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林 志行(りん・しこう)/早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

内向き志向の処方箋

林 志行/早稲田大学理工学術院教授

 今年3月に来日したハーバード大学の学長が、中国や韓国に比べ、日本からの留学生の比率が激減していることを訴えた。7月末には、今春の新入社員(400人にインターネットを通じて調査)のおよそ2人に1人は海外で働きたいとは思わないという、産業能率大学の調査結果が発表された。これらがマスコミで取り上げられ、日本人の内向き志向として論議を呼んでいる。

 しかし、企業の国際戦略を専門とし、様々なかたちで海外進出を続ける日本企業と接している筆者は、この「内向き志向」説に違和感を覚えている。そこで、日本人は本当に内向き志向なのか、考えてみたい。

日本人は本当に内向きなのか

 冒頭で触れた産業能率大学の調査は、これまで働いたことがない新入社員を対象とし、「海外で働きたいとは思わない」というネガティブな側面が注目されたが、内閣府が9月に発表した最新調査(全国の成人男女3000人に面接方式で実施、1913人から回答)では、20代の40.0%、30代でも33.7%が「海外就労に関心を示している」というポジティブな側面に焦点が当てられた。同調査は社会人を多く含むことから、筆者は、社会での経験を得ると現実対応として海外に対して前向きになるのではと考えている。

 問題は、働きたい国や地域が米国48.0%、フランス、ドイツ、英国など西欧諸国が43.9%に対し、中国は22.8%、韓国が12.6%と欧米偏重であったことだ。また、外国での就労に関心がない人の理由は、「語学力に自信がない」が52.3%で最も多かった。

 このことからは、国際化、あるいは海外に対するイメージがいささか固定されていることが示唆される。実際、90年代から筆者が携わった政府の仕事(海外からの投資や外国人観光客誘致)でも、残念ながら、対象とする外国のイメージは金髪の欧米系であり、英語をペラペラ話すというステレオタイプに固定されがちだった。最近になってようやく、成長著しい中国やアジア諸国が観光客の誘致先として有望であることが理解されるようになってきた程度である。

 また、流暢な(ネイティブに近い)英語を話せなければ、うまく仕事が回せないといった恐怖心があることが伺える。しかし、実務では、それよりも仲間とのチームワーク、いざというときに頼りになる逃げない姿勢、日々の勤勉さの方が重要であることは言うまでもない。

企業にとって避けられない国際化

 では、企業はどう考えるか。好むと好まざるとに関わらず、2012年末には、楽天やユニクロが英語を社内公用語化する。また、日立製作所のように、来年以降の新卒社員は、海外赴任を前提に採用するところも出てきた。英語公用語化については、「日本人同士では効率が悪い」「そこまでしなくても」というコメントも耳にするが、視点を変え、将来の働き方のイメージを拡張してみて欲しい。こうした先進企業が目指すのは、日本語が堪能ではない外国人が日本国内のオフィスで普通に働き、海外同様、英語での会話に不自由しない環境であり、国内の地方勤務も海外勤務も勤務地としては同じであるという発想だ。

 筆者がものづくりの委員会でご一緒する企業の役員などからは、海外研修に躊躇する新人は確かに多いという話を聞く。本当に優秀な人材は、何処に行くのも厭わず、チャレンジ精神旺盛だが、ボーダーライン上にいる多くの人材が一歩抜きんでようとする意欲に欠けるのはもったいないことだと意見を同じくした。

若いうちの経験こそが重要

 このような二極化の波の中では、先に経験し、チャレンジした人に次なるチャンスが与えられる。トーマス・フリードマンが著書『フラット化する世界』で指摘した「フラット化」は、何処で誰がやっても同じレベルのことがたやすく出来る世界観であり、より「早く・安く・確実」に実行できる人が勝つとされる。

 これからの国際化では、若い(すなわち、フットワークの軽い=「早く・安い」) ときに経験した人が、その経験をもとに(=「確実に」)、次のチャレンジのためのカギをつかめるようにする戦略が採用されよう。それが進化し続けるグローバル経済の中で生き残るための処方箋となる。既にアジア諸国では、パワーエリートと呼ばれる人たちが若い頃に世界の果ての(あるいは国内僻地など)過酷な環境で様々な経験を積み、その成果をもって、グローバルカンパニーのリーダーとしての資質を磨く時代に入っている。

 日本の若者も、昨今流行りの自分探しの旅を続けていても仕方がない。悩みは尽きないだろうが、不足するスキルは入社後の企業内OJTや社会人大学院などで磨きをかけ、自らの足元をしっかりさせれば良い。そして、できればその中で、冒険をすることを薦める。一例として挙げるならば、「オンタイム」「オフタイム」を切り替えた、二足のわらじスタイルはどうだろう。例えば、オフタイムにBOP(ボトム・オブ・ピラミッド、世界の最貧困層40億人)への支援ビジネスという国際貢献事業に出来る範囲で参加することで、オンタイムでのビジネススキル獲得にも役立つだろう。こうした在り方は、NGO、NPOの新しいビジネスモデルとしても注目されよう。

 あまり厳しい話をしても仕方がないので最後に筆者の経験を披露したい。筆者は30代の頃、多忙を極める中、時間を見つけては休みに海外に出かけた。実際に見たり聞いたり、汗をかき、埃や臭いを体感することで、その国への親近感が沸く。旅先でのいろいろなアクシデントの経験は、ビジネス会話の途中で話に詰まったときや初対面の相手の心をつかむのに有効だ。海外映画やドラマを見ても、滞在した都市ならば、自らが国際戦略や日本の成長戦略を描く上でもより多くの置き換えが可能となり、効果的なヒントを与えてくれる。

 リアルとバーチャルをつなぐ狭間にあるのは自分自身である。青年よ、旅に出よ。

林 志行(りん・しこう)/早稲田大学理工学術院教授

【略歴】
早稲田大学理工学術院教授(経営デザイン専攻)。専門は、国際ものづくり戦略、リスクマネジメント。日興証券投資工学研究所、日本総合研究所を経て、国際戦略デザイン研究所を設立、代表。2006年より、東京農工大学大学院教授を兼任。2010年4月より現職。著書に「マザー工場戦略」(2009年、日本能率協会マネジメントセンター)、「事例で学ぶリスクリテラシー入門」(2005年、日経BP)など。