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井戸 正伸(いど・まさのぶ)早稲田大学教育・総合科学学術院教授 略歴はこちらから

2大政党制は幻想か
-2012年総選挙と日本政治の課題-

井戸 正伸/早稲田大学教育・総合科学学術院教授

自民党圧勝と小党乱立が意味するもの

 民主党の野田首相が、消費増税法案成立と引き換えに約束した衆院解散を実行して臨んだ今回の総選挙は、自民党が単独で過半数を大きく上回る294議席を獲得する野党圧勝という結果に終わった。さらに自民党は公明党との連立で衆議院定数480議席の3分の2を超える議席を確保し、参議院で否決されても法案を再可決できることになった。他方、今回の選挙では、前回総選挙でブームを巻き起こし308議席を獲得した民主党が、3年間の政権実績を問われ、57議席と惨敗に終わる一方で、右翼的言動で常に物議を醸してきた石原氏と国民的人気の高い橋下氏が率いる日本維新の会は、期待された議席には届かなかったとはいえ、あと数議席で民主党に並ぶ54議席を得て第3党の地位を占めることに成功した。

 また、いわゆる「第三極」に属するこの他の政党としては、みんなの党が18議席、今回の選挙直前に結成され、小沢氏ら民主党を離党した議員が大挙して合流した「卒原発」を唱える日本未来の党も9議席を獲得し、31議席を得た公明党、8議席を得た共産党とともに主要政党としての地位を確保した。2009年総選挙で芽生えた、日本でも二大政党制が生まれつつあるという期待は裏切られた。小党分立は著しく、政党制はその分裂の度合いを強めることとなった。さらにいく人もの政治家は、選挙直前に、沈む泥船の観を呈した民主党から人気のありそうな「維新」などに移り、比例代表復活によって当選を勝ち取るという技を披露して見せた。いまや政党は、政治家によって利用されるその場しのぎの道具となった観がある。

 しかし自民党は今回の選挙結果を誤解して、間違った政治的決断、選択をするべきではなかろう。そもそも、小選挙区制の本場であるイギリスの近年の与野党の獲得議席を見てもわかるように、勝者に与えられる獲得議席の多さとその変動の大きさこそ、まさにこの選挙制度がつくりだすものである。菅前首相の唐突な消費増税発言、野田首相によるマニフェストに反した消費増税法案成立の強行による民主党分裂。経験不足の政治リーダーと内部対立が絶えない政党に引きずられ、日本は貴重な3年余の時間を浪費し、改革の機を逸した。今回の自民圧勝という選挙結果は、オウンゴールを次から次へと重ねた民主党政権に対する有権者の大きな失望、そして小選挙区制のメカニズムが働いたことによって得られたにすぎない。

自民党は変わったのか?

 今回の選挙では、戦後日本の成長と再分配の仕組みを作り上げた自民党が復権した。民主党に引き寄せられたかと思われた業界団体も、再び自民党に陸続と回帰してきている。しかし、安倍氏が強調するように、自民党は本当に変わったのだろうか。今回の選挙で当選した自民党議員の顔ぶれを見ると、あらたな二世議員の誕生、業界団体の利益を代表する族議員の復活など、見慣れた光景が再現している。自民党の政権公約も、大規模な公共事業の大盤振る舞いという古色蒼然としたものである。企業がグローバル化し、いまや日本を見捨てかねない状況の下で、このような自民党がはたして日本経済を活性化し、若者に非正規の職ではない安定した職を与えることができるのだろうか。高名な日本政治研究者のT.J.ペンペルは、経済のグローバル化が「利権と生産性」のバランスを達成することを難しくし、自民党支配が構造的危機に陥ったと論じている。前回の安倍政権(2006-2007年)では、郵政造反議員の復党を認めたことが、小泉改革を支持した都市有権者や若者の離反を招き、2007年の参院選における敗北へとつながった。第二回目の登板となった安倍首相には、日本経済の規制緩和を進めると同時に、従来からの支援者をつなぎとめ、さらに支持をひろげるという困難な課題を達成する能力が問われている。

日本政治の課題

 そもそも1990年代の政治改革で日本が目指した二大政党制にもとづく多数決型政治とは、レイプハルトが指摘したように、少数派のうち最大の勢力が交互に政権を握る政治の仕組みである。今回の選挙では、60パーセントに満たない戦後最低の投票率のもと、自民党は43パーセントの得票率(小選挙区)で圧倒的な議席を獲得した。これは、有権者の四人に一人が支持したにすぎない政党が、4年間の任期の間、日本の政治を担っていくことを意味している。この政治の仕組みを正当化するのは、二大政党制の下では、主要政党の政策が国民の中道の立場に収斂するという想定である。今回の選挙結果は、小選挙区制と比例代表制の折衷である現行の選挙制度が、必ずしも常にこのような結果をもたらすわけではないことを示した。

 民主党の壊滅的敗北とともに二大政党制の夢は幻想と終わり、かわって巨大な与党自民党と小党が乱立する分裂した政党システムが登場してきた。民主党が態勢立て直しに成功しないと、極端な主張を唱える過激な小政党によって引きずりまわされ、日本政治が混沌に陥る可能性すらでてきている。中国の台頭により不安定性を増す国際情勢の下、政治的混迷が日本の安全保障、日本経済に及ぼす影響は計り知れない。ここで野田首相による尖閣諸島国有化が、政権の意図を超えて、日中関係の悪化と日本経済のさらなる停滞をもたらしたことを想起すべきだろう。われわれが多数決型政治の欠点を承知の上で、政権交代を実現する政治を選択するならば、自民党と互角に競うことのできる責任政党を国民が育て上げることこそが緊急の課題である。

井戸 正伸(いど・まさのぶ)/早稲田大学教育・総合科学学術院教授

専攻:政治学、比較政治学
早稲田大学政治経済学部卒業、Ph.D.(政治学)(シカゴ大学)
主な著書として、『経済危機の比較政治学』(新評論)、『比較政治学 改訂版』(放送大学教育振興会、共著)、『比較政治経済学』(有斐閣、共著)。
近著として、Ido, M. (ed.), Varieties of Capitalism, Types of Democracy and Globalization (Routledge, London) がある。