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江澤 雅彦(えざわ・まさひこ)早稲田大学商学学術院教授 略歴はこちらから

3メガ損保時代の到来ーそのねらいと契約者利益ー

江澤 雅彦/早稲田大学商学学術院教授

(1)損保が2度目の再編を迎える

 2010年春をメドに、三井住友海上グループホールディングス、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険の3社、さらに損害保険ジャパンと日本興亜損保の2社がそれぞれ経営統合され、これら新たに誕生する2大グループに、これまで業界トップであった東京海上ホールディングスを加え、わが国損保業界は、いわゆる「3メガ損保」の時代を迎える。売上高に相当する正味収入保険料は、いずれも2兆円を超える。1990年代、損保業界には上場十数社が存在したが、1998年の保険料自由化(算定会料率の遵守義務廃止)を契機に2001年から2002年にかけて再編が進み、大手6社に集約され、今回10年をまたずに更なる経営統合が行われることとなった。これまでの統合の経緯と、新しい3大グループの規模を正味収入保険料と総資産で見たのが下記である。

今後の損保業界(ゴシックは2008年3月期)

【第1グループ】
住友海上+三井海上→三井住友海上(2001年10月)
大東京火災+千代田火災→あいおい損保(2001年4月)
同和火災+ニッセイ損保→ニッセイ同和損保(2001年4月)
以上3社の今般の統合により、正味収入保険料2兆7,307億円 総資産12兆5,990億円

【第2グループ】
東京海上+日動火災→現・東京海上HD
正味収入保険料2兆2,451億円 総資産17兆2,832億円

【第3グループ】
安田火災+日産火災(2002年7月)
安田火災+大成火災(2002年12月)→損保ジャパン
興亜火災+日本火災→日本興亜損保(2001年4月)
以上2社の今般の統合 正味収入保険料2兆673億円 総資産9兆7,738億円

 こうした背景にあるのは、厳しい経営環境である。自動車販売や輸出入の不振といった経済不況の波は、それに関連する保険販売の低迷を引き起こし、2008年度の速報値ベースでも、大手6社のうち5社が減収となっている。また米国発の金融危機も業績に悪影響を及ぼしている。たとえば損害保険ジャパンは、証券化商品の元利払いを保証する「金融保証保険」の損失計上で、09年3月期の純損益の予想が赤字に陥っている。

(2)何を目指しての再編か

 このような状況を打開するために、2つの視点の下、経営統合という意思決定が下されたと考えられる。

 第1の視点は、「守り」すなわち、経営効率化によるコスト削減である。社会的な批判も浴びた「保険金不払い問題」の再発防止も各社にとって急務であり、それにともなうシステム・コストが膨らみ、収益を圧迫している。そこで、経営統合により、損保本社と代理店をオンラインで結んで契約情報を共有する代理店システムや損害査定システムがグループ内で共通化され、コスト削減が図られることとなる。また「出口の商売」といわれる損保業にとって重要な損害査定も一部共同で行い、査定費用削減に向けた努力がなされる。

 当面合併はせず、持ち株会社に2社が並列でぶら下がるという損保ジャパンと日本興亜との経営統合について、再編効果が削がれるのではないかとの指摘があるが、損害保険ジャパンの佐藤正敏社長は、「(事務やシステムなど)バックオフィスを共通化すれば効果を上げられる。」と述べている。また各社でばらばらであるために、特に乗り合い代理店から処理の煩雑さが指摘されている保険商品の申込書の統一化や、支社と代理店で重複する事務の合理化を図る考えを示した。こうした措置を講じることで、両社で合計630億円あるシステム費を約150億円減らすことを目指し、年間1,000億円に上る損害調査コストも圧縮する方針であるという。

 第2の視点は、「攻め」すなわち、互いの企業顧客を共有化した上での販売拡張である。すなわち、三井住友海上、あいおい損保、ニッセイ同和の経営統合では、それぞれ、三井住友グループ、トヨタ自動車、日本生命といった関連企業あるいは親密企業を有しており、それらを有効活用することで新たな市場の開拓につながる可能性がある。ただ、たとえば、 三井住友海上にとっての住友生命、ニッセイ同和にとっての日本生命のような親密生保を販売経路としてみた場合、「将来は各社に供給する商品は1つにする」(江頭敏明三井住友海上社長)といったグループ内での利害調整がスムースに進むか否か疑問の残るところである。

 また、損害保険ジャパンと日本興亜の経営統合の場合、両社ともに損害保険分野で厚い営業基盤を有しているとされるが、前者は強力な代理店網による自動車保険や火災保険の販売、後者は地方銀行など金融機関を通した保険販売といったように、その「得意分野」が異なるため、それらを相互補完することでシナジー効果が期待できよう。

(3)契約者にとってのメリットはあるか。

 前述のとおり1998年の保険料自由化をきっかけに、第1次の業界再編が展開された。しかしながら、各社のとった競争行動は、保険料率の引き下げよりむしろ、保険商品の内容の多様化・複雑化、具体的には種々の特約付加であったと考えられる。結局それが、消費者さらには販売代理店等の保険商品に関する理解不足をうみ、「保険金不払い、保険金支払い漏れ」へと繋がっていったと考えられる。

 こうした過去の経験を教訓として、今回の再編が真の意味での消費者利益の実現、すなわち3大グループ間の価格面・商品面での適正な競争により、安価な保険料で、顧客ニーズに合致した保険商品の提供が可能になるシステムの構築に寄与することを望みたい。

江澤 雅彦(えざわ・まさひこ)/早稲田大学商学学術院教授

【略歴】

1960年東京生まれ。1983年早稲田大学商学部卒業。1991年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程満期退学。2001年博士(商学)早稲田大学。2004年より現職。生命保険論、保険論等を講義。2005年4月より2年間、ドイツ・ケルン大学保険学研究所客員教授。日本保険学会理事。

【最近の著書・論文】

・共著『保険論 第2版』成文堂(大谷孝一編著)、2008年10月。
・論文「ドイツの保険会社格付けについて」『生命保険論集』第163号(2008年6月)。
・論文「ドイツにおける契約者配当の透明性」『生命保険経営』第76巻第1号(2008年1月)。