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勝間 靖(かつま・やすし)早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 略歴はこちらから

国連で見えにくい日本の「顔」

―地球規模で活躍する日本人・アジア人職員の増加を―

勝間 靖/早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授

国連キャリアへの高い関心

 2009年3月6日夕方、早稲田大学は、外務省との共催で、国連ニューヨーク本部人事担当者3名を招いて「国連キャリア・ガイダンス」を実施した。早稲田大学の学生や教職員だけでなく、国際協力に関心を持つ学生と社会人に広く参加を呼びかけた。それは、すでに仕事を持っておられる方を含め、できるだけ多くの皆さんに、キャリア構築のなかで国連を選択肢の一つとして考えてもらいたい、という願いの反映であった。

 学生のいない春休み中でもあり集客を心配したが、大雨にもかかわらず、500人を超える参加者で会場は満杯、別室での同時中継も行った。このことは、国連でのキャリアについて、とくに若者を中心に、強い関心を持つ方々が広範に存在していることを顕著に示した。

国連システムのなかの日本人職員

国連キャリアガイダンス

 国連キャリアには、若い人びとだけでなく、外務省をはじめとした日本政府も強い関心を示している。一つの大きな理由として、国連で働く日本人職員が「望ましい職員数」に達していない現状があるからである。

 国連職員には大きく分けて、通常は国際的な公募を通して採用される「専門職」と、現地採用を中心とした「一般職」がある。国連システム全体のなかで専門職に限ってみると、約2万5,000人の職員がいるが、そのうち日本人は約700人である。つまり、日本人職員が3%未満しかいないのが現状なので、国際社会における日本への高い期待を考えると、もっと多くの日本人が国連で働いていてもいいのではないか、と直感的に気がつく。

 国連システムと一口に言っても、そのなかには、多国間外交の舞台となる「国連事務局」のほか、ユニセフのような「基金・計画」、ユネスコのような「専門機関」がある。このうち、「基金・計画」をみると、ユニセフのほか、国連難民高等弁務官事務所、国連開発計画、国連世界食糧計画など、着実に日本人職員を増やしてきているところもある。また、「専門機関」をみると、ユネスコのほか、国際労働機関、世界保健機関、国際原子力委員会、国際農業機関など、日本人職員がある程度の存在感を示している機構がある。その反面、問題は、「国連事務局」において日本の存在感が薄いところにある。

国連事務局における課題

国連キャリアガイダンス

 国連事務局の人事については、大別して、内部部局や地域経済委員会などのほか、それと独立して人事管理が行われるPKOミッションがある。国連事務局の内部部局には約2,800人の専門職員がいるが、そのうち日本人職員は110人を少し超えるに過ぎない。国連事務局の予算の16.6%を分担し、米国に次ぎ2位の拠出国である日本だが、日本人職員が4%しかおらず、日本の人的貢献は低い。「望ましい職員数」は249~337人なので、今の2倍の日本人職員がいてもおかしくないことになる。

 しかし、第二次世界大戦の敗戦国であった日本の国連への加盟が遅かった(1956年12月18日)という歴史的背景があるし、国連事務局のポストの数は限られていることを考えると、短期間で大幅に現状を改善することは難しいかもしれない。他方、同じような歴史的背景をもったイタリアやドイツは「望ましい職員数」を達成しているので、日本としても一層の工夫が必要ではないかとも思える。今後、国連事務局においては定年退職者がまとまって出ることが予想されるので、そうした機会を活用するためには、先に述べた「国連キャリアに関心を持つ人びと」が自分の能力をうまく育成できるよう、キャリア計画を支援することが重要であろう。

 次に、PKOミッションである。国連が世界各地で展開する国連平和維持活動を担うPKOミッション(6,000人以上)においても、日本人職員(24人)は存在感が薄い。日本人職員は1%にさえ達しておらず、国際貢献を謳う日本としては大きな課題である。国連事務局のなかでも、内部部局とは違い、PKOミッションには新規募集もあるので、改善の余地は大いにある。PKOミッションに文官で行くために必要とされるトレーニングを受ける機会や経験を積む場所が限られていることから、外務省は、平和構築分野で人材育成するための研修コースを設けている。とは言え、内部部局がある程度は長期の雇用になるのに対して、PKOはミッションで、契約期間が短いため、終身雇用がまだまだ一般的な日本の組織に勤めていると、こうした数年の契約のために出るのは難しい。この点、日本の組織には、その人材を一時的に国際貢献のために派遣できるよう、柔軟な仕組みを考えてもらいたい。

 もちろん、人数だけの問題ではない。国際機関の事務局長など、幹部ポストについて、リーダーシップを発揮できる日本人がもっと出てきて欲しい。すでに日本の組織において管理職として活躍している日本人が国連に出て行きやすくするためには、一定期間休職ができるようにするなど、送り出す側の課題もあるのではないかと思われる。

