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片岡 貞治(かたおか・さだはる)早稲田大学国際教養学部教授 略歴はこちらから

民主党の外交・安保政策
 ―野田総理の最後の最重要課題

片岡 貞治/早稲田大学国際教養学部教授

 野田政権は今正に内憂外患状態である。民主及び自民の新体制下で初めて開催された10月19日の民自公三党党首会談は物別れに終わり、喫緊の課題である赤字国債発行法案や衆院の「一票の格差」是正問題では、自公の協力を得られない状況にある。特例公債法案がこのまま放置されれば、赤字国債が発行できず、国家予算は底をつき、緊急事態に陥ってしまう。野田総理は、自公の早期解散要求と如何に折り合いをつけていくのか。また、内閣を改造し政権浮揚を狙った筈が、早々に田中慶秋法相の各種スキャンダルの発生で躓き、その目論見は早くも誤算に終わっている。

 外に目を向ければ、この夏以降、中国と韓国と領土を巡って激しく対立している状況である。中国の船は、政府による尖閣諸島の再国有化以降も、相も変わらず、政府の決定など意に介さず、堂々と周辺の海域で領海侵犯を繰り返している。去る9月25日、中国海軍の念願の空母が、艦名を「遼寧」として就役した。旧ソ連製「ワリャーグ」を改修したものであるが、中国初の空母である。中国は、今増強された海軍の力を内外に誇示しているのである。

 中国海軍の基本戦略は、小笠原諸島から米軍の拠点であるグアム、サイパンを経てインドネシアやパプア・ニューギニアに至るまでのいわゆる「第二列島線」にまで勢力範囲を拡大することにある。中国の海洋進出は、これまで、沖縄から台湾を経てフィリピン辺りにまで至る「第一列島線」に留まっていたが、最近はそれを超える活動を行っている。固より、第一列島線自体、既に、日本の主張する排他的経済水域を超え、日本領土内を通過している。

 野田総理の任期は最長でも来年の8月までである。仮に、「近いうちに国民に信を問う」という選択をしないのであれば、最後の約10カ月で、今こそ日本の将来にとって有意義なものになり得る政策を打ち出していかなければならない。とりわけ、外交・安全保障問題に対して、より一層の力を入れることが望まれる。民主党政権下の最後の総理として、政治生命を賭して事にあたって欲しいものである。

 思えば民主党政権は、日本の安全保障の根幹を揺るがす歴史的な危機に直面してきた。寄せ集め政党の悲しさで党の根幹たる綱領がない為に、安全保障上で一貫した政策を取りきれていなかった。2009年9月、国民の期待を一身に背負って成立した鳩山由紀夫内閣は、対等な日米関係の構築を掲げ、自らが率先してイニシアティブを取った東アジア共同体構想を打ち上げ、普天間基地返還問題で迷走し、政治的な判断ミスの連鎖で、日米同盟を根幹から揺るがした。民主党は2010年の参議院選挙のマニフェストで、「日米同盟の深化」を実績として掲げたが、現実は全くの逆であった。菅政権は、尖閣諸島中国漁船衝突事件への対応などで国民の信頼を失っていった。東日本大震災が起こる直前まで、菅政権は、支持率20%台と低迷し、2011年の予算関連法案も通らず、剣が峰に立たされる状態であった。皮肉にも東日本大震災が結果的に菅政権の政治生命を延長させたのである。東日本大震災では、菅政権は「有史以来最大の危機」とまで言及したにも関わらず、最後まで「平時の」対応に終始した。

 今、中国は国防費を年々と増加させている。2012年度の国防費は、前年比プラス11.2%で、円換算で8兆7000億円となる。既に25年以上続けて、中国の国防費は二桁水準で増大している。25年前からすると約30倍の拡大である。この数値には、装備調達費や研究開発費などは含まれていないとされている。冷戦時にソ連が得意としていたように、敢えて低額の国防費を公表するというやり方を中国は常套手段としている。

