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箸本 健二(はしもと・けんじ)早稲田大学教育・総合科学学術院教授 略歴はこちらから

店舗立地から見る家電戦国時代

箸本 健二/早稲田大学教育・総合科学学術院教授

 2012年5月11日、家電量販店大手のビックカメラ(本社・東京都)とコジマ(本社・栃木県)は、ビックカメラ主導による経営統合を発表した。業界第5位の売上を持つビックカメラと、第6位のコジマとの統合により、合計販売額1.06兆円(2011年度実績)という、ヤマダ電機に次ぐ業界第2位の大型家電量販チェーンが誕生した(第1表)。両社は当面それぞれの屋号を残し、不採算店舗の整理を進めるとともに、販売額の増加を背景とする仕入れ交渉力の強化、経営の効率化、商品開発力の向上などを目指すという。

第1表.主要家電量販店の売上高順位(2011年度)
順位 社名 連結売上高(億円)
1 ヤマダ電機 21,532
  ビックカメラ+コジマ 10,615
2 エディオン 9,010
3 ケーズホールディングス 7,709
4 ヨドバシカメラ 7,005
5 ビックカメラ 6,121
6 コジマ 4,494
7 上新電機 4,352
8 ベスト電器 3,409
注)各社の決算資料による
誰がヤマダ電機を追走するのか

 今回の統合劇の引き金とされるのは、長期化する家電商品の販売不振であり、その背景として、家電エコポイント制度の終了による購買意欲の低下や需要の前倒しの反動が囁かれている。しかし、より本質的な理由は、家電小売業界で首位を独走するヤマダ電機への挑戦権を維持し、業界での生き残りを図る点で、両者の利害が一致したことであろう。耐久財を主体とする家電製品は、単価が高い一方、店舗間の品質差が原則的に発生しない。このため、消費者の関心は、「欲しい商品をいかに安く買うか」という一点に集中しやすく、いきおい価格競争は熾烈を極める。こうした中で、販売額が大きな家電量販店は、メーカーとの仕入れ交渉で優位に立ち、仕入れ価格の値引きを引き出しやすい。ビックカメラとコジマは、今回の統合劇で業界第2位におどり出たものの、2011年度の売上総額はなおヤマダ電機の半分に満たないのである。ここに、家電量販店同士の大規模な統合劇が繰り返される理由がある。実際、二番手以下の家電量販店が経営統合を行う業界再編は、これまでもしばしば行われてきた。たとえば、業界第3位のエディオン(2002年設立)は、デオデオ(本社・広島県)とエイデン(本社・愛知県)を中心に、5つの家電量販店を統合した持ち株会社であり、第4位のケーズホールディングス(2007年設立)も、ケーズデンキ(本社・茨城県)を軸に、全国9社の子会社を含む持ち株会社である。

経営統合の鍵をにぎる店舗立地

 既存チェーンが経営統合に踏み切る際、その成否をはかる重要な要素が店舗立地である。統合する企業同士の店舗網が地理的に近接していると、店舗間の競合が起こり、経営統合による販売効果が期待しにくくなる。たとえばエディオンを構成する5社は、それぞれの店舗網が地理的に分散しており、商圏の浸食が最小限に抑えられている(第2表)。今回の経営統合でも、大都市のターミナル駅周辺に店舗網を持つビックカメラと、ロードサイドを中心に全国展開を果たしてきたコジマとの店舗間競合は少ないと見てよい。

第2表.家電量販店チェーン上位3グループの地域別店舗数
地域区分 ヤマダ電機 ビックカメラ+コジマ エディオン
ビックカメラ コジマ イシマル エイデン ミドリ デオデオ 100満ボルト
北海道 31 1 4 0 0 0 0 6
東北 62 0 21 0 0 0 0 0
東京都 40 16 30 2 0 0 0 1
東京都を除く関東 120 10 77 9 0 0 0 3
甲信越 38 1 6 0 12 0 0 0
北陸 24 0 4 0 0 0 0 15
東海 57 2 17 0 196 0 1 0
大阪府 18 1 12 0 0 43 0 0
大阪府を除く近畿 48 1 10 0 1 96 0 3
中国 48 2 8 0 0 0 361 4
四国 30 0 4 0 0 0 109 0
九州・沖縄 89 5 13 0 0 0 254 4
全国計 605 39 206 11 209 139 725 36
注)店舗数は、それぞれ2012年3月30日現在の各社ホームページに基づく