国連キャリアとアジア諸国

 ここからは、国連をはじめとする国際機関の側からみた人事上の課題に触れたい。国連は、多国間外交の舞台として加盟国間の利害を調整する場であると同時に、国際社会として地球規模の課題に取り組むための具体的な活動を展開している。そうした国連の職員は、各国の国益から離れ、国際社会のために中立の立場で働く「国際公務員」である。その採用においては、衡平な地理的配分が考慮されなければならない。また、予算の分担率を加味して、加盟国ごとに「望ましい職員数」が明示されている。こうした配慮は、国連事務局の正統性を高める上でも重要な人事上の措置であろう。

 しかし、実際には、米国、ドイツ、フランス、イタリア、英国の5カ国の国籍を持つ職員だけで、国連事務局の30%を占めているのが現状である。国連設立に関わる歴史的背景に加え、予算の分担率の高さを考えると、欧米諸国の存在感の大きさは、ある程度、理解できる。反対に、アジアのプレゼンスについては、まだまだ改善すべきところが多い。中国、インド、フィリピンが「望ましい職員数」を達成しているのに対して、日本のほか、韓国は下限を下回っている。また、紛争を経て復興を進めているカンボジアなど、そもそも国際的に活躍できる人材が不足している国もアジアには多い。

アジア地域協力における日本の大学の役割

 国連におけるアジア人職員のプレゼンスの低さを考えたとき、その改善において日本の大学が果たせる役割も大きいのではないかと日頃から感じている。私が所属する早稲田大学大学院アジア太平洋研究科は、国際関係学専攻をもち、日本語と英語のいずれかで科目履修と論文作成ができる。日本語が必須でないこともあり、500人ほどの大学院生の7割は日本国籍でない国際学生である。アジアを中心として、途上国からの留学生も多く、国際協力や開発援助への関心が強い。近隣のアジア諸国からの留学生に対して、国際公務を担えるような研究・教育環境を提供するよう心がけている。また、同時に、こうした多文化環境のなかに入ってくる日本人学生は、大いに刺激を受けているようだ。

 大学のキャンパスでできることは限りがあるので、在学中における実践的なトレーニングの機会として、国際機関でのインターンシップを奨励している。早稲田大学は、海外経済協力機構(OECD)と覚書を交わし、毎年5名近くの大学院生をパリ本部へインターンとして派遣している。また、私の所属する研究科は、アジア開発銀行との協定に基づき、数名の大学院生をインターンとして送り出している。また、国連事務局、ユニセフ、ユネスコ、国連開発計画、世界銀行などでインターンシップを経験する者も多い。

 日本の大学がアジアにおける高等教育の重要な拠点となるためには、アジア地域協力のための人材を育成することに加え、地球規模の課題に取り組むためのアジアにおけるプラットフォームになることも必要であろう。早稲田大学では、文部科学省からの支援を受け、「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」グローバルCOEプログラムによって博士レベルの人材、「東アジア高度人材養成共同化」大学院教育改革支援プログラムによって修士レベルの人材の育成を進めている。こうした取り組みが、地球規模の課題の解決へ向けた、アジア地域協力につながることを期待したい。

参考URL

外務省国際機関人事センター
http://www.mofa-irc.go.jp/

グローバルCOEプログラム「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」
http://www.waseda-giari.jp/index_j.html

大学院教育改革支援プログラム「東アジア高度人材養成共同化」
http://www.waseda.jp/gsaps/gp/index.html

勝間 靖(かつま・やすし)/早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授

【略歴】

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻主任・教授、早稲田大学グローバル・ヘルス研究所所長。日本国際連合学会で事務局長(理事)、日本平和学会で編集委員長(理事)、国際開発学会で広報委員長(常任理事)を務める。 ホンジュラスでのボランティア活動とカリフォルニア大学サンディエゴ校留学を経て、国際基督教大学教養学部と大阪大学法学部を卒業後、同大学院で法学修士。海外コンサルティング企業協会に勤務してアジアとラテンアメリカで開発調査に従事した後、ボリビアでの小口金融に関するフィールドワークをもとに、ウィスコンシン大学マディソン校でPh.D.取得。その後、国連児童基金(ユニセフ)に入り、メキシコ、アフガニスタン/パキスタン、東京の事務所での勤務を経て、現職。
最近の研究関心として、開発への人権アプローチ、ライフスキルを基盤とした保健教育、マラリアやHIV/エイズ対策のための国連と企業とのパートナーシップなどがある。
共編著書として、『国際緊急人道支援』(ナカニシヤ出版、2008年)、『グローバル化と社会的「弱者」』(早稲田大学出版部、2006年)、『続入門社会開発~PLA:住民主体の学習と行動による開発』(国際開発ジャーナル社、2000年)がある。