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中林 美恵子(なかばやし・みえこ)/早稲田大学留学センター准教授(グローバル・リーダーシップ・プログラム)  略歴はこちらから

女性の政治参加と財政への影響

中林 美恵子/早稲田大学留学センター准教授(グローバル・リーダーシップ・プログラム)

女性活躍という言葉は不快?

 今年4月1日から女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が施行となり、女性の労働参画を後押しする新たな試みが始動した。一方で、女性の政治参加を促す具体的な施策は未だ見えてこない。男女ともが働き豊かな社会を築くには社会システムに関わる立法や予算措置が必要であり、女性の政治参加は重要である。

 社会構造が変わらないまま活躍と言われても、女性の負担が増すだけだと直感する人は多い。例えば、女性活躍と聞いて何を感じるかというアンケート調査(日経新聞朝刊2016年3月19日)では、大卒主婦の7割超が「懐疑的・否定派」と回答し「都合よく女性を持ちだされ不快」と感じる人も16.5%に上った。昨今は待機児童問題もクローズアップされており、女性活躍の期待と現実のギャップを埋めるには、女性自らが自律して政治に参画することが必要とならざるを得ない。

クオータ制のない日本とアメリカ

 日本と同様に女性議席のクオータ制(憲法によるもの、選挙法等によるもの、政党が自主的に設定するものなど)が存在せず、最近ようやくジワジワと女性議席数を増加させている先進国といえば、米国が挙げられる(図-1)。列国議会同盟(IPU)の女性議員比率ランキングによれば、191カ国のうち日本が156位で米国が95位(2016年2月時点)、そして世界経済フォーラム(WEF)の『世界男女格差レポート』(2015年版)では日本が145カ国中101位で米国が28位、そのうち政治分野に限ると日本が104位で米国が72位であった。近年米国では特に上院で女性議員数が著しく増加しており(図-2)、そのことによって女性議員の政策志向について多くの研究が可能になってきている。

図-1 日米の女性議員割合(1946~2015)

図-2 米国女性国会議員の比率(上院と下院)

女性が政治参加すると財政規律が低下してしまう?

 米国における女性議員増加の影響において、筆者が最も興味深く観察しているもののひとつに、財政規律との関係がある。多くの女性が労働参加することによって、伝統的に女性が担ってきた育児・介護をはじめ家庭内の無償労働時間がなくなると、公的支援を求める声が高まる可能性がある。もし女性議員がこうした変化をより敏感に反映するのであれば、つまりPitkin(1967)のいう実質的代表(substantive representation)を女性議員が果たすなら、彼女らは男性議員とは違う財政的な選好を見せると予想される。その結果、歳出圧力だけが高まるのであれば、日本をはじめ多くの先進諸国を悩ませる財政赤字増大につながってしまう。果たして女性議員は本当に財政規律低下という選好を示すのだろうか。米国上院には女性議員の急増と大量の立法データがあるため、こうした検証も可能になる。

 米国では議員1人でも法案を提出することができる。立法に至らない段階でも委員会を通過すれば議会予算局(CBO)が財政インパクトの見積もりを計算して公表する。つまり各議員の財政的な選好を比較することができるのである。この見積もり金額を法案提出者の属性によってカテゴリー分けすれば、男女議員の比較が可能だ。筆者が主に第106議会から第113議会(1999年から2014年)の15年間を対象に、上下両院提出法案・決議案等の総数96,023本、そのうち上院を調査対象とし、上院議員提出法案・決議案等の総数33,986本、上院委員会通過法案・決議案等の総数4,957本、上院委員会通過法案・決議案等のうち財政インパクトをもつもの合計3,791本(CBOが財政インパクトの見積もりを行った件数)、立法件数3,399本を調べたところ、財政規律の志向に男女差があることを確認することができた。会期ごとに集計すると、それぞれの議員が提出または共同提出した法案の歳出増加金額と削減金額、そしてそれらを合算した「ネット合計」に分類でき、ネット合計は議員の歳出と歳入のバランス感覚を示す財政規律への志向の度合いと考えることができた。歳出増加については、第112議会(2011~12年)までは女性議員のほうが歳出金額の高い年が続いたが、それ以降は女性の歳出増加志向は男性議員よりも低かった(図-3)。また「ネット合計」の推移を見ると(図-4)、女性上院議員数の増加が必ずしも上院全体の財政規律低下志向につながっているという事実はないということができた。さらには政党別に女性議員を検証すると、共和党の女性議員が近年著しく歳出削減に傾斜していることもデータで示せたが、詳しい説明については紙幅の関係で別の機会に譲るとしよう。

