早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > オピニオン > 東日本大震災特集

オピニオン

▼東日本大震災特集

岩本 伸一(いわもと・しんいち)早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

大規模停電とその防止対策

岩本 伸一/早稲田大学理工学術院教授

我々は、電気に頼りすぎなのでは?

 たしかに、そのとおりです。今は、電気で開くドア、電気で水が流れるトイレもあり、電気が急に無くなると途方にくれる人も多いと思います。数十年前までは、エアコンが無く、その時の電力会社との契約アンペア数は普通10アンペアでした。一般家庭での電圧は100ボルトですので、電力としては、10アンペアかける100ボルトで1000ワット、すなわち、1キロワットの契約だったわけです。また、夏にエアコンが無かった時代は、暑さのために食欲が無くなり、自然と痩せたもので、今のように、特にダイエットをする必要もありませんでした。今では、一家庭で、エアコンが3台くらいはあると思いますが、エアコン一台で最大消費時約10アンペア必要ということで、契約アンペア数が増えていき、それを加えると、10アンペア+30アンペア=40アンペア(4キロワット)とになります。たとえば、一家庭を4人家族とした場合、夏は4人で4キロワット、すなわち1人で1キロワット必要ということになります。それでは、原子力発電機が一台で100万キロワット供給できるということは、何を意味するのでしょう?それは、その原子力発電機が一台で100万人分の電気を供給できるということなのです。

今夏の電力供給は足りない?

 東京電力に限って言えば、非常事態という言葉しかありません。東日本大震災で、福島第一の原子力機6台が止まり(1-6号機で、合計470万キロワット)、福島第二の原子力機4台(1-4号機で、合計440万キロワット)が止まっています。これらが、今夏再起動することはありえませんので、福島第一と福島第二を合わせて、910万キロワットの電力が想定外で急に無くなったわけです。先程述べたように、夏は1人で1キロワット必要ですので、今回は910万人分の電力供給が突然失われたことになります。東京の人口は約1300万人ですから、東京の人口の約70パーセント分の電力が急になくなったこということです。これに加えて心配なことは、原子力発電所は、13ヶ月毎に定期検査を受けるために止めることが義務つけられており、再起動に当たっては、原子力安全・保安院からの許可と、県知事をはじめとする周辺住民の同意が必要なことです。福島第一の原子力発電所事故の影響で、原子力発電所があるところの県知事や周辺住民が、自分のところにある原子力発電機の再起動に同意してくれるか、これからどうなっていくのか、非常に不透明です。原子力の再起動が難しいなら、火力発電所を至急建設できないのかということになりますが、電力会社の持っている高効率の火力発電所を建設するには、5-10年はかかります。

他の電力会社からもらえないのか?

 北海道電力から約60万キロワット、そして中部電力から(または中部電力を通して)約100万キロワットをもらうことができますが、それ以上はもらえません。東京電力の周波数が50ヘルツで、中部電力や関西電力の周波数が60ヘルツなのでもらえないという話を良く聞きますが、それは誤解です。周波数を50ヘルツから60ヘルツ、60ヘルツから50ヘルツに変換すれば、互いに電力をもらうことはできます。現在、中部電力から(または中部電力を通して)約100万キロワットもらうことができます。ただ、これしかもらえない理由は、中部電力と東京電力を結ぶ連系線(送電線)の容量が約100万キロワットしかないからです。連系線の容量というのは、水道管の太さみたいなものです。水道管が太ければ多くの水が流せますが、細ければ少しの水しか流せません、これと同じです。それでは、その連系線(と周波数変換設備)を増設すればよいではないということになりますが、それには、約10年の期間と約1000億のお金が必要といわれています。特に、連系線(送電線)建設に当たっては土地買収や土地使用の問題があり、非常に長い期間が必要となります。

普通の停電と今回恐れられている大規模停電とは何が違う?

