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秋葉 賢一(あきば・けんいち) 早稲田大学大学院会計研究科教授 略歴はこちらから

国際会計基準(IFRS)のイロハ

秋葉 賢一/早稲田大学大学院会計研究科教授

 上場企業では、国際会計基準を適用する企業が増えています。国際会計基準とは、正式にはInternational Financial Reporting Standardsであり、IFRS(イファース又はアイエフアールエス)と呼ばれています。今回は、会計基準とは何か、IFRSとは何かについて、簡単に紹介致します。

会計基準とは何か

 株式などに投資する際に、企業分析のために会計情報は欠かせませんが、どのような会計基準を用いるかによって、企業の見え方が異なります。企業は、財務諸表を作成し、株主や債権者などから調達した資金がどのような状態にあり、どのように運用されたかの情報を外部に報告します。上場企業の財務諸表は、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)のほか、株主資本等変動計算書やキャッシュ・フロー計算書、注記事項から構成されます。

 この際、財務諸表がどのような基準によって作成されるかにより、財務諸表が示す企業の財政状態や業績が異なってきます。例えば、モノを売った場合、売上高はいつ計上されるのでしょうか。販売契約を締結した時でしょうか、商品を出荷した時でしょうか。それとも代金を回収した時でしょうか。スーパーの店頭で販売するような場面では、それらは同時に生じますが、完成までに長期間を要する工事や、代金回収までに長期間を要する割賦販売などの場合には、どの時点で売上計上すべきかが議論になります。

 このように、異なる基準に基づいて財務諸表が作成されると、その金額、具体的には、売上高や当期純利益、総資産や純資産など、企業分析に用いる会計情報が異なってきます。このため、財務諸表を作成するためのルールとして「会計基準」が設定されています。

IFRSの設定と利用

 わが国では、金融商品取引法や会社法などの法規制と結びついて、会計基準が整備されてきました。同様に、米国でも英国でも、それぞれの会計基準が開発され利用されてきました。しかし、資本市場のグローバル化に伴い、各国で採用されている会計基準を国際的に統一しようという動きが1990年代から見られました。2001年までは、公認会計士団体によって構成された非常設の国際会計基準委員会(IASC)によって設定されていましたが、その後、IFRSは、会計士のほか、財務諸表作成者である企業や利用者である投資家などから構成され、ロンドンにおいて常設されている国際会計基準審議会(IASB)によって設定されています。

 IFRSは、2005年頃から欧州や豪州などで利用され、現在では120カ国以上で採用されているといわれています。IASBは、資金も人員も民間による団体であり、IFRSの導入・執行は、各国や地域の法規制に委ねられています。わが国では、2010年3月期からIFRSの任意適用が認められ、現在、以下の会計基準で作成した連結財務諸表を公表することとされています。

  • 民間機関である企業会計基準委員会(ASBJ)によって設定された日本の会計基準
  • 米国の会計基準(ソニーやトヨタなど約30社が適用)
  • IFRS(住友商事や日本たばこ産業など約40社が適用)

 IFRS任意適用のメリットとしては、まず、海外市場への上場や資金調達の多様化が可能となることが挙げられます。また、海外市場へ上場していなくても、財務諸表の国際的な比較可能性が向上することによって、グローバルな投資家を呼び込むことなどが期待できます。さらに、IFRSの適用により、海外子会社を含む連結グループ全体において、財務報告プロセスを効率化したり経営管理を改善したりできるメリットも挙げられることがあります。しかし、日本で上場していても海外投資家はアクセスしており、また、IFRSと経営管理は本来別物であることなどから、IFRSを使う必要性が感じられないという企業も少なくありません。

IFRSの特徴

 IFRSの特徴として、原則主義に基づいているといわれることがあります。わが国や米国の会計基準が、詳細で膨大な規則で構成され、具体的な指針や数値基準を多く含んでいるのに対し、IFRSは、原則を定め、最小限のガイダンスだけが示されていることによります。しかし、原則主義か否かは相対的なものであり、対象分野によっては、IFRSの方が詳細で多くの指針を含んでいる場合もあります。

 また、IFRSは、期間損益よりも資産負債の重視という特徴があるといわれることもあります。加えて、IFRSでは、取得原価ではなく公正価値(時価)で測定することが特徴であるといわれることもあるようです。確かに、市場性があって売買を目的としている有価証券などは、時価がその価値を示し、その変動が業績を示すため、わが国でも時価評価を行います。しかし、企業がビジネスとしてどのように活用するかによって価値が異なる棚卸資産や固定資産、そのための資金調達である借入金や発行した社債などは、IFRSにおいても、公正価値で測定しその差額を損益とするわけではありません。

 日本の会計基準もIFRSとの差異を縮小する(コンバージェンスする)ように改正されていますが、IFRSは、どのように財務諸表が利用者にとって役に立つと考えているのか、したがって、どのような考え方で改正するのかが、明確ではなく、それが、わが国の企業がIFRSの適用を控えているといわれることもあります。わが国からの積極的な意見発信が反映されたりIFRS自体の見通しがよくなったりすれば、IFRSを適用する企業は増えていくでしょう。

秋葉 賢一(あきば・けんいち)/早稲田大学大学院会計研究科教授

【略歴】

横浜国立大学経営学部卒業。1989年公認会計士登録。朝日監査法人(現 有限責任あずさ監査法人)代表社員、企業会計基準委員会(ASBJ)主席研究員を経て、2009年から現職。現在、日本証券アナリスト協会 試験委員(2005年から)、公認会計士試験委員(2009年から)、企業会計審議会 企画調整部会 専門委員(2013年から)。主な著書として、『エッセンシャルIFRS(第3版)』(中央経済社、2014年)、『会計基準の読み方 Q&A100』(中央経済社、2014年)などがある。

http://www.waseda.jp/accounting/faculty/faculty01.html