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白木 三秀(しらき・みつひで) 早稲田大学政治経済学術院教授・留学センター所長 略歴はこちらから

外国人留学生の採用活性化を求めて
~グローバル競争時代の人材獲得~

白木 三秀/早稲田大学政治経済学術院教授・留学センター所長

1.視点

 外国人労働者の受け入れ目的については、2002年に厚生労働省「外国人雇用問題研究会」の報告書が出ており、そこでは、これから日本の経済を活性化するには、高いスキルを持った「高度人材」にいかに日本に来てもらうかということが問題意識の底流となっている。このスタンスは現在も同様である。

 重要な点は、外国人人材の活用と労働力減少とを直接結びつけてはいけないということである。長期的な日本経済の成長のために生産性を向上させ、日本の経済を支えてもらうべく、基幹的なところに外国人人材に入ってもらいたいというのが外国人人材受け入れに対する筆者の基本的スタンスである。

 グローバル競争の時代を迎え、世界の企業は国境を越えて優秀な人材の獲得に奔走している。しかし、日本企業の大部分はその競争に出遅れている。一方、日本で学んだ留学生の多くが、卒業後はそのまま帰国してしまう。本小論は「量より質」という視点から留学生をどのように日本企業で受け入れ、納得のいく形で国内に定着してもらうかという点について考察する。

2.企業は留学生を本当に必要としているのか?

 そもそも、専門的スキル・知識を有する外国人労働者が十分には日本に来てくれず、それら人材の予備軍である留学生の日本企業への就職率もその卒業生の半分にも満たない水準にあるということの事実認識から議論を始める必要がある。企業あるいは日本社会にはどのような対応が必要なのだろうか。

 「平成18年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査報告」(独立行政法人 日本学生支援機構)によると、留学生の卒業(修了)者は35,000人で、うち博士課程2,596人、修士課程6,850人、学部12,196人、専修学校(専門課程)10,354人などとなっている。このうち、日本国内就職者の卒業(修了)者全体(ただし不明は除く)に占める比率は29.3%である。同比率は在学段階により異なる。とりわけ専修学校(専門課程)の同比率がとりわけ低いが、それは上級学校への進学率が56.8%と高いためである。

 このように日本の高等教育を卒業した留学生の日本国内就職者率は29.3%にとどまり、後は、日本国内進学39.5%、出身国へ帰国20.3%、第三国へ移動0.8%、その他(卒業後引き続き就職 の者等を含む)10.1%などとなっている。

 いずれにせよ日本の大学・大学院等を卒業し、日本国内へ就職する者は9,411人であり、卒業後引き続き就職活動中の者等の3,242人を加えると広義の日本国内就職者数は、12,653人(卒業(修了)者の36.2%)となる。これら日本国内への就職者は、在留資格がこれまでの「留学」から「人文知識・国際業務」(文系)、または「技術」(理系)に変わることになる。

3.留学生の採用と定着の決め手は何か?

 企業・留学生間に存在するミスマッチの問題があるが、採用上、企業は強い立場にあるのであり、やはり企業の方で工夫をして良い人材に来てもらって定着してもらえるような雇用管理を心掛ける必要があるだろう。

 第1は募集採用における採用枠組みの拡大とキャリアの多様性の構築努力である。多くの企業、特に日本の一部上場クラスの企業は、留学生の採用枠を作っていない場合が多い。単に新卒募集をして、応募者のうち評価結果の上位者から採っていくというスタンスである。そしてまた、数年したら母国に帰りたいと率直に本音を言った留学生は、それだけで不採用となる。長期雇用前提が現状とは言え、そのような懐の浅さが残る限り、外国人人材の採用は困難となる。「3、4年だけの勤務でも構わない。ただ、あなたはその期間内にわが社に貢献してほしい。その後のキャリアはグループ企業全体を通じて考えてみよう。」というような、懐の深い採用あるいは雇用のシステムを準備する必要がある。そうでないと良い人材は採れない。

 第2に、意思疎通の改善と仕事の進め方については、企業側留学生側双方ともより努力すべきところがある。経済産業省が進める「アジア人財資金構想」の1つの眼目は、日本の企業の中での意思決定の仕方、仕事の進め方、それにコミュニケーションのあり方とかを留学生に知ってもらおう、そのために産学が共同して個性のあるプログラムを開発しようという点にある。資質は良くても、話し方や行儀作法で日本社会に受け入れてもらえず、損をしている人が多いのである。

