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戸崎 肇(とざき・はじめ) 早稲田大学商学学術院教授 略歴はこちらから

問われる安全性
LCC事故にみる航空業界のこれから

戸崎 肇/早稲田大学商学学術院教授

 昨年来、航空事故が多発している。航空の安全性が大いに問い直されている。特にLCC(低コスト航空会社)の在り方に深く関係があるのではないかとの懸念が広がっている。そこで、この問題について、この間起きた重大事故を事例に考えてみよう。

 昨年12月18日、インドネシアのスラバヤからシンガポールに向かっていたインドネシア・エアアジア(マレーシアに本社を置くLCCであるエアアジアのインドネシアの子会社)の飛行機がカリマンタン島沖に墜落した。積乱雲を避けるために高度を上げようとしたが、急激に上昇させすぎたために墜落したものとされている。なぜ墜落に至るような急激な上昇を行う必要があったのか。操縦の仕方に問題があったのではないかとの疑いがある。

 それ以前の同年3月8日には、マレーシアのクアラルンプールから中国北京に向かっていたマレーシア航空が消息をたち、今現在もその消息は分かっていない。この問題では乗客の多くを占めていた中国人に対する説明責任がきちんとされていないとして、中国側から非難の声があがった。

 また、7月17日、オランダのスキポール空港からマレーシアに向かっていたマレーシア航空がウクライナ上空で撃墜された。この場合には、なぜ戦争下にある危険な空域を通過したのかということが問題視された。

 マレーシア航空はLCCではないが、LCCからの激しい攻勢によって企業体力を著しく消耗していた。そのために、管理体制がおろそかになったために事故が発生したということになれば、LCCが引き起こした市場競争が健全なものだったのかどうかということも深く検証することも必要となってこよう。

 とはいえ、1年のうちに3度も、同じマレーシアの航空会社が深刻な事故を起こしたことからは、マレーシアの航空行政、市場環境の特異性によるものとも考えられる。

 しかし、問題はマレーシアに関係する事態に留まらなかった。今年3月24日、スペインのバルセロナからドイツのデュッセルドルフに向かっていたジャーマンウイングスの飛行機がアルプス山中に墜落した。副操縦士が機長を計画的にコックピットから締め出し、飛行機を急降下させ、墜落させることによって、多数の乗員・乗客を道づれに自殺したのだ。

 報道では、この副操縦士は、世間の注目を大きく浴びるような事件を引き起こすことで、パイロットの待遇改善をアピールしたかったと言っていたという。確かにLCCの場合、機体の効率的活用を図るため、できるだけ高い頻度で飛行機を飛ばそうとする。その結果、従来型の航空会社よりもパイロットの乗務時間が長くなることは推察される。しかし、実際に過労死を起こしている日本のトラック運転手のように、本当に過酷な労働条件下にあったとは考え難い。確かに、副操縦士は身体上の問題も抱えていたようで、それに関する報告を受けていながら対処しなかった点で会社側の落ち度は認められようが、個々のパイロットの精神面を含めたチェック体制をどこまで厳格に構築・運営していくことができるかは、LCCに限らず、どの航空会社にとっても対処が難しい問題である。さらに、2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、コックピットへの出入りが物理的に厳格に管理されるようになったことが今回は裏目に出た形となった。とはいえ、後戻りして出入りが容易に行われるような体制になることはない。各国ではどうすべきか基準の見直しが行われ、日本では客室乗務員を離席するパイロットの代わりにコックピットに入れるという対策が講じられようとしているが、その有効性には大きな疑問が残る。

 そして、この4月14日には、韓国ソウルから広島空港に到着したアシアナ航空が、着陸直後に滑走路から外れて無線設備に接触しながら停止。濃霧の影響があったとはいえ、なぜ異常な低高度で滑走路に進入しようとしたのか謎となっている。アシアナ航空は、韓国の第一航空会社である大韓航空の独占的状況に風穴を開けようと、1988年に設立された。日本には地方空港へ積極的に路線を展開していることが特徴的で、経営に苦しむ日本の多くの地方空港にとっては救世主的な存在であることは認めなければならない。ただ、事故・インシデントも多いことは評判となってきた。アシアナをLCCと位置付けることはできないだろうが、大韓航空をライバル視し、積極的な姿勢で市場を席巻しようとする姿勢はLCCに通じるものもある。だから、アシアナが起こした事故の意味は大きいのだ。

 ただ、LCCの本来的なあり方は、ただやみくもにコストを削るというものではない。必要なところにはきちんとお金をかけ、メリハリをつけたコスト配分を行う。そして航空事業を行うための免許を受ける上では、LCCであってもなくても、両者の間に区別はないのだ。

 日本ではまだLCCにまつわるような重大事故は発生していない。ただ、パイロット不足のために多くの欠航を余儀なくされた事例はある。また、日本でLCCとされている航空会社以上にLCCらしい航空会社と筆者が考えていたスカイマークが経営破綻に陥った。ピーチ、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパンが国内線に就航し、LCC元年と言われた2012年からはや3年が過ぎた。4月8日には成田空港にLCC専用ターミナルもオープンした。ここまでの道のりと昨今の事故をしっかりと検討し、次のステップにつなげていかなければならない。特に日本の場合、インバウンド・ツーリズムの振興や地方経済の振興など、LCCにかけられている期待は大きいのだから。

戸崎 肇(とざき・はじめ)/早稲田大学商学学術院教授

【略歴】

1963年、大阪に生まれる。京都大学経済学部卒業。日本航空入社。空港業務、旅客販売、予約管理などを歴任。日本経済研究センター出向。その後学問専念のため、退社。博士(経済学)。帝京大学、明治大学を経て2013年4月より現職。主な著書に『航空の規制緩和』『図解 これからの航空ビジネス早わかり』『航空産業とライフライン』など。