 一番の違いは、普通の停電の場合は十分な供給力があり、今回恐れられている大規模停電の場合は、十分な供給力が無いということです。たとえば、電線が何らかの理由で切断されて、変電所(とそこから電気を受けている家庭)が停電になったとします。その時どうするかというと、他の切断されていない電線から電気を受けれるように、系統切替という作業を行えばよいのです。家庭であれば、あまり考えられない例ですが、あるコンセントが使えなくなったら他のコンセントを使えばよいというのと同じです。手動でやる時もありますし、自動でやる時もありますが、変電所での手動での系統切替には一箇所当たり10-15分かかります。少し前に、クレーン船のクレーンが送電線に接触して停電になりましたが、あの時は、5箇所の変電所が停電し、復旧に59分を要しました。どうして59分かかったかは、これで納得できると思います。それに対して、今恐れられている大規模停電は、十分な供給力が無くなったときに起きます。すなわち、電力の供給と需要のバランスが取れなくなったときに起きるのです。電気の品質は「一定の周波数と一定の電圧で」で計られますが、今回は特に、周波数が問題となります。ちなみに東京電力管内の周波数は、先にも述べたとおり50ヘルツです。

周波数が50ヘルツとは?

 発電機の中では、N極とS極を持った磁石が、特に火力では毎秒50回転して電気を起こしています。一回転すると一サイクルの電気が生じます。毎秒50サイクルする電気を50ヘルツの周波数の電気と言います。東京電力管内では、すべての発電機が50ヘルツの周波数の電気を出すように回っていますが、負荷(需要)が重くなると周波数は下がっていきます。周波数が50ヘルツという前提で、すべての電気機器は製造されており、周波数が下がり過ぎると製品にムラが生じるなどの不具合が発生するだけでなく発電機の軸を回しているタービンにも悪影響が出てきます。したがって、定常状態においては、東京電力管内の周波数は50±0.2ヘルツ以内になるように制御されています。そして、負荷(需要)が重くなりすぎて周波数が下がり過ぎると、保護リレー装置であるUFR(不足周波数リレー:Under Frequency Relay)がその周波数低下を検知し、遮断器(ブレーカー)に動作信号を送って、遮断器(ブレーカー)を開くことによって負荷(需要)を軽くします。こうやって停電が起きるのです。これが連鎖的に起こると大規模停電になります。たとえば、48.Xヘルツになった時にA万キロワット負荷遮断(停電)、48.Yヘルツになった時に加えてB万キロワット負荷遮断(停電)というように停電が起こっていきます。

大規模停電になると早く復旧できない?

 早急には無理です。2003年の北米大停電の時は、約丸2日かかりました。この時の大停電の規模は、東京電力の夏総需要とほとんど同じの6200万キロワットでした。ただ、この北米大停電で、復旧にこれだけの時間がかかったのは、そこでの、電力供給システムが日本とは異なり、発電会社、送電会社、系統運用会社が、すべて別会社であったことも理由のひとつと考えられます。多分、東京電力でしたら、もっと早く復旧できるでしょう。復旧に当たっては、電力会社の中で周波数を見ている箇所が、変電所に指令を出して、遮断器(ブレーカー)が入れられていくことになりますが、需要に見合った供給力があるかどうかをチェックしながらの作業になり、供給力が無いときは、無いものは無いということで停電は続くことになります。

大規模停電を起こさないためには?

 早急に対策をという時は、計画停電(一般には輪番停電と言う)しかありません。したがって、これが今回実行されましたが、ご存知のように、電車、信号、工場、病院等で、色々な問題が発生しました。同じ区内においても、隣の家では電気が点いているのに自分の家では停電しているとの不満が聞かれましたが、これは、どの変電所に自分の家がつながっているかで決まるものでした。計画停電でない別のやり方はないかというと、総量規制というやり方があり、今夏は、主にそれが実行される予定です。大まかに言えば、最大電力(キロワット)と最大電力量(キロワット時)を決めて、それを守るということです。たとえば、工場でしたら、24時間を3つに分けて8時間ごとに3グループで働くことによって、使用電力を平滑化しピーク電力を減らすことができますし、それができないところは、ピーク電力のカットだけはして、瞬時の最大電力を減らすようにします。

どうやって、大規模停電を防止するか?