 このように軍事的に膨張する中国に対して、日本としては、如何なる方策を取るべきか。中国の嫌がる日米同盟の強化が、最も合理的なオプションである。「中国の平和的な台頭」が日米両国の共通の願いである。嘗て小泉純一郎総理は、「日米関係が良ければ良いほど、中国や韓国を始め、他の国との関係も良くなる」と発言したとされる。

 しかし、いつも米国の顔色ばかりを窺っているのでは心許ない。「安全保障のジレンマ」に陥ることを危惧する者もいるが、防衛費の増額も選択肢の一つとして考えていくべきである。日本の防衛費は横ばいで推移し、2002年からは微減傾向にある。5兆円に満たない程度で、守る義務もないのに未だにGNP比1%枠内を堅持している。2011年は、4兆6826億円であり、2012年度はやや上がり、4兆7138億円である。防衛費の対GNP比は韓国が2.9%、中国は2.2%(実際には4%前後か)、米国は4.7%以上である。NATO加盟国であり、核保有国でもあるイギリスやフランスでも2.5%-2.7%程度である。日本と同じ敗戦国のドイツでさえ1.5%である。

 GNP比1%の枠を乗り越えて、在日米軍に頼らず、防衛を自国だけで賄うとするとどうなるか。イギリスやフランスの様に核兵器を有していないだけに、通常戦力だけでも、少なくともGNP比の3%は必要である。これは単純計算しても15兆円規模であり、これだけの額を防衛費に割く財政的な余裕は今の日本にはない。しかし、微増なら検討可能であろう。野田政権が2013年度予算も担うのであれば、是非防衛費増額に舵を切っていくことを期待したい。

 野田佳彦総理は、独自の「安全保障観」を持ち、一介の議員時代は、新憲法制定論者であり、集団的自衛権の行使も主張していた。2011年9月に誕生した野田政権に米国政府関係者も密かに期待していた。実際に、野田政権に対する米国の安保関係者の評価は高い。普天間基地返還問題も遅々としてではあるが、前進させているからである。また、2011年12月27日には武器輸出三原則を大きく緩和する決定を行った。武器などの国際共同開発、生産や供与を可能にするものである。歴代自民党政権はこの三原則の緩和を議論しながらも決断できずにいた。自民党政権が40年以上にも亘り出来なかったことを行ったのである。

 残り少ない任期の中では、防衛費増額のみならず、集団的自衛権の行使に関する現行政府解釈の変更及び官邸の機能をさらに強化する日本版「国家安全保障会議(NSC)」の設置にも着手してもらいたい。

 とりわけ、「保有はするが、行使はできない」とされる集団的自衛権の行使の問題は、歴代の政権がなかなか乗り越えられずにいた壁であり、安保政策上の最重要課題である。2006年に安倍総理の肝いりで官邸に設置された「安保法制懇」が、解釈変更を容認する結論を出していたが、2007年の安倍の早期退陣で立ち消えとなっていた。この残り少ない任期で、「決める政治」を標榜する野田総理が集団的自衛権の政府解釈の変更にまで踏み切ることが出来れば、それこそ歴史的な大功績となろう。集団的自衛権の行使を可能にしてこそ、日米同盟の片務性は解消され、同盟はより強化され、より機能していくからである。(2012年10月20日記)

片岡 貞治(かたおか・さだはる)/早稲田大学国際教養学部教授

【略歴】
早稲田大学政治経済学部卒業。パリ第一大学政治学博士。96-00年在フランス日本国大使館(政務班:中東・アフリカ担当)、00-04年日本国際問題研究所(欧州・アフリカ担当研究員)。04年4月より早稲田大学国際教養学術院に奉職。06年4月より早稲田大学国際戦略研究所所長。11年4月より現職。欧州やアフリカ諸国の政治家や政府関係者に知己が多く、世界中に豊富な人的ネットワークを有する。マリのトゥーレ前大統領とは15年来の友人。専門領域は国際関係論、アフリカ紛争・開発、国際安全保障等。