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塚本 壽雄(つかもと・ひさお)早稲田大学政治経済学術院教授 略歴はこちらから

さあ、これからだ!
~未知のゾーンに臨む新政権

塚本 壽雄/早稲田大学政治経済学術院教授

 総選挙の結果、政権交代が実現した。国民の多くがそこから生まれるものに大きな期待を寄せている。同時に、新政権、新たな野党、そして国民はそれぞれ未知のゾーンに踏み込むこととなった。そこに待つものは何であろうか。

今次総選挙と政権交代の意味

 今回の総選挙で、やっと正統性のあるかたちでの政権交代が実現した。政権の投げ出し・交代の連続は国民の間に言い知れぬ無力感と閉塞感を与え、政治不信・政治離れを加速した。今回で、そうした悪しき慣行に終止符が打たれることが何より望まれる。

 また、1996年の選挙制度改正以降最高となった投票率は政治の将来に大きな希望を与えるものである。若い世代の積極的な参加も目立った。若者が良い意味での「政治好き」になってもらえるきっかけになったとすれば喜ばしいことである。

 さて、政権交代によって、民主党は国民のために望ましいと考える政策を実行することの委任を受けることに成功した。国民は何をどのように委任したのであろうか。

 今回、国民が選挙で選択したのは、希望の持てる日本の進路をどう作れるかという点での政党の能力であったと考えてよい。しかし、その選択は決して積極的なものではなかった。その理由として、各党のマニフェストが本来国政マニフェストで示されるべき政権の理念やビジョンを欠いており、政権選択に資するものでなかったことがあげられる。代わって、「変化」そのものが選択の軸となった。しかし、その裏で国民は第一党となった民主党の能力がこれまで試されていないことも承知している。したがって、国民の委任は決して完全委任ではなく、新政権はいわば「お試し政権」なのである。

総選挙党派別当選者数
  当選 公示前
民主 308 115
自民 119 300
公明 21 31
共産 9 9
社民 7 7
国民 3 4
みんな 5 4
改革 0 1
日本 1 0
諸派 1 1
無所属 6 6
合計 480 478(欠員2)

(注)諸派は新党大地

学習の一年の始まり

 新政権にとっては、どうやら来年の参議院議員選挙までが「お試し期間」ということになる。国民からの全幅の信頼をもらえる力があることを、実績で示さねばならない。野党は新たな立場から政権受任能力を証明し、国民は、政権交代が現実化したという新たな世界に身をおいて、それぞれを検証し、自己の判断を形成しなければならない。今からの一年は、すべての当事者にとって、学習の一年になる。では、学習課題は何か。

(1)新政権の課題
 新たな政権与党なかんずく民主党の課題は、責任政党になったことの意味をよくかみしめ、専心実行することである。「次の内閣」など、これまでの勉強の成果を遺憾なく発揮してもらいたい。

 当然のことながら、野党時代に連立与党に向けた批判はそのまま自分に戻ってくると考えなければならない。自らが批判したことがらは、実は、この国と国民を支えつつ政権と政策を運営することの現実的な圧力と困難性に発するものがかなりの部分を占めることを知ることになるだろう。それは、圧倒的な信任を得た政党をも例外としない。マニフェストどおりの実行ができない問題も多々発生する。

 筆者は初めて政権を担当することになった政党について、そのマニフェスト項目をいちいちやり玉にあげて批判することは公正でないと考える。新政権は、マニフェストどおりに行かなくとも何ら恥じることはない。経験不足なのだから失敗や見込み違いは当然のことであるし、国民はそれを織り込みずみで「変化」を求めたのであるから。

 まずいのは、当然起きるであろう「約束違反」「失政」などの批判に対して強弁や隠蔽に走ることである。正直にそしてつつみかくさず困難点を明らかにして、国民・マスメディアを巻き込んだ政策対話を展開することこそが望ましい。それが、与党と官僚による密室的政策決定を批判してきた政党のとるべき姿勢である。

(2)野党の課題
 野党特に旧連立与党は新政権初日から「政権奪還」へのスタートを切りたいであろうが、それは見苦しくもあり、また、選挙に示された国民の判断を愚弄するものとして、一層信を失う結果になりかねない。すべての世代に横溢する不安と閉塞感に対して説得力ある方向性と回答を政権政党として与えられなかったことが、今日の結果を呼んだのである。いちいち敵失を衝くことを繰り返す「政局」発想でこれからの日々を送るのでなく、政権構想としての「日本のグランドデザイン」ともいうべきものをいち早く樹立し、これをもとに政権奪還を果たすのが王道であろう。

(3)国民の課題
 日本の民主主義は選挙の時だけの民主主義であると指摘されてきた。そこからの脱却が必要である。国を良くし、将来に希望を持ちたいならば、国民自らが賢く変わらなければならない。今回示した参加意欲と集中を持続して、今後の政策展開を監視し、常時自分の意見を持つことである。今回の選挙は始まりにすぎない。とりあえず、来夏の参議院議員選挙まで現在の思考・意識レベルを維持していけるかどうか、国民もまた試されている。

「さあ、これから」なのである。

塚本 壽雄(つかもと・ひさお)/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】
1946年滋賀県生まれ。東京大学法学部卒、シラキュース大学行政学修士。行政管理庁、総務庁、総務省を経て、2003年より現職。専門は行政学、政策評価論。

【最近の論文】
「国レベルにおけるオンブズマンの制度設計」、2010年掲載予定、『行政苦情救済&オンブズマン』、VOL.21。
「米国OMBのすべてー行政マネジメントセンターとしての重要性と影響力」(2007)、『行政&情報システム』、43巻5号から8号。