図-3 男女別歳出増加推移(上院1議席あたり)

図-4 男女別「ネット合計」金額(GDP千分比)

さまざまな見解と検証の可能性

 女性の活躍は政治参加によって高まり、それは徐々にマクロ経済そして財政に影響を及ぼしうる(Abrams and Settle, 1999; Lott Jr. and Kenny, 1999; Aidt, Dutta and Loukoianova, 2006; Funk and Gathmann, 2006)重要なテーマである。Stotsky(2006)によれば、女性の経済的収入は家庭内や子供の出費事項に費やされる傾向が高く、また預貯金や投資に女性がリスクを警戒する傾向が高いため、女性の労働参加がマクロ経済に安定をもたらす効果があるという。一方で女性が政治的に影響を及ぼすようになると、社会のセイフティ―ネットや政府の財政支出増加を求める傾向が高まる可能性があるとStotskyは指摘する。しかし、Funk and Gathmann(2006)の研究では、スイスの地方政府が女性参政権を付与した前と後の財政的な比較を行った結果、女性有権者の誕生は福祉関連政策、環境や公共交通などの支出を増大させたものの、防衛費や農業への補助金に削減圧力をかける傾向が強かったため、全体では約7%の支出削減すなわち財政規律につながったことを明らかにしている。

 日本においても、女性の政治参加が何を意味するのかについて、財政的な志向の側面から検証を行うことは興味深い。しかしそれには、立法活動をとおして制度に影響を及ぼす女性議員数の増加や、議員が1人で法案提出できる立法府の環境の実現、あるいは法案の財政的なインパクトを試算する公的機関の創設など、男女問わず立法データの充実が先ず必要になる。

参考文献・資料

Abrams, B. A. and Settle, R. F. (1999) 'Women's Suffrage and the Growth of the Welfare State', Public Choice, 100 (3-4), 289-300.
Aidt, T. S., Dutta, J. and Loukoianova, E. (2006) 'Democracy Comes to Europe: Franchise Extension and Fiscal Outcomes, 1830-1938', European Economic Review, 50 (2), 249-283.
Lott Jr., J. R. and Kenny, L. W. (1999) 'Did Women's Suffrage Change the Size and Scope of Government?', Journal of Political Economy, 107 (6 PART 1), 1163-1198.
Funk, P. and Gathmann, C. (2006) 'What Women Want: Suffrage, Gender Gaps in Voter Preferences and Government Expenditures', Gender Gaps in Voter Preferences and Government Expenditures, Internet Publication (July 2006).
Pitkin, H. (1967) The Concept of Representation. Los Angeles: University of California Press.
Stotsky, J. (2006) 'Gender and Its Relevance to Macroeconomic Policy: A Survey', IMF Working Paper.
CBO 米議会予算局財政インパクト見積もり
IPU 女性議員割合ランキング
WEF 世界男女格差レポート
日経新聞朝刊 「大卒主婦のホンネ」 2016年3月19日

中林 美恵子(なかばやし・みえこ)/早稲田大学留学センター准教授(グローバル・リーダーシップ・プログラム)

【略歴】

埼玉県深谷市の農家に三姉妹の長女として生まれる。大阪大学博士(国際公共政策)、米ワシントン州立大学修士(政治学)。元衆議院議員。米国在住14年間のうち、永住権を得て1992年にアメリカ連邦議会・上院予算委員会スタッフ(米連邦公務員)として正規採用され、約10年にわたり米国家予算編成を担った。『日経ウーマン』誌の政治部門「1994年ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞、1996年アトランタ・オリンピック聖火ランナー。2002年に帰国し、独立行政法人・経済産業研究所研究員、跡見学園女子大学准教授、米ジョンズ・ホプキンス大学客員スカラー、中国人民大学招聘教授、財務省・財政制度等審議会、文部科学省・科学技術学術審議会(評価委員会と国際委員会)、経済産業省(資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会と独立行政法人評価委員会)等の公職、および衆議院議員(2009~2012)を経て、2013年より現職。

【主著】

2004 『日本の財政改革』 東洋経済新報社(共著)
2005 『シチズン・リテラシー』 教育出版社(共著)
2006 『新・行財政構造改革工程表』 ぎょうせい出版(共著)
2006 『世界の市民社会』 大阪大学NPO研究センター(共著)
2008 『発言力4:小泉内閣検証』 三和書籍(共著)
2009 『オバマのアメリカ・どうする日本』 三和書籍(共編著)
2012 『グローバル人材になれる女性(ひと)のシンプルな習慣』 PHP研究所(単著)