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北川 正恭(きたがわ・まさやす) 早稲田大学政治経済学術院教授・早稲田大学マニフェスト研究所所長 略歴はこちらから

生活者起点の行政、政治-理論と実践-

北川 正恭/早稲田大学政治経済学術院教授・早稲田大学マニフェスト研究所所長

生涯学習の環境

 23年ほど前、文部政務次官在任中にアメリカのバークレー大学を視察した。当時ハイスクールからストレートに入学するフルタイムスチューデントは全学生の半分以下で、単独の科目だけの履修とか再教育を受ける社会人などパートタイムスチューデントが半数以上いるとの説明を受けて、何時でも何処でも何才からでも学習できる体制が整っていることに驚いた。その頃日本は文部省(当時)に生涯学習政策局が誕生して社会人も国の教育政策の中に組み入れられ、教え育てる教育と自ら学び習う学習の概念が取り入れられた頃であった。

価値前提・透明な行政経営の時代へ

 20年前、三重県知事就任早々官官接待等公金の不適切使用が発覚した。部長会議を開催し筆者はこの際裏金による公金の不適切使用はやめようと発言した。部長の中でも人格識見が高い人望のある部長が私は反対である。行政は社会の実態に合わせて着実に効果をあげていくべきである。今官官接待を三重県だけがやめたら他県との競争に負けることになる。知事は現実を見て判断して欲しいとの発言であった。

 今までのことを前提として発想する事実前提(フォアキャスティング)なら部長の発言は現実に即した提案である。一方で分権が進んで国との関係が上下主従から対等協力に変わり、自己決定、自己責任の新しい価値を作り出す価値前提(バックキャスティング)の経営や情報公開を前提とした透明な行政経営が求められる時代を迎えていた。部長会議の論争は時代の転換点が必然的にもたらす事実前提か価値前提かの避け難いせめぎ合いであった。

官僚起点から生活者起点の発想へ

 3ヶ月の期間を設け部長会議で検討を重ねた。その最中外部からの圧力、内部告発、流言飛語が飛び交うなど権力闘争もあり混乱を極めたが返還、処分、改革断行の三点セットで不適切使用は全廃となった。これが10年前であったら筆者の提案は潰されていたし、10年後であったら刑事事件に発展していたであろう。実践の現場では理論的に正しくてもタイミングを間違えば効果がないどころか害になることもある。

 官官接待は避けられない必要悪であるという立ち位置から良心に従って解決しようとする変化は価値前提で真正面から取り組んだ成果であり、修羅場を通らなければ出せない結論であった。それはまた当時情報公開が進み官僚起点の発想から生活者起点の発想に立ち位置を変えざるを得ない理論の進展があったから出せたとも言える。日本全体が必要悪と認めてきたことも三重県が一点突破したら全面展開に発展して全国的に官官接待が無くなったことは実践が引き金となって社会変革を起こしたと見ることができる。

 どの組織も自分たちの作り上げてきた文化を否定することは至難なことである。しかし科学技術の進歩、時代の変化等で予定調和の日常の努力では追いつかず、抜本的な改革を迫られる時は必ずくる。抜本的な改革を実現するには理論がなければ成功は覚束ない。理論なき実践は暴挙になる可能性が高い。しかし理論だけでは大改革は成就しない。実践なき理論は空虚と言える。実践を通じて試行錯誤してあらゆることが化学反応を起こして千変万化し、そこに新たな理論が必要となる等理論と実践の連続した循環の中からはじめて成果が生まれる。

世界で最も開かれた大学へ

 12年前三重県知事退任の記者会見直後早稲田大学から、この度高等教育制度が変り研究職大学院と合わせて専門職大学院を併設することが可能になり専門職大学院として公共経営研究科を設置することになった。目的はグローバル化し科学技術の進歩が著しい今日現場に出て直ぐ実践に役立つ学習の場と学習意欲のある社会人や過去に勉強したことが古くなって再度勉強せざるを得なくなった社会人等に広く学習の場を提供することである。ついてはあなたが経験されてきた政治の実践の現場での生々しい実態などを学生に教えて貰えないかとのことであった。公共体も管理型から経営型に変わらなければいけないと主張してきた筆者にとって公共経営大学院という名称は魅力的でありバークレー大学のことなども頭に浮んだ。当時の片岡寛光研究科長の熱意に感じ入ったこともあり前述したような経験を伝えることができればと教授に就任した。

 以来12年間新興の専門職大学院である公共経営研究科は紆余曲折はあったが関係者の努力で草創期からネクストステージに入ろうとしている。研究科設立時よりさらに時代は進んでIOT(インターネット・オブ・シングス)が一般用語化するなどITの融合を始め人類未踏の領域に入り高等教育の重要性はいや増すばかりである。退任するにあたって研究職大学院と専門職大学院を始め夫々の部門が特長を生かして、お互いが共鳴しあって理論と実践の好循環を通じて国内外の 老若男女、パートタイム、フルタイムスチュウデントの期待に応え、誰でも何時でも何処でも何才からでも学べる世界で最も開かれた大学に早稲田大学が発展することを願ってやまない次第である。タイトルの生活者起点の行政、政治-理論と実践-は筆者の最終講義の演題である。

北川正恭オフィシャルウェブサイト http://www.office-kitagawa.jp/
早稲田大学マニフェスト研究所 http://www.maniken.jp/

北川 正恭(きたがわ・まさやす)/早稲田大学政治経済学術院教授・早稲田大学マニフェスト研究所所長

【略歴】

1983年12月:衆議院議員当選(4期連続)
1995年4月:三重県知事当選(2期連続)
2003年4月:早稲田大学大学院公共経営研究科教授就任
2003年7月:「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表
2008年3月:「地域・生活者起点で日本を洗濯(選択)する国民連合(略称:せんたく)を立ち上げ、代表就任
2009年12月:地域主権戦略会議構成員(2013年3月終了)
2011年:相馬市復興会議顧問
2013年:長野県政策研究所チーフアドバイザー 新潟州構想検討推進会議顧問

【主著】

・生活者起点の「行政革命」(ぎょうせい)
・マニフェスト革命~自立した地方政府をつくるために~(ぎょうせい)
・マニフェスト進化論(生産性出版)