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入山 章栄(いりやま・あきえ)/早稲田大学商学学術院准教授  略歴はこちらから

日本企業がダイバーシティ経営で気をつけるべきこと

入山 章栄/早稲田大学商学学術院准教授

 昨今、「ダイバーシティ経営」という言葉が注目されています。これは一般に、企業が女性・外国人などを積極的に登用することを指します。今年8月に政府が、企業の女性登用を促すための「女性活躍推進法」を成立させたのも、記憶に新しいところです。

 筆者も、女性の社会参加には大賛成です。しかし一方で、最近の日本では、冷静な議論をせずに「ダイバーシティ」「女性の企業参加」という言葉だけが一人歩きしている印象もあります。メディアなどでは、ややもすれば「女性が企業に入れば、それだけ業績があがる」と言ったニュアンスの主張さえ見受けられます。

 しかし実は、経営学の研究成果からは、必ずしもそう話は単純でないことが明らかになっています。そこで本記事では、経営学の知見を紹介しながら、一歩引いた目で、冷静になって女性活用のメカニズムを考えてみましょう。

 経営学では、ダイバーシティには大きく二種類があることがわかっています。それは「タスク型のダイバーシティ」と「デモグラフィー型のダイバーシティ」です。

 前者は、その人の能力・経験・知識など、目に見えない部分が組織で多様化されることです。それに対して、デモグラフィー型のダイバーシティは、性別・国籍・年齢のような、目に見えやすい部分を多様化するダイバーシティです。

 このタスク型とデモグラフィー型の、どちらのダイバーシティが組織にプラスの効果を及ぼすかについては、経営学者のあいだで統計分析を用いた実証研究が40年近く積み重ねられてきました。 その総論としては、「一般にタスク型のダイバーシティは組織にプラスの影響を及ぼすが、デモグラフィー型は組織にプラスとならないどころか、場合によってはマイナスの影響を及ぼしかねない」ことがわかっているのです。

 まず、一般にタスク型のダイバーシティは、組織のパフォーマンスにプラスになります。なぜなら、組織に様々な知見・経験を持った人が集まれば、組織全体の知が多様化され、その組み合せなどから新たなアイディア・知見が生まれるからです。新しいアイディア・知は「既存知と既存知の新しい組み合せ」から生まれるという、という法則をNew Combination(新結合)と呼びます。これにしたがえば、多様な知・経験を持った人がいる組織の方が、様々な知の組み合せが試せることになりますので、結果新しいアイディア・知を生んで業績を高められるのです。

 一方、デモグラフィー型のダイバーシティのマイナスの可能性を説明するのは、社会心理学・認知心理学などの理論です。

 人はどうしても、認知に限界があります。したがって、目の前に多くの人がいると、全員の人は把握できませんので、どうしても最初は「見た目を重視してグループ化」する深層心理が働きます。

 すると、一般に最初に目につくのは性別など「見た目の違い」ですから、知らず知らずのうちに「男性グループvs女性グループ」「日本人vs.外国人」といった区別をしてしまうのです。

 したがって、たとえばそれまで男性ばかりだった企業に、一定数の女性が入ると、いつのまにか「男性グループ」と「女性グループ」ができてしまいます。このような組織内でグループができることで、両者に軋轢が生まれるのです。

 例えば、人事情報などの社内の重要なインフォーマルな情報が男性だけに廻るようになり、社内全体で情報共有が進まなくなり、それが業績悪化に繋がったりするのです。このように考えると、「政府が奨励しているから」と言った安直な理由だけで、それまで男性しかいなかった企業に数値目標を設定して女性を取り込むことは、必ずしも得策ではないことがわかるでしょう。

 繰り返しですが、筆者は女性の社会参加には多いに賛成です。しかしポイントは、「女性を取り込めば、会社の業績があがる」と言った主張があるのならば、それは安直にすぎるということです。企業経営の視点からは、「業績向上に必要なのは、あくまでタスク型ダイバーシティ」だということです。

 実際、日本企業が直面しているのは、「女性の視点」といった、これまで企業に取り込めていなかったタスク型のダイバーシティを増やすことのはずです。そのために女性を登用することは大事ですが、他方でこれは、デモグラフィー型の軋轢を生むリスクもあるのです。したがって、これまで男性中心だった日本企業が女性を登用する際には、このデモグラフィー型のマイナス効果を、徹底して取り除く必要があるのです。

 興味深い事例には、米IT大手のグーグルがあります。私の知識が確かなら、同社はその企業ビジョンに「ダイバーシティ」を取り入れるほど、ダイバーシティを重視しています。一方で、同社は「ダイバーシティはダイバーシティのために行うのではない。イノベーションのために行うのだ」とも主張しています。やはり、目指すはタスク型のダイバーシティなのです。

 一方で、そのタスク型のダイバーシティのために、同社は女性や様々な国籍の人を採用しています。しかし、グーグルのようなダイバーシティ先進企業でも、やはり先に述べたデモグラフィー型のマイナス効果が出るのだそうです。同社では、それを無意識の偏見(Unconcious bias)と呼んでいます。同社は研修などを通じて、徹底してこの無意識の偏見を取り外そうとしています。

 こう考えると、日本企業には、安直なダイバーシティ賞賛論からは一歩引いて、冷静にその意味を考え直すことが必要といえます。グーグルですら、苦労しているのです。組織に必要なのはあくまでタスク型のダイバーシティであり、あとは女性や外国人を登用したら、どうやってデモグラフィー型の効果を取り除いていくかを、徹底して考える必要があるのです。

入山 章栄(いりやま・あきえ)/早稲田大学商学学術院准教授

【略歴】

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。
三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2013年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。
2015年11月に最新刊「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」(日経BP社)を刊行予定。
http://www.amazon.co.jp/dp/4822279324/