 他方、統合する企業同士の立地条件や売場面積が大きく異なる場合は、統合による経営効率化が阻害される場合もある。家電量販店は、秋葉原など電気街の老舗を主体とする「都心家電系」、ビックカメラやヨドバシカメラに代表される「都心カメラ系」、そしてヤマダ電機やコジマなどの「郊外系」に大別できる。地代は高いが高収益が期待できる都心系の企業と、人口密度は低いがローコスト経営が徹底できる郊外系の企業とでは、必然的に経営戦略が異なる。前者を代表するビックカメラと、後者を代表するコジマとの統合も、経営戦略の差異や不揃いな店舗面積の克服が前提となることは否めない。

 また、物流の効率化を進めるためには、店舗の分布密度も大きな意味を持つ。とりわけ都心型の店舗に比べて販売額が低い郊外型店舗の場合、都道府県単位での出店密度が低いとトラックの輸送効率が低下し、物流コストを吸収するため低価格戦略に制約が生じる。同じ郊外系のヤマダ電機とコジマは、それぞれほぼ全都道府県に店舗網を展開しているが(コジマは大分県を除く46都道府県)、店舗数が5店舗未満の県は、ヤマダ電機の4県に対しコジマは32道府県にのぼる(第3表)。とくに1店舗、2店舗という低密度県(28府県)が全体の過半数を占めており、近い将来の店舗整理も不可避な状況といえる。

第3表.店舗数が5店舗未満の都道府県数
  ヤマダ電機 コジマ
4店舗 3 1
3店舗 1 3
2店舗 0 9
1店舗 0 19
合計 4 32
注)店舗数は第2表に準じる
郊外市場の飽和と新市場の拡大

 今日、家電量販店業界をリードするヤマダ電機は、1973年、群馬県前橋市に前身となる店舗が誕生し、農地の商業利用(農地転用)や大型店規制(大店法)の緩和、消費者の低価格志向の高まり、そして地方圏でのモータリゼーションなどを追い風としつつ、郊外を中心に大型店を全国展開し、2005年には家電量販店初の売上1兆円企業となった。その一方で、2006年には都心型店舗「LABI」を開発し、東京の池袋、新宿、渋谷、大阪のなんばなど、ビックカメラの主力店を狙い撃つ形で都心進出を進めた。こうしたヤマダ電機の攻勢が、ビックカメラに今回の統合を決断させたであろうことは想像に難くない。

 今回の統合で家電量販店業界のメガストア化は一層進んだが、今後なおメガストア同士の市場争奪や再統合は続くであろう。業界第一位のヤマダ電機も、足下で力を束ねつつある他のメガストアだけでなく、ネット店舗の台頭、これまでの成長を支えてきた郊外市場の飽和、きめ細かいアフターサービスを求める高齢者市場の拡大など、従来の戦略では対応しきれない環境変化に直面している。ヤマダが勝ち切るのか、さらなる再編や主役交代があるのか、家電量販店業界の状況はなお予断を許さない。

箸本 健二(はしもと・けんじ)/早稲田大学教育・総合科学学術院教授

【略歴】
1959年、東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。(財)流通経済研究所、松商学園短期大学、大阪学院大学を経て、早稲田大学教育・総合科学学術院教授。公益社団法人日本地理学会常務理事。専攻は商業・流通地理学。主著に『日本の流通システムと情報化』古今書院(2001)、主な共著に『流通ビジネスモデル』中央経済社(2002)、『日本の流通と都市空間』古今書院(2004)、『流通空間の再構築』古今書院(2007)など。