 一番効果があると考えられるのは、この記事の最初でも述べたエアコンの使用を止める事です。エアコンは、最大消費時約1キロワット(設定温度到達後は約6分の1)の電気を使います。これに比べて、扇風機は30cmのもので約30ワットしか必要としません。参考までにエアコンの設定温度を一度上げて扇風機を併用すると電力が約10パーセント減になると言われています。次に考えられるのが、照明です。白熱灯や蛍光灯をやめて、LED電球を用いることが効果的です。他には、温水洗浄便座は止める、自販機は切る、湯沸しの保温はしない、窓に遮熱フィルムを貼る等の対策もあります。特に、企業・大学等として何ができるかですが、それは、まず、最大電力と最大電力量を監視・制御する人を決めて、その人が電力使用カーブを監視し、たとえば最大電力に近くなったら、緊急アナウンスを流す等の行動を起こすことです。エアコン電源は、他とは別の回路にしておいて、監視・制御できればベターです。もし、大規模停電になった時は、エレベータに特に気をつけなくてはなりません。急に停電になった時に、エレベータの緊急作動装置がきちんと働いて閉じ込め状態にならないか、事前に十分にチェックしておくことが重要です。東京電力も大規模停電を回避するために供給力の積増しだけでなく、他のこともすべきでしょう。たとえば、大規模停電になりそうになったら、需給カーブをはらはらしながら見ているだけでなく、至急に、テレビでテロップを流すとか、緊急電力速報のようなものを流すべきだと思います。そのような緊急ニュースが流れれば、市民も電気の使用をすぐに落とし大規模停電を防げると思います。

最後に注意すべきこと

 今、東京電力の電力供給力が、段々増えていって東京電力が想定した今夏の需要5500万キロワット以上になったことが報道されています。この記事の前半に、火力発電所新設や送電線増設には、5-10年かかり、急にはできないと書きましたが、どうして、東京電力の電力供給量が増えていっているのでしょう?たしかに、休止火力の再起動、震災で被害を受けた火力発電機の復旧、ガスタービン発電機の新設もありますが、多くは、揚水発電というものを供給可能な発電力として算入してきたからです。揚水発電とは、山の上と下に池を作って、夜は主に原子力発電機の電力を用いて下池から上池に水をポンプアップし、昼はそれらの水を必要時に上池から下池へ流すもので6時間程度しか発電できません。24時間使用できる原子力発電とは違うのです。震災直後は、本当に夜間使える電力もあまり無かったのですが、それから火力機が段々復旧してきて、それとともに夜間に貯れる水量が増え、最新の発表では揚水発電によるものが650万キロワットあると書かれています。ただ、この意味は、単純ではありません。今までは、揚水発電は、COの排出量が非常に少ない原子力発電で行われたものですが、現在は、休止中だった老朽火力発電等を用いてやるということで、多くのCOを夜間に排出し、いつ故障するかわからない老朽火力をかなり用いるのです。したがって、震災前の電力供給力の数値と、今回の電力供給力の数値ではその質が違うということ、そしてその数値にはかなりの不確定さがあることをよく理解しておく必要があります。大震災を受けた東北電力も今夏は電力が足りなくなることが予想され、東京電力で少しでも余力ができれば東北電力を助けることもできます。我々のできることは、まず、東京電力管内で大規模停電にならないように節電に努力すること、そしてできれば東京電力が東北電力を助けれるような状況を作ることです。それには、我々が、今夏、できる限りの節電をすることが非常に重要なのです。

岩本 伸一 (いわもと・しんいち)/早稲田大学理工学術院教授(先進理工学部 電気・情報生命工学科)

【略歴】
専門は、電力システム工学、特に電力システムの系統運用・制御。
現在、電力系統利用協議会の理事ならびに運用委員会委員長。

1971年 早稲田大学理工学部電気工学科 卒業
1972年 奨学金を得て米国 Clarkson University大学院に留学
1974年 米国 Clarkson University大学院 修士課程修了(米国修士号取得)
1975年 早稲田大学大学院理工学研究科 修士課程修了
1978年 早稲田大学大学院理工学研究科 博士課程修了(工学博士号取得)
東海大学工学部 専任講師
1982年 早稲田大学理工学部 助教授
1986年 早稲田大学理工学部 教授
1988年 カナダUniversity of Waterloo客員教授(3ヶ月間)
1992年 米国 University of Washington客員教授(1年間)

主に電気学会において活動。1986年度 電気学会論文委員会主査(電力・エネルギー部門)。1988年度 電気学会編修企画委員会主査(電力・エネルギー部門)。1990年度 電気学会編修理事。1996年 CIGRE SC39(電力系統の運用と制御)日本代表。2002年 米国電気学会送配電国際学会プログラム論文委員会委員長。2004年電力系統利用協議会(中立機関)運用委員会委員長。2004年経産省資源エネルギー庁新エネルギー部会風力発電系統連携対策小委員会委員。2009年電力系統利用協議会理事

研究室HP:http://www.eb.waseda.ac.jp/iwamoto/