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片木 淳(かたぎ・じゅん) 早稲田大学政治経済学術院教授 略歴はこちらから

「ネット選挙」と選挙運動規制の全面撤廃
― 初解禁は低調、矛盾も露呈した「べからず集」―

片木 淳/早稲田大学政治経済学術院教授

 昨日、行われた参議院選挙では、自由民主党が圧勝し、公明党と合わせて過半数を獲得、いわゆる「衆参のねじれ」が解消されることとなった。投票率は、現時点(7月22日午前)の推計で52%前後と、前回(57.92%)から下落し、低水準にとどまった(読売新聞)。

 今回の選挙では、長年の課題であった「ネット選挙」[1]がはじめて解禁となり[2]、その影響が注目された。本稿では、「ネット選挙」の現時点での総括を行うとともに、今後の課題について、考えてみたい。

1:正確には、「インターネットによる選挙運動」。インターネットを通じて自宅から投票を行う「ネット投票」(後述)とは異なる。
2:同月14日に行われた福岡県の中間市議会議員選挙でも、「ネット選挙」が解禁された。

「ネット選挙」の評価と課題

 今回の改正は、「近年におけるインターネット等の普及に鑑み、選挙運動期間における候補者に関する情報の充実、有権者の政治参加の促進等を図るため、インターネット等を利用する方法による選挙運動を解禁する必要がある」ということであった(同法律案提出理由)。

表:解禁された「ネット選挙」運動
政党 候補者 第3者
ウェブサイトの利用 ホームページ、ブログ
(選挙運動用ビラ・ポスター(画像)の掲載を含む。)
ツイッター、フェイスブック
動画の配信
電子メールの利用 選挙運動用メールの送信 ×
選挙運動用ビラ・ポスター(画像)の添付 ×

(注)○ 解禁、× 禁止

 まず、「候補者に関する情報の充実」という点では、選挙期間中、各党、候補者とも、党首を先頭に総じて「ネット選挙」に積極的に取り組み、従来に比較して飛躍的に多くの情報が提供されるようになったことは評価できよう。

 しかし、「有権者の政治参加の促進」という点では、憲法、原発、TPP、消費税等多くの政治課題がありながら、これらに関する活発な政策論争はあまり見られず、また、SNS企業等が展開していた各種サービスも低調で、「ネット選挙 不完全燃焼」と報じられている(7月19日付日本経済新聞)。

 「なりすまし」ホームページの開設や改ざんといった違反もなく、警告は23件にとどまった(19日現在、警察庁)(読売新聞)ことは歓迎すべきであるが、逆にいえば、それだけ今回の「ネット選挙」が盛り上がりに欠けたということもできよう。

 なぜ、このような結果に終わったのか、特に、双方向というインターネットの機能が政策論議に活かされなかったのは、なぜか、その原因を探り、今後の改善に生かしていくことが必要である。以下、今後の課題として、何点か、指摘したい。

国民と政治家に対する主権者教育の必要性

 今回の選挙においては、自由民主党の勝利が予想されたため、同党が論争のリスクを避けたということも、「ネット選挙」が低調となった原因の一つであろうが、今回の解禁によって明らかになったもっと根本的な問題は、わが国の選挙においては、これまで、それぞれの陣営が声高に自らの主張はくりかえすものの、実質的な政策論争はほとんど行ってこなかったことが白日の下に曝されたのではないか、ということである。すなわち、政治家にも国民にも、論理に基づいて自らの主張の理由を説明し、互いに論戦し、よりよい結論を目指すという民主主義の基礎的能力が身についていないのではないかということである。わが国では、民主主義の「制度」は一応整っているが、現実には、熟議による民主主義が機能していないということが露呈したといえるのではないか。

 したがって、今後の課題としては、迂遠なようでも、わが国の民主主義の成熟のため、政治家や国民一般、特に若者に対する政治教育の充実強化が必要であろう。従来、わが国の政治教育においては、政治的中立性を求めるあまり、政治的テーマについて論議すること自体がタブー視されてきた。今後、明るい選挙推進協議会等が中心となって、従来の活動のマンネリを脱し、民主主義を支える「主権者教育」に取り組んでいく必要がある(21世紀政策研究所『日本政治における民主主義とリーダーシップのあり方』)。

「ネット選挙」を契機に選挙運動規制の全面撤廃を

 また、今回の「ネット選挙」の解禁により、なぜ、インターネットの世界だけこのように広く選挙運動が許され、それ以外の分野では、引き続き厳正に禁止ないし規制されるのか、その矛盾や境界のあいまいさが露呈した。たとえば、i-padでは無制限に許される選挙運動文書の配布がなぜ紙ではだめなのか、第3者による演説会の録画の提供が許されて、なぜ、演説会自体の開催は許されないのか、等々である。

 周知のとおり、現在の公職選挙法では、事前運動や戸別訪問は禁止され、文書類、選挙事務所、自動車、演説会、連呼行為等が細かく規制されている。

 しかし、選挙運動は、主権者である国民、住民が選挙において適切な選択を行うため、候補者や政党の政策、主張等についての情報を提供する重要な役割を担うものであり、本来、自由かつ活発に行われるべきものある。このようなことから、民主主義の先進国である多くの欧米諸国では、原則自由とされている。

 今後、今回の「ネット選挙」解禁を契機に、「べからず集」といわれる公職選挙法の選挙運動規制を欧米並みに全廃し、戸別訪問も、候補者討論会も、文書図画の配布も含めすべて自由とすべきである(片木等『公職選挙法の廃止』)。

「ネット投票」

 なお、今回の「ネット選挙」を通じて指摘されたことは、そもそも、インターネットの時代に、なぜ、投票所にまで、わざわざ、足を運ばなければならないのか、という疑問であった。現在、地方選挙については、法律に基づき、電子投票(投票所における電子機器による投票)の取り組みが一部の先進的な自治体の努力により細々と進められているが、今後は、これを早急に国政選挙にまで拡大するとともに、それをさらにインターネットによる自宅からの投票の実現につなげていくよう官民挙げて取り組むべきである。

片木 淳(かたぎ・じゅん)/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】

東京大学法学部卒業、自治省選挙部長、総務省消防庁次長。高知県・北海道・大阪府各総務部長。早稲田大学公共経営研究科(現公共経営大学院)教授。早稲田大学メディア文化研究所長。専門は地方自治、選挙制度論。著書は、『日独比較研究 市町村合併』(早稲田大学学術叢書)、『自治体経営学入門』(一藝社、共著)、『地方主権の国 ドイツ』(ぎょうせい)など。