早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > オピニオン > 政治経済

オピニオン

▼政治経済

山田 治徳(やまだ・はるのり) 早稲田大学政治経済学術院教授 略歴はこちらから

道府県知事、東京都知事、リーダー

山田 治徳/早稲田大学政治経済学術院教授

 他意は無いが、微妙な都知事選挙が終わった。首都・東京のトップを選ぶ選挙である。しかも今回は総理大臣経験者が立候補するという、以前では想像できないような展開もあった。本来なら盛り上がって当たり前の選挙だったが、史上最多得票の圧倒的支持を得ての就任からわずか1年での現職知事の突然の辞職を受けてという、あまりにもお粗末な顛末(幕開け?)が影響してか、いまひとつ盛り上がりに欠けた選挙だったような気がする。

 とはいえ、東京都知事である。知事の権限の大きさはよく「大統領」に例えられる。一千万有権者の直接選挙により選ばれ、しかも一つの自治体とはいえ東京都は、人口(1,300万人)、都内総生産(93兆円)、年間予算(12兆円)等と一国に相当する規模を有する。政治、行政、経済、外交、文化など様々な組織や機能が集中する首都でもあり、2020年夏季オリンピックの開催都市でもある。職員数も16万人と、日本を代表する大企業(東証1部上場、連結従業員数)と比べてもトップ10に相当する組織である。そのトップとしての東京都知事の影響力は、単に一つの自治体の枠を超え、国や他の自治体、更には海外にも及ぶ。単なる一首長の枠を超え文字通り「一国の大統領」に相当する。

東京都知事=別格の知事

 ところが「知事」というのはあまり身近な存在ではない。一般の住民からすれば、市役所や区役所には出掛けることはあっても、都庁や県庁に出掛ける機会はそう多くない。ではどのような人が知事に選ばれているのだろうか。東京都を除く46道府県知事(平成26年1月14日に病気退任の山口県は前知事)の就任までの経歴を見れば、在職期間の長短はあるものの中央省庁出身者が29名、6割がいわゆる官僚出身である。このうち3名は重複するが国会議員経験者も6名いる。知事には政治・行政運営に通じた実務能力や経験が求められているようである。

 しかし、東京都知事の場合、戦後7名の知事のうち、官僚出身が2名、大学教授出身が2名、作家出身が3名、しかも90年代半ば以降、直近3代は連続して作家出身である。都知事の場合、行政経験は大きな決め手ではないようである。ここが首都であり圧倒的な規模を有する最大自治体の知事たるところだろう。

 では東京都のトップとしての知事には何が求められるのだろうか。東京都職員としての経歴も有する佐々木信夫・中央大学教授によれば、知事は「住民を代表する政治家」であり、「巨大な組織、カネを扱う経営者」であり、「地域を代表する外交官」であるという(佐々木、3頁)。これを参考に考えると、「住民を代表する政治家」に求められるのが政治家としての経験や実績、発想力や決断力、実行力だとすれば、「巨大な組織、カネを扱う経営者」としての知事に求められるのが実務能力、行政経験、マネジメント力、「地域を代表する外交官」に求められるのは発信力や交渉力、といったところだろう。

 これらのうち特に知事に求められるのは「政治家」や「経営者」としての側面なのだろう。だから知事の多くは官僚や議員経験者で占められている。しかし先述したように東京都知事の場合はこれが決め手とはならない。都知事には、首都であり最大自治体でもある東京のトップとしての役割に加え、全国自治体のリーダーとして国政や他の自治体をリードする役割、対外的な顔としての役割も求められる。すなわち都知事は別格の知事として、別格の「政治家」や「経営者」、そして「外交官」としての側面が求められることになる。

政治のリーダーシップ

 当然のことながら知事はトップである以上、リーダーシップは最も重要な資質である。では政治のリーダーシップとは何だろうか。リーダーシップを持った政治家としてよく引き合いに出されるのは、田中角栄である。事実、朝日新聞社が行った「この1000年・日本の政治リーダー読者人気投票」で田中は、坂本龍馬、徳川家康、織田信長といった歴史上の人物に続いて第4位に入っている(朝日新聞、2000年3月12日朝刊)。

 田中の通産相、首相時代に秘書官を務めた小長啓一によれば、田中は「企画構想力」、「実行力」、「決断力」、「人間的な包容力」の「四つについて卓抜した能力」を持っていたという(服部、213頁)。ここで興味深いのは、田中は強いリーダーの象徴とされているが、「企画構想力」、「実行力」、「決断力」はこうした能力に係わる資質であるのに対し、「人間的な包容力」は人間性に係わる資質であることだ。さらに田中は「自分に無い資質を見越して」大平正芳とペアを組み、日中国交正常化など大仕事を成している(服部、215頁)。田中に無い資質とは、「念入りな準備と調整」を重んじる「熟慮調整型リーダーシップ」だという(服部、215頁)。

 リーダー不在への反動なのか強いリーダーシップへの憧憬なのか、どうもここ十数年来、国、地方、あちらこちらでやたら乱暴なリーダーシップが目立つ。大きな権限を周りへの配慮なしに振り回されてはおっかなくてしょうがない。福祉、防災、景気、治安、エネルギー、五輪等々、都政が直面する課題は多い。二元代表制の下、同じく民意を反映する議会、そして行政の専門家集団としての官僚との良好な関係の構築は、円滑な行政運営に不可欠だ。国や他自治体など他機関との関係においても同様だ。相手への思いやりこそ「人間的な包容力」であり、相手に敬意を払ってこその「念入りな準備と調整」であろう。これらが触媒となってこそ、リーダーシップが活きるというものだ。舛添新知事に期待したい。

【参考文献】

佐々木信夫(2011)『都知事』中央公論新社
服部龍二(2011)『日中国交正常化』中央公論新社

山田 治徳(やまだ・はるのり)/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】

早稲田大学政治経済学部卒業後、中央省庁入省。在職中に行政官長期在外研究員として、ジョージタウン大学大学院公共政策学課程修了。その後、民間シンクタンク勤務を経て、九州大学法学部助教授、2003年より早稲田大学大学院公共経営研究科(現在の公共経営大学院)教授。専門は、行政学、公共政策学。主な著書に『政策評価の技法』、『建設国債の政治経済学』(共に日本評論社)など。