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高瀬 浩一/早稲田大学商学学術院教授 略歴はこちらから

日本のODAに対する私の提言

高瀬 浩一/早稲田大学商学学術院教授

 新年にあたり、ODAの研究者として、日本のODAに対する意見や要望を簡単に述べてみたい。最近、対中国ODAに関する報道を頻繁に耳にするようになった。中国は昨年GDP総額で世界第2位の経済大国となったと同時に、長年日本の最大援助受入国だったこともあり、中国へのODAは確かに重要な問題だろう。とはいえ、中国も日本にとっては多数の受入国の中の1つであり、日本のODA政策は途上国全体を対象に議論されるべきではないだろうか。日本の貿易相手国は世界のほとんどの国であるという現実があり、そして、日本は何十年にもわたって主要な援助拠出国であったという事実もある。したがって、その最初の議論は、特定の国や地域に関する、あるいは、最近の事件や現象に限られた、近視眼的なものであってはならないだろう。

 過去から現在まで、日本のODAの根本的な問題は、あまりにも多くの省庁やその外郭団体が、必ずしも意図が明確でなく、時には重複した目的の援助を担当してきたことであろう。そのため、国としての統一的かつ効率的な援助政策の実施が困難となっている。一昨年、ODAローン(円借款)を担当するJBICの部門が、日本の贈与と技術援助の大半を担当してきた旧JICAに合併され、新しい組織(新JICA)が誕生した。新JICAは日本のODA総額に占める割合からすると、まさしく巨人であるが、新JICA以外のODA関係機関が大幅に削減されることはこれまでなかった。

 新JICAはODA総額では、世界銀行やアジア開発銀行に次ぐほどの、世界でも有数の開発援助機関となり、その活動内容も国内外でかなり評価されるようになった。よって、まず「開発援助基本法」のような法律を制定し、他国同様、JICAを「開発援助庁」として政府内で完全に独立した組織とし、全てのODA事業を任せるようにすることが急務である。そうすれば、無駄な支出は根絶され、日本にとって真に適切なODA拠出が可能となるだろう。

 最近の研究でも、JBICや旧JICAのODA活動に関する情報公開度は高い一方、その他の省庁等は一様に低く、日本のODA全体の透明性が他の先進国と比較して決して高くないという結果が報告されている。新JICAでも、技術協力の各プロジェクトの内容(支出額等)が完全に公開されているわけではない。日本はODA活動を国際貢献の柱としていると世界に公言するのであれば、近い将来、新JICAが全ODAを担当した上で、学術やマスコミなどの外部評価にも十分耐えうる情報公開を目指すべきであろう。さらには、途上国において広範に張り巡らされたネットワークを通じて、日本と国際社会のため独自の情報収集と情報発信を担う機関にまで成長するよう期待する。

 近年、世界のODAを含む国際協力的資金の流れは、その様相が激変し、混沌としてきた。過去にもOPEC諸国からの資金提供が例外的に見受けられたが、韓国等の新しいOECD加盟国が、本格的にODA拠出をスタートさせたことも一因ではある。しかし、最も顕著なのは、中国を代表とするBRICS等の新興国からアフリカを初めとする多くの途上国へ流れていると推測される大規模な資金であろう。さらに、従来の先進国から途上国へのいわゆる「南北援助」と対照的に、途上国同士の「南南援助」とよばれる資金協力も定着しており、タイやマレーシアが地域の有力国として、近隣諸国を対象に様々な資金協力を行っている例もある。

 OECD加盟国からのODAは、その目的を受入国の経済発展と厚生の向上とするという厳しい条件があり、透明性も一定以上確保される必要があった。しかし、最近では、そのような条件を満たさず、主に自国の資源確保や貿易促進のためのフローが世界中に蔓延するようになったようである。したがって、日本のODA政策はこの新しい状況に合わせて、ODAのみでなく全ての国際協力支出という、最大限大きな枠組みの中から決定されるべきであろう。

 最近、JBICは米国フロリダ州の高速鉄道プロジェクトにおいて、日本企業連合による新幹線建設計画に融資すると発表された。日本の援助拠出第1号がインドの火力発電所のプラント輸出に対する円借款であったことを考えると、意味ある先祖がえりといえよう。これからは、日本と対象国の事情に合った形の資金協力がなされるべきである。経済状態が非常に遅れた国には贈与を、経済発展が未だ低い国には低金利の円借款を、経済発展が進んだ途上国や先進国には市場金利に準じた円借款を、というように、金利設定を中心に案件ごと機能的かつ弾力的な契約を心がけるべきであろう。

 最終的には、直接受入国に供与される2国間援助に、国際機関に対する拠出金(多国間援助)をも加えた上で、日本にとって最適な国際協力計画を策定すべきであろう。世界第2位の拠出国として、各国際機関に対して日本の意向を主張し、円の国際化や日本の進んだ技術の伝播を通じて、国際社会における日本の責任と役割を十分果たすようになることを強く願っている。

高瀬 浩一(たかせ・こういち)/早稲田大学商学学術院教授

【略歴】
1988年早稲田大学商学部卒業
1995年ボストン大学大学院経済学部博士課程修了、Ph.D.
1996年福岡大学経済学部に赴任
2001年早稲田大学商学部に転任、現在に至る。

【論文】
1.高瀬浩一(1999)、「日本の経済協力の財務的及びマクロ的効率性」、フィナンシャル・レビュー、第52号、大蔵省財政金融研究所
2.菊地俊郎・高瀬浩一(2009)、「国家間交渉としての開発援助に関する研究 への試行:戦略的分析による基礎的考察」、国際開発研究、第18巻、第2号、国際 開発学会