 第3に、留学生は転職率が高いという先入観が行き渡っているようであるが、それは偏見や統計的差別である場合もある。同時に企業は、彼らのモチベーションの向上とその維持にどれだけ成功しているかが問われていると考えるべきであろう。日本企業は海外に行っても同じような問題を抱えている。例えば、中国やインドでは、高度成長時代が持続しているため労働移動率は高まりやすい。チャンスが多くあるため、アンビシャスで能力の高い人ほど移動する。問題はそのために適切な施策が打ち出されているかどうかということになる。

4.留学生側の課題

 留学生の方に問題はないのかというと、そうでもない。留学生は、それなりの問題意識を持って日本に来ており、自分の能力を高め、可能性を広げたいというモチベーションが高く、将来についてアンビシャスでもある。同時に、彼らには大企業、有名企業志向が強過ぎるという問題がある。しかし、彼らが将来母国に帰った後の次のステップを考えると、よく知られた名前のある企業に入っておいた方が得という計算があり、これにはやむを得ない面もあろう。

 しかし、日本には中小・中堅企業の中に世界的な良い企業がたくさんあるということも彼らによく知ってもらいたい。そうでないと、彼らは大企業で就職が決まらないと日本での就職をあきらめて帰国してしまう。これは人的資源の喪失以外のなにものでもない。

 独立意識の高い留学生には、実は中小企業で就業経験を積むことの方が将来の起業やベンチャー・ビジネスの立ち上げの際に有力なノウハウを蓄積できるということを知ってもらいたい。中小企業では担当する仕事範囲が若いうちから広く、それだけ短期間に多くの経験を積むことができるからである。中小企業も十分に努力して彼らにこの点をアピールする必要がある。同時に、行政側もそれら中小企業の技術力、経営力の高さを十分、留学生に浸透させるような施策やきっかけ作りをこれまで以上に構想すべきであろう。

 もちろん、規模の大小を問わず日本企業は、モチベーションが高く、アンビシャスでもある留学生に対して、日本人学生に対すると同様、シニア・マネジメント以上までの昇進可能性を明示的に示す必要があるだろう。それにより彼らを引きつけるべきである。それが実現することにより、留学生を将来の本社ならびに海外子会社のマネジメント層として育成・活用する可能性が広がり、結果として、経営資源が本社だけに偏らない日本企業の「トランスナショナル組織」への移行が着実に進むことになる。

 このようにして留学生に対して日本企業でのキャリア形成の可能性が広がるわけであるが、そのためにはそれに応じられるだけの資質を持つ留学生の日本への引きつけが重要になるだろう。ここで、行政と大学の大きな役割が存在する。

ご参考
厚生労働省「外国人雇用問題研究会報告書」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/07/tp0711-1.html
日本学生支援機構「平成18年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査報告」
http://www.jasso.go.jp/statistics/intl_student/data07_d.html
経済産業省「アジア人財資金構想」
http://www.meti.go.jp/policy/asia_jinzai_shikin/index.html
入国管理局「平成18年における留学生等の日本企業等への就職について」
http://www.moj.go.jp/PRESS/070720-1/070720-1.pdf
日本労働研究・研修機構「外国人留学生の採用に関する調査」
【概要】http://www.jil.go.jp/press/documents/20080403.pdf
【全文】http://www.jil.go.jp/institute/research/2008/042.htm

白木 三秀(しらき・みつひで)/早稲田大学政治経済学術院教授・留学センター所長

【略歴】

1951年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。国士舘大学政経学部助教授・教授等を経て、1999年4月より早稲田大学政治経済学部教授。2005年より同大学政治経済学術院教授。労働政策審議会委員、日本労務学会副代表理事等を兼務。

【最近の著訳書】

『チャイナ・シフトの人的資源管理』(編著)(白桃書房、2005年)
『国際人的資源管理の比較分析』(単著)(有斐閣、2006年)
『内部労働市場とマンパワー分析』(監訳)(早稲田大学出版部、2007年) 以上