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▼東日本大震災特集

早田 宰(そうだ・おさむ)早稲田大学社会科学総合学術院教授 略歴はこちらから

被災地復興 <英知>を結集して

早田 宰/早稲田大学社会科学総合学術院教授

世界を震撼させた「3.11」

 2011年3月11日、日本の東北地方の太平洋沿岸地域を大地震と津波が襲った。地震の規模を表わすマグニチュード9.0、津波の高さ10m以上、被災地の面積5.6万ヘクタールに及び、死者・行方不明者の合計は3万人に達する見込みである。21世紀の世界災害としては、ハイチ地震(2010年)、スマトラ島沖地震(2004年)、パキスタン地震(2005年)、中国四川大地震(2008年)に続く大災害である。何より原子力発電所の被災は世界に大きなショックを与えた。

減災都市づくりの技術を

 日本は災害列島であり、防災都市づくりに永年取り組んできた。普代村では、過去の大津波の教訓から、高さ15.5メートルの防潮堤を11年かけて建設してきた。そのおかげでまちを守ることができた。沿岸部で唯一の事例であるが希望の光である。

 自然の威力はすさまじい。自然の猛威にあがなうような土木技術ではなく、それを受け流すような環境共生型の技術が求められる。仙台は、江戸時代から運河堤をつくり、沿岸部は水田地帯として市街化を抑え、屋敷林のある環境共生型の居住環境を配置し、仙台平野の空間を維持してきた。それゆえ100万人の大都市にもかかわらず津波被害を最小限にできた。今後の復興の街づくりの基本的考え方として、地域のリダンダンシー(冗長性)を高める「減災」まちづくりがキーポイントになる。

先進成熟国の向き合う試練 民の力活かせ

 今回の災害の特徴は、先進成熟国・日本のうち、もっとも減退が進んだ東北地方の社会経済基盤が壊滅的に被災したことである。日本はすでに2005年から人口が減少に向かっている。日本列島“津々浦々”という言葉どおり、かつて東北は漁港や製造業で栄えた。産業構造の転換、高齢化、若者のまち離れが進んでいた。港湾も第一線から退いた小さな港が多い。そのまま復旧するという考え方は放棄せざるをえない。

 日本は、先端技術で成熟社会を豊かにしてきた。新幹線、自動車、漁業、先端技術などが典型である。その生産ライン、物流ルート、電力供給源、通信インフラが壊滅的な打撃を受けた。政府は、直接被害総額は16から25兆円に達すると試算している。民間のダメージも加算すればその何倍にも達する。公債による復興は限界がある。個人総金融資産1000兆円といわれる金融資産、民の力をどう活用するかが鍵となる。

復興グランドデザインと中長期の社会・経済・環境の復興戦略

 新たな財政投融資に見合う力強い東北地方の経済産業を育てていくことが課題である。まずは民間の社会経済資本がどれだけダメージを受けたか、どのような再生ルートがあるのか特定することが必要であるが、これを契機に産業界再編、新たな地域産業クラスターの形成など集中と選択の議論を官民で加速させたい。その上で中長期の社会・経済・環境の総合復興戦略、新たな東北地方のグランドデザインを描くことで力強い道筋が見えてくる。

 壊滅的な打撃は太平洋側だけであり、東北の背骨ともいえる新幹線ネットワークと内陸都市は回復基調である。環日本海側ではアジアの中で存在感のある地域づくりを推進したい。さらに道州制、国土計画、税制など、国の根本的なかたちとしくみを再検討する機会である。

多様なコミュニティの新しい協働

 もうひとつの民の力は、各地で生まれている新しいコミュニティである。自治体まるごとの集団避難に代表されるように多様な人生の選択肢がある。従来の地縁、血縁、職縁とも違う、人と場所の新たなつながりや支援コミュニティが被災地を中心に日本各地で産まれている。ツイッターなどネット社会での情報共有が、自治体、NPO、民間の枠を超えて協働のスピードを加速し、支援や問題解決のパターンを重層化させている。それに反応し、世界から支援や募金も集まっている。一方被災地では、ネットワークの弱い高齢者を中心とした被災者が取り残されていく構図になっている。新しい市民力による問題解決に期待したい。

知識集約の新たなインフラ整備急げ

 人々の共感と納得が得られる復興のためには、<ヒト><モノ><カネ>を動かす<知>が必要である。民の力を総動員で動かそうと思えば、場当たり的な対応ではない、「見える化」した議論が必要である。経済・産業の集中と選択、社会・コミュニティのセイフティネット構築、地域・環境再生に首尾一貫した復興戦略が求められる。

 そのためには、経済、社会、環境の政策担当者、専門家、市民が、分野や世代を越えて双方向で情報共有する「ナレッジ・コミュニティ・インフラ(知識集約社会基盤)」が早急に必要である。産業界、NPO、大学、学会、専門機関等も結集して産官学民の垣根を越えて英知を結集したい。東日本大震災を契機に、日本が知識生産コミュニケーションの新しい段階に入ることができれば、復興を加速することが可能である。

早田 宰(そうだ・おさむ)/早稲田大学社会科学総合学術院教授

1966年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授。専門は「都市再生」「協働のまちづくり」。主な著書に『地域協働の科学』(成文堂)などがある。研究室を中心に中長期社会・経済・環境復興戦略研究チームの活動をしている。

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