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池上 重輔(いけがみ・じゅうすけ)早稲田大学 Center for International Education 准教授 略歴はこちらから

アジアビジネスの最前線:
台湾企業康師傅(カンシーフ)の中国展開と日本企業

池上 重輔/早稲田大学 Center for International Education 准教授

 私が属している早稲田大学アジア・サービスビジネス研究所(所長: 太田正孝教授)では、インドを含めた広域アジア圏におけるビジネスを研究しています。国際ビジネスというと日系か欧米系の企業をイメージする方が多いかと思いますが、これからはアジア圏の新興企業の実態を知り、そうした企業とどのように連携するかを研究することも重要です。また、これまではイノベーションは先進国で最初に発生するという前提でビジネスが行われてきましたが、これからは新興国発のイノベーションをどのように取り込むかの研究も重要になってきます。そうした認識を背景に、本稿では台湾発の企業で中国において大変な成功をおさめている頂新グループの中核企業である康師傅(カンシーフ※1)を紹介します。

台湾発祥企業として中国市場でトップブランドに

 中国は巨大市場となり、世界需要のうち鉄で27%、石炭の46%を消費しています。即席麺においても世界需要約950億食(年)の約45%は中国で消費されています。規模で言えば、カップラーメン発祥の地である日本の8倍です。国際経営にはI-R理論というものがあり、Integration(国際統合)とResponsiveness(地域適応)の2軸で業界や業務を分類します。一般に食品はResponsiveness度が高く、地域色の強いビジネスと認識されています。故に、通常は海外から参入した企業がその国でトップシェアを獲得、維持することは難しいと言われています。しかし頂新グループは、海外から参入して、中国即席麺市場で55%以上というトップシェア※2企業になりました。図1)

図1)

 2010年の決算では、頂新グループは総売上662億元(約9268億円)※3、うち最も大きな割合を占めるのは康師傅部門で主に中国市場でインスタント麺、飲料、菓子を販売しており、その売上高は442億人民元(約6188億円)、税引き前利益は746百万ドル(約104億円)でした。過去5年間の康師傅の年平均成長率は約20%と驚異的なものです。

 通常、国際ビジネスでは母国で構築した優位性を基盤に海外展開を行うと言われますが、頂新グループは、母国である台湾では食品事業を営んでいませんでしたので、参入当時に大きな優位性は持っていませんでした。頂新グループの中国での成功は、進出先国で新たに競争優位性を構築した稀有な事例と言えるしょう。

1980年代末の中国市場への参入

 頂新グループはもともと魏和徳氏が、1958年に台湾彰化県永靖郷に設立した機械の潤滑油を販売する「香新油廠」が前身でした。1980年に魏和徳氏が没し、氏の4人の兄弟(長男:魏 應州 現会長、二男:魏 應交、三男:魏 應充、四男:魏應行)が家業を継ぎ、1988年には、中国に会社を設立しました。当初は高品質の食用油を中国で販売していましたが、1992年8月にふとしたきっかけから2種類の袋麺を中国で発売しました。一つは康師傅紅焼牛肉麺、もう一つは台湾の伝統的な味付けの台湾澹麺でした。康師傅紅焼牛肉麺はその後7回のパッケージング改良、30回を超える製品改良を経て最も売れている中核メニューとなりました。

 台湾風の味付けだった台湾澹麺の売れ行きは芳しくなかったのですぐに打ち切りました。通常は本国由来の製品にはこだわりがあり、多少売れ行きが芳しくなくてもなんとか売り込もうと四苦八苦することが多いのですが、康師傅は元々カップ麺を母国で営んでいなかったので、台湾風味付けの台湾澹麺を早めに打ち切って、すぐに新しい味に挑戦できたと思われます。本国で強みが確立されていなかったことが現地適応の柔軟性につながったという点は、今後の日本企業が発想の転換をするうえで参考になるのではないでしょうか。康師傅は、母国の優位性を移転しないかわりに徹底的に現地ニーズをくみ取ることに注力していたのです。立ち上げ当初から顧客調査に注力し、毎回100,000人程度の消費者調査を行い、現地の味覚に合わせた商品開発に腐心し、現在では200以上の地域ブランドを擁し地域適応を徹底しているのが康師傅の強みの一つと言われています。図2)

図2)即席麺主要製品と地域ブランド

日本企業との連携

図3)新たな柱となった飲料事業

 最初のもう一つの特徴は日本企業との連携です。1999年にサッポロ一番などで有名なサンヨー食品が、康師傅の株式の3分の1を取得しました。これはアジア金融危機時の金融支援という位置づけでしたが、結果的には康師傅はサンヨー食品との提携を通じてカップ麺のノウハウを強化しました。日本企業との提携のメリットを感じた魏応州氏はその後も2002年の伊藤忠との合弁会社設立など、日本企業との連携を進めたのです。

 頂新グループは、2010年には亀田製菓、カゴメ、アサヒホールディングス、日本製粉、吉野家、ユニーなど10社の日本企業と戦略的な提携関係を結んでいます。魏会長は意図的に、日本で2~3番手の成長意欲の高い企業との提携を狙ことが多いそうです。その理由は、1番手企業は成功体験に縛られて柔軟性に欠ける傾向があり、2番手以下の企業のほうが挑戦意欲も高くお互いに成長余地が大きいからとのことです。日本企業との連携を更に強化するために、2007年からは中国では最も認知度の高い早稲田大学に定期的に複数名の社員を送っています。早稲田大学で1年間の留学後、提携する日本企業で働くのです。こうした知見も活用しながら康師傅は即席麺と飲料を2大事業として成長し、現在は飲料事業規模のほうが即席麺を上回っています。図3)

 こうした頂新グループの市場および、パートナー選択の戦略性から我々が学べるものは多いのではないでしょうか。

※1:中国ではカンという語感には健康、富のイメージがあるという
※2:金額ベース(ニールセン調査)。ボリュームベースでは40%前後なので、比較的高価格。
※3:元/円=14円と仮定

池上 重輔(いけがみ・じゅうすけ)/早稲田大学 Center for International Education 准教授

【略歴】
専門は国際経営、経営戦略。BCG、MARS、ソフトバンク、ニッセイキャピタルなどでの実業経験を経て大学へ。ETP(欧州ビジネスマン向けのエグゼクティブプログラム)のアカデミックコーディネーター。英国ケント大学 国際関係論修士、英国シェフィールド大学 国際政治経済学修士、英国ケンブリッジ大学MBA取得。主な著書「日本のブルー・オーシャン戦略」ファーストプレス、共著「シリーズ国際ビジネス1 国際ビジネス入門」中央経済社、共訳「インドウエイ」英治出版等多数。