることでした。心臓の鼓動と画像を使った日本招致団のビデオを覚えているでしょうか。これは、スライドにあったどの文章よりも効果的でした。なぜなら、心臓の鼓動は全人類にとって共通のものであり、それを見せたことによって、強い日本を再び取り戻し、着実な成功に全力をあげていることが明確に伝わったからです。
Q:
日本人がプレゼンテーションのスキルをどうすれば向上させられるか、最後のアドバイスはありますか。
A:
英語力よりも、聴衆が価値を見出す興味深いアイディアを重視してください。もちろん練習はすべきですし、英語のネイティブスピーカーとの練習であれば理想的です。しかし、ごく基礎的な語学力しかなくとも、誰でも効果的なプレゼンテーションができると私は信じています。ここで学んだ3つのカギを基に自信を付けましょう。そして新たに自信を付けたら、対話形式で聴衆と直接つながって自分のアイディアを伝えましょう。最後に、楽しみましょう!
効果的なプレゼンテーションは聴衆にとってもプレゼンターにとっても胸躍るものです。伝えるという体験を楽しむべきです。

ダニエル・ドーラン(Daniel Dolan)/早稲田大学大学院会計研究科教授

【略歴】
プロフェッショナル・プレゼンテーション、交渉、その他のビジネス・コミュニケーションの授業を担当。企業や政府機関でも研修を行っている。
Email:dan●danieldolan.com
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