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谷口 真美

谷口 真美(たにぐち・まみ) 早稲田大学商学学術院教授 略歴はこちらから

ダイバシティ・マネジメント
―経営成果を上げるためには―

谷口 真美/早稲田大学商学学術院教授

表層と深層 2つのダイバシティ

 ダイバシティとは、性別、年齢、人種・民族の違いだけと誤解されることが多いようです。しかしながら、正確には、個人の持つあらゆる属性が、ダイバシティの次元となります。例えば、居住地、家族構成、習慣、所属組織、社会階級、教育、コミュニケーションスタイル、マネジメントスタイル、性的指向、職歴、年齢、世代、未既婚、趣味、パーソナリティ、母国語、肌の色、宗教、学習方式、外見、収入、考え方、国籍、出身地、役職、身長、体格、勤続年数、勤務形態(正社員・契約社員・短時間勤務)、服装、社会経済的地位、身体的能力など、人のほとんどの属性がダイバシティの次元に含まれます。

 ダイバシティの次元は、表層的か深層的かにより2つに大別することができます(谷口2005)。

 表層的ダイバシティは、文字通り外見で識別可能なものです。例えば、性別、年齢、人種・民族などがあげられます。

 一方、深層的ダイバシティは、外見からの識別が困難です。そこには、パーソナリティ、考え方、習慣、趣味、職歴、スキルレベルなどといった内面的な特性が含まれます。

 ダイバシティの代表的な定義においても、表層・深層の双方を含んだ形になっています。「ダイバシティとは、ワークユニットの中で相互関係を持つメンバーの間の個人的な属性の分類のことを指す。その属性とは、たやすく目に付く性別、年齢、人種・民族という特徴だけでなく、よりその人を知った上で明らかになる属性、個性、知識、価値観、さらには教育や勤続年数、さらには職歴といった仕事に直接関連のあるものなどもその属性に含まれる」(Jackson et al 2003)。

 もちろん、読者も既に気づいているかもしれませんが、日本での議論の中心は、もっぱら表層的なダイバシティです。人口減少という避けられない企業の外部環境の変化が課題され、潜在的な労働力として、女性、高齢者、外国人が期待されているからでしょう。

1人ひとりの能力・経験に着目を

 ダイバシティの次元を表層だけに限らず、深層にまで拡大することで、次の点に気づくことができます。第1に、法律だけが職場における人材の多様性に関心を向けさせる唯一の要素ではない点です。女性、年齢、人種・民族、身体障害といった表層に着目すると、「雇用機会均等法」の対象か否かという法律遵守の面ばかりが着目され、「女性」イコール、「家事負荷を持つ人々」、「出産育児に伴う休暇・短時間勤務・再雇用」のための福利厚生制度の整備といった、組織にとってコストとなる面がクローズアップされがちです。しかし、1人ひとりのスキルや能力、経験といった「深層のダイバシティ」に着目すると、ダイバシティが、組織に何をもたらしてくれるのかを考えるきっかけを与えてくれるのです。

 第2に、「表層」が同じであっても、「深層」が異なっている場合がある点です。ステレオタイプに基づく一元的な管理では、本当の意味で、ひとりひとりをいかすことはできないのです。

不適格な昇進・離職の要因となる企業行動

 ダイバシティに対して企業の取り得る行動は、「抵抗」、「同化」、「分離」、「統合」の4つに分類することができます。(図表1 ダイバシティに対する企業行動)

図表1 ダイバシティに対する企業行動

図表1 ダイバシティに対する企業行動

 多様性をコスト、リスクと考え、何の行動も起こさず回避しようとする「抵抗」。法律遵守を目的とし、現状の組織や文化を変革せずに、女性や外国人といった少数派を現状に取り込もうとする「同化」。ビジネス上の成果向上を目的とし、違いを認めて、その違いがいきる分野でのみ少数派を活用しようとする「分離」。そして、多様性の価値を認め、それを変革の資源として競争優位性につなげる「統合」。最後の「統合」となって、企業は、本当の意味でダイバシティのベネフィットを得ることができるのです。

 ビジネス上の成果を目指す「分離」や、多様性を変革の資源とし、企業価値向上を目指す「統合」のパラダイムをとる代表的な企業に、松下電器産業などがあります。しかしながら、それは、日本では例外的な企業で、ほとんどの企業は「雇用機会均等」や「ポジティブ・アクション」の文脈で取り組みを行っているようです。

 もちろん、すべての企業が「統合」、すなわち組織変革を伴いながらダイバシティに取り組む必要はありません。事業領域や市場の特性など置かれた環境によって、ダイバシティに対する適切な態度は変わるからです。

 問題なのは、「多様性重視」や「企業価値創造」を対外的にうたっていても、実際には、既存の組織の変革を伴わず、「同化」のパラダイムとなってしまう企業でしょう。このことが、少数派の不適格な昇進や離職を招き、うまくいかない要因を企業は、個々の少数派の低いモラルにおくことにつながってしまうのです。

求められる既存組織の変革

 ダイバシティ・マネジメントとは、ダイバシティを用いて組織やチームのパフォーマンス、つまり経営成果を向上させるマネジメント手法のことをさします。

 ダイバシティ研究者のほとんどは、「ダイバシティで経営成果を向上させるためには、既存の組織を変革しなければならない」という点で一致しています。競争優位性が得られるのはダイバシティそのものからではなく、ダイバシティを促進する外部環境と、ダイバシティを活用することができるような組織内部のシステムとの間の整合性を作り出すことからだという主張もなされています(Dass & Parker 1996)。

 多くの企業が、周辺的な制度や施策の整備にとどまることなく、業務プロセス全体を見直し、新規市場開拓や多様な人材を組み込んだ生産性向上など、真の意味での人材の多様性をいかす試みを推進していくことを期待しています。

谷口 真美(たにぐち・まみ)/早稲田大学商学学術院教授

【略歴】

1996年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士号取得。広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻、助教授を経て、2003年より早稲田大学大学院商学研究科助教授(2007年4月学校教育法により、准教授に改称)。2008年4月より現職。2000~2001年、米国・ボストン大学大学院組織行動学科エグゼクティブ・ラウンドテーブル客員研究員。著書に『ダイバシティ・マネジメント』(白桃書房)、共著書に『ジェンダーと企業経営』(東洋経済新報社)など。