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野口 智雄(のぐち・ともお) 早稲田大学社会科学総合学術院 略歴はこちらから

魔法の商品、プライベートブランド

野口 智雄/早稲田大学社会科学総合学術院

素晴らしい販売成果

 今年、プライベートブランド(以下、PB)が大注目を浴びた。

 日経MJ新聞(日本経済新聞社)が12月3日に発表した「2008年ヒット商品番付」でセブン&アイグループの「セブンプレミアム」とイオングループの「トップバリュ」が西の正横綱に選出された。無論、どちらも小売業者がメーカーに仕様書発注して作らせたPBである。

 実際、販売成果も目を見張るものがある。イオングループではトップバリュと並ぶPBの「ベストプライス」の売上高が昨年比、食パンで5倍増、カップラーメンで3倍増を記録したという。そしてこれまでPB開発に消極的だといわれてきたセブン&アイグループも昨年5月に上記「セブンプレミアム」を開発し、わずか1年で380アイテム、売上高約800億円を稼ぎ出しているとのことだ。筆者は、たまたま以前、『価格破壊時代のPB戦略』(日本経済新聞社)という本を上梓したことがあるためか、マスメディアからこの分野の取材を複数いただいた。

PBの歴史

 一般にPBというと、比較的最近開発され始めた新しい商品のようなイメージを受けるかもしれない。しかし、この種の商品はわが国でも長い歴史を有している。百貨店の大丸がオリジナルスーツ「トロージャン」を世に登場させたのは1959年のことである。そして、スーパーのダイエーが缶詰の「ダイエーみかん」を開発したのはその翌年の1960年のことであった。

 PBは元来、ナショナルブランド(以下、NB)と比べた場合の「割安感」や「お買い得感」を実感してもらうために創り出されたものである。そのため、「低価格」が最大のアピールポイントで、景気低迷期にブームになってきた。歴史を振り返ってみると、円高不況の進行した1980年代中頃にはダイエーが「ニューセービング」、「愛着仕様」、「COLTINA」を、ジャスコが「シンプル・リッチ」を、ニチイが「生活発シリーズ」を発売している。また、バブル崩壊後の90年代前半の不況期には、ジャスコが「トップバリュ」を、西友が日本初のPBビール「BEER OH!」を開発している。

ブームの背景

 昨今のPBブームの背景も、過去とほぼ同様だ。「サブプライム問題」を引き金とする米国発の金融危機により、「100年に1度」といわれるほど深刻な世界同時不況の大津波に日本も飲み込まれている。勤労者の賃金カットや大量失業の発生により日本の国民の可処分所得が大幅に減少し、彼ら/彼女らは財布のひもをこれまでになく堅く締めている。このような厳しい経済情勢が国民をして「生活防衛」の気運を高め、NBと比べて割安のPB購買へと走らせているのである。

 またPBブームの背景には、商品としての「質の向上」も上げられる。かつてPBというと、「安かろう、悪かろう」の代名詞のような商品であった。確かに価格は安かったけれど、品質面では鋭い日本の消費者のニーズを必ずしも満足するものではなかった。この点には小生自身、過去に苦い経験がある。とある大型小売店のPBの洗濯用粉石鹸が類似のNBに比べ、半分以下の値段だったので、喜んで買ってきた。そして早速使ってみると、それはほとんど水に溶けず、まったく洗濯の用をなさなかったのだ。

 過去のPBはこの例のように、低価格の代償としてなんらかの「いわく」があった。開発から50年近くを経ているにもかかわらず、未だ全小売売上高の5%程度のシェアと、さほど大きな勢力に成長しなかったのがその証左ともいえる。

 ところが、最近開発されているPBは明らかに品質の向上がみられる。大手小売グループが販売するPBの品質は、NBと比べて遜色ないか、並のNBより優れているといっても過言ではない。その理由は、過去のPBと異なり、今のPBは一流メーカーがOEM供給しているからだ。加えて、商品作りにあたっては、小売業者が消費者目線で鋭い要求をメーカー側に突きつけているからである。

一流メーカーが作る理由

 さて、それではなぜ現在のPBは一流メーカーが作っているのであろうか。PBの開発に専心し、売上高が伸びれば、当然のこととしてメーカーのレゾン・デートルともいえるNBの売上高が減少してしまうことになる。両商品間でカニバライゼーション(共食い現象)を引き起こしてしまうからだ。

 だが今日、一流メーカーがあえてPB作りに励む理由には主に次のようなものが挙げられる。

 まず、PBは小売業者からの「特注品」であるため、原則的に返品がない。注文を受けた数だけ、必ず捌けるのだ。現在のようにモノが売れない時代に「完全買取り」は生産計画を立てやすくし、確実に売上げが取れるのでメーカーにとって非常に有り難いことである。

 またPBの場合、プロモーションコストがほとんどかからなくてすむ。メーカーがNBを売ろうとする際にはテレビCMをはじめとする大量広告を露出する必要がある。それには当然多額のプロモーションコストがかかる。NBの原価構成をみると通常、プロモーションコストが全コストのうちの3割から4割を占めているといわれる。PBではこの部分のコストがほとんどかからなくてすむのだ。

 これらのメリットがあるため、一流メーカーも昨今、PB作りに積極的なのである。未曾有の大不況によってモノが売れないこのご時世、消費者にも、小売業者にも、そしてメーカーにもメリットをもたらすPBは、まさに「魔法の商品」といえるかもしれない。

野口 智雄(のぐち・ともお)/早稲田大学社会科学総合学術院

【略歴】

早稲田大学社会科学部教授。1984年、一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位修得。その後、横浜市立大学助教授を経て、92年に早稲田大学助教授。93年から現職。88年に『現代小売流通の諸側面』 で日本商業学会賞を受賞。2006年3月から2008年3月まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部で主に米国小売業の研究を行う。著書に『流通 メガ・バトル』(日本経済新聞社)、『I型流通革命』(講談社)、『価格破壊時代のPB戦略』(日本経済新聞社)などがある。