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平川 幸子(ひらかわ・さちこ) 早稲田大学国際学術院助教 略歴はこちらから

「防空識別圏」で望まれる新しい日台関係
 -中国から一目置かれる外交力を

平川 幸子/早稲田大学国際学術院助教

 11月23日、中国政府が独自の防空識別圏を発表した。昨年9月の日本政府の尖閣諸島国有化以来、頻繁に見られる周辺海域、空域に対する侵犯行為を正当化する動きである。このニュースにより、防空識別圏の地図を見ることも増えたが、正直、日本の設定範囲の広さに驚いた。この線引きを行ったのは、第二次大戦後に日本を占領していた米国である。今回の出来事は、戦後の米国覇権の名残で続いていたデファクトの地域秩序に対して、中国のパワーによる挑戦が始まったことを示している。

 そもそも、防空識別圏とは、各国が領空の外側に自主的に設定している警戒空域であり、領空ではない。国際法に基づく取極めでもない。それでも、中国の態度はかなり挑発的である。尖閣諸島の領空を中国の領空であるかのように示し、識別圏内を飛行する全航空機に飛行計画の提出を義務づけ、中国国防省の指示に従うよう求めた。日本の防空識別圏が、意図的に北方領土や竹島上空を外して慎重を期しているのとは対照的である。日本や韓国など周辺国に事前の相談なく一方的に発表したことも問題だ。日中韓首脳会議やASEAN+3などで積み上げてきた地域協力の精神に反する。中華民族の偉大な復興という「中国の夢」の実現を目指す習近平体制の中国は、大国意識を高め、今や米国以外の国家は相手にしなくなった、と見る専門家は多い。

 日本も最新の防衛大綱、中期防衛力整備計画で、陸海空の自衛隊が一体となり南西諸島の防衛を強化する方針を示した。この防衛力を背景として、日本は中国から一目置かれる外交力を発揮する必要がある。東アジア地域全体の平和と安定のためには、従来からの日中戦略的互恵関係の維持が必要だ。

(1)アジアの先進モデルは日台関係

 世界の秩序を米中が決めるという意味で、「G2体制」という言葉がある。とはいえ、米中は国際社会での代表的な先進国と途上国。非対称的な存在であり、「新型大国関係」とも言われる。中国のリスペクト対象から外された日本も、相応のパートナーを見つけて理想的な新型関係を築き、その価値を積極的に対外発信したらどうだろうか。

 ベストパートナーは台湾である。日台関係は、純粋に人々同士の社会関係に基づく、グローバリゼーション時代の国際関係の先進モデルだといえる。国家主義的な傾向の強いアジアにおいては例外的だ。1972年の断交以来、正式な外交関係はなくなったものの、日本人と台湾人の経済社会分野での実質的交流は、民間窓口を通して継続的、大規模、かつ密接に続いてきた。震災後の義捐金や、WBCの日台戦を思い出してほしい。日本と台湾の人々同士の相互信頼や親近感は、中国や韓国の国民との間では容易に築けないものだ。国家の夢などに拘束されず、自由な個人のヒューマニティが国境を越えて自然につながる関係である。そして、日本と台湾の社会はともに自由と民主主義、人権、法の支配、など普遍的な価値に基づく政治制度を有している。

 このような日台の社会関係の安定と繁栄を、政府は後方から保障し支援するべきだ。具体的には、日台経済連携協定協定(EPA)の早期締結が望まれる。台湾のFTA/EPAは、法技術的には可能であるが、中国からの政治的妨害のため進展しない。台湾経済や日台経済関係は、近年の東アジア地域での制度的経済統合の流れに取り残されているが、時代に相応しい「新型社会関係」として自信を持って地域と世界にアピールするべきだ。

(2)日台協力が中国に教えるもの

 1972年の日中国交正常化に際する共同声明において、日本は中華人民共和国を「中国の唯一の合法政府」として承認し、「台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という中国の立場を「十分理解し、尊重」するとした。以来40年。結局、中国と台湾は今日まで統一しなかった。冷戦後の台湾は民主化され、中国との統一問題には住民の意志決定の手続きが不可欠となっている。多くの台湾人が「現状維持」を望んでいる以上、平和的対話によって早期に両岸が統一されるシナリオは想像しにくい。

 「一つの中国」原則を堅持した上で、中国とも台湾とも実質的にそれぞれ関係を築く方式は、40年前に世界で日本が最初に実践した外交的知恵である。日本は再度、世界に先駆けて「日本方式」を示せないか。普遍的価値を推進する日本は、新しい時代認識に立って、台湾をグロバール社会に引き入れる役目を積極的に引き受けるのである。日台EPAを堂々と進め、台湾のTPP参加を支持する。台湾はWTO、APECの加盟メンバーであり、その方向性が自然な義務である。非政府の実務機関同士での交渉締結という形式さえ貫けば、日中共同声明には何ら抵触しない。中国に遠慮する必要はない。

 EPAは単なる自由貿易協定を超えて幅広い連携協力内容を含む。尖閣諸島周辺で起きる事案も付随的にカバーできる。台湾政府も尖閣諸島(釣魚台)に対し領有権を主張しているが、中国とは違って実利優先の柔軟な姿勢を見せており、既に当該海域では日台漁業協定が締結されている。自然災害や環境問題など周辺海域の共通の脅威に対して日台はもっと共同で対処できるだろう。同時に、国境を越えた人々の交流の場としても積極的に利用する。尖閣諸島周辺は、周辺住民同士の平和で機能的な協力関係の実践の場として開放的に活発に利用していけばよい。それが中国へのメッセージとなる。

 思い切った外交力を発揮しなければ、日本はこのまま中国に軽視されるのみであろう。

平川 幸子(ひらかわ・さちこ)/早稲田大学国際学術院(アジア太平洋研究科)助教

【略歴】

学術博士。専門は東アジア国際関係論、アジア地域統合論、日中関係。早稲田大学政治経済学部卒業。米国タフツ大学フレッチャースクール法律外交大学院にて国際関係学修士号(MALD)、早稲田大学アジア太平洋研究科にて博士取得。著書に『二つの中国と日本方式』(勁草書房、2012年)。共編著に、『歴史の中のアジア地域統合』(勁草書房、2012年)、『アジア地域統合学、総説と資料』(勁草書房、2013年)。主な論文に、「戦後日本外交と「開かれた地域主義」―1955年を起点に」『アジア太平洋討究』21号(2013年)、Southeast Asia in the post-war period: The origins and crossroads of Bandung, non-alignment and ASEAN,’ S.Amako, et al eds, Regional Integration in East Asia: Theoretical and Historical Perspectives, (United Nations University Press, 2013)、「台湾経験から考えるアジア地域統合論」『問題と研究』40巻1号(2011年)、「アジア地域統合と中台問題」『国際政治』158号(2009年)など。