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横田 信武(よこた・のぶたけ)早稲田大学商学学術院教授 略歴はこちらから

富裕層から一般家庭まで課税対象拡大へ
2015年1月実施の相続税・贈与税の改正とは

横田 信武/早稲田大学商学学術院教授

 相続税・贈与税が2015年1月から増税される。これまで相続税を払う必要がなかった人たちにも増税の影響が出ることが予想される。まず相続税の仕組みを概説した上でその現状および課題を見ていこう。

 相続税は課税方式の違いによって遺産税方式と遺産取得税方式とに分けられる。前者が資産を遺す者に課税するのに対して、後者は遺産を取得する者に取得した遺産額に応じて課税する方式である。相続税は通常、累進税率構造をとっており、後者の方式は分割の程度によって税負担額が異なるので、資産分割が促進され、富の集中が抑制される。しかし、家族経営を維持しようとする農業者や中小自営業者は遺産分割により維持が困難になるおそれがある。戦後税制の基礎となったシャウプ勧告による1951年の相続税改革はそれまでの遺産税方式から遺産取得税方式に改め、なおかつ相続税と贈与税を統合し、生涯累積取得税の形で課税するものであった。しかし、相続により資産分割されることを前提とした取得税方式はわが国にはなじまないという理由で、1958年度税制改正により遺産税方式を加味した遺産取得税方式に改められた。

 相続税の対象となる財産は、土地・家屋などの不動産、有価証券、預貯金などである。相続税の不動産評価は時価よりもかなり低く、さらに小規模宅地については減額措置があり、金融資産に比べて相対的な有利さを持つとされる。現在の基礎控除(課税最低限)は(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)である。遺産額から基礎控除を差し引いて課税遺産総額を求め、各人の法定相続分に従った場合の取得額にそれぞれ10~50%の超過累進税率を適用して、仮の税額を算出し、それらを合計して相続税総額を求め、実際の遺産相続分に按分して各人の算出税額が求められるのである。

 相続税の現状は一部の資産家のみを対象とした税であり、税負担もそれほど重くない。
2011年で課税割合(死亡者に対する課税対象者の割合)は約4.1%である。1987年に7.8%に達したが、バブル期における地価の急騰に伴う負担の急増を軽減する観点から、抜本的税制改革の中で基礎控除の引き上げや小規模宅地等の各種特例の拡充による減税が行われ、さらに2003年度改正で最高税率の引き下げを含む税率構造の見直しがおこなわれた結果、相続税の大幅な負担軽減がなされてきた。

 一方、地価はバブル期以前の水準にまで下落し、資産価格が正常化したにもかかわらず、基礎控除の引き下げ等は行われなかった。そのため相続税負担は限定的になり、相続税の資産再分配機能や財源調達機能は低下してきた。相続税の課税価格に対する納付税額の割合である相続税負担率は2011年で11.6%であり、1991年の22.2%のほぼ半分である。また、課税価格の階級別課税状況を見ると、課税件数全体の1.4%を占める10億円超の区分が納付税額の32%を占めており、相続税負担が一部の資産家に集中していることがわかる。

 地価の正常化とともに、近年経済のストック化が進展し、家計資産や課税遺産に占める金融資産の割合が増加している。また、高齢化の進展や資産移転時期の高年齢化に伴い、高齢者層が保有する資産の割合が高まってきている。社会保障制度が充実し、家族が担ってきた老後扶養が社会化され、公的な施策により社会全体で老後扶養が行われるようになって、それが高齢者の資産維持に寄与する一因ともなっている。高齢者世帯ほど資産が多く、資産格差も顕著である。一方、少子化の中で、相続人の数は年々減少しており、相続人の取得する財産額は今後とも増加していくと考えられる。そして、相続により高齢者世代内の資産格差が次世代へと引き継がれる事態が生じつつある。

 このような状況に対し、相続税の資産再分配機能の回復を重視し、世代を超えた格差の固定化を防ぐため、さらには老後扶養の社会化に対する還元という観点から、相続税の負担を一部資産家だけでなく幅広く求めていくこともある程度必要であろう。

 2015年1月から実施される予定の相続税の主な改正点は①遺産に係る基礎控除の引下げと②税率構造の改正である。基礎控除はこれまでの(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)が(3,000万円+600万円×法定相続人の数)へと引き下げられる。課税ベースが拡大するため、課税割合は現在の4%から6%へ(東京23区平均では9.6%が14.4%へ)と上昇すると見込まれている。特に大都市圏では影響が大きく、「戸建の家を持っていると相続税がかかる」と言われている。

 相続税は超過累進税率が適用されているが、高額の遺産取得者を中心に負担を求める観点から税率区分が6段階から8段階に変更され、6億円超の部分については最高税率が50%から55%に引き上げられ、また1億円超3億円以下の部分で40%とされていた税率は、2億円超3億円以下の部分については45%に引き上げられる。なお、相続税に合わせて、贈与税も税率区分が8段階になり最高税率は55%に引き上げられる。

 幅広く負担を求めるという意味では基礎控除の引き下げが有効ではあるが、一挙に4割の引き下げは相当きつく、緩和措置として段階的に引き下げても良かったのではないだろうか。それに対して、税率構造の見直しは中途半端である。過去において最高税率は75%であり、2003年度税制改正で70%から一挙に50%へと引き下げられた経緯から見ても55%への引き上げや税率区分の増加だけでは資産再分配効果の向上は期待できない。たしかに、高所得層ほど節税手段を多く持ち、多様な節税戦略が可能かもしれない。あまり税率を高くすると、租税回避を招きかねないかもしれないが、抜け穴をふさぎつつもう一段の税率の引き上げが望ましいであろう。

横田 信武(よこた・のぶたけ)/早稲田大学商学学術院教授

【略歴】
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒業。大学院商学研究科博士課程満期退学。米国コロンビア大学大学院修了。専門は財政学、租税論。主な著書は『財政学講義』(2000年、中央経済社 共著)、『入門ビジネス・エコノミクス』(2006年、中央経済社 共著)など。