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白木 三秀(しらき・みつひで) 早稲田大学政治経済学術院教授・トランスナショナルHRM研究所所長 略歴はこちらから

グローバル人材とは何者か?
日本人が世界で活躍するための秘訣

白木 三秀/早稲田大学政治経済学術院教授・トランスナショナルHRM研究所所長 

 多国籍企業で働くグローバル人材の育成や評価について考察する際には、いくつかの視点が必要かと思います。

 1つ目は、現地法人や日本人派遣者のミッションを決定するものは何かということです。私は国や地域による差異よりも、企業のライフ・ステージによる差異の方が大きいと考えます。スタート・アップの段階の企業においては、方針を示し、部下をぐいぐいと引っ張っていくリーダーが求められますが、操業して数十年経つような企業においては、製品品質の向上、コスト・ダウン、スタッフのモチベーションの維持・向上など、組織への目配りがリーダーにはより求められます。

 2つ目は、現地の人材蓄積やレベル・アップの状況によって、本社から派遣された日本人派遣者に必要とされる能力要件が異なるという点です。ASEANなどで操業期間の長い企業では、現地のマネジメント人材が厚い層で蓄積されているので、職位にふさわしい力量がないと本社から来た日本人というだけでは評価されません。

海外での成果を高めるには

 こうした点を踏まえ、私たちは海外派遣者の成果を高める要因について調査を行いました。その結果の一部を説明します(詳細は、白木編著『グローバル・マネジャーの育成と評価』早稲田大学出版部、2014年刊を参照されたい)。まず海外赴任に関するコンピテンシー因子には、経営手腕、リーダーシップ、行動の柔軟性、現地文化への理解の4つがあることがわかりました。このうち、トップ・マネジメントの成果に対して統計的に有意であることを示すのが経営手腕とリーダーシップです。他方、それら2因子に加えて行動の柔軟性や現地文化への理解は、ミドル・マネジメントの成果に対してプラスに現れるという特徴があります。また、個人特性として海外勤務年数が長いほど成果としてプラスに現れます。これは若いときの海外赴任の経験が、40代になってシニア・マネジメントとして改めて赴任したときに、資産として効いてくるのではないかと解釈しています(図参照)。

日本人に対する現地の評価は?

 続いて、直属の部下である現地従業員の日本人派遣者に対する評価を調査しました。評価項目は全部で62項目です。このうち、トップとミドルに共通して高い評価を得た3項目が、「責任感が強い」「顧客を大事にしている」「規則を尊重して適切に行動する」となっています。逆に評価の低い項目が「現地語を熱心に勉強している」「現地の商習慣を理解している」「現地の文化や風俗習慣を理解している」「上の人が間違っていたらはっきり指摘する」となっていました。言い方を変えれば、日本人派遣者は現地に対する理解や関心が薄く、現地社会に溶け込もうとする姿勢に弱点があるということになります。

 次に日本人のトップと現地のトップで部下からの評価に統計的に有意な違いがあるかを検証しました。結果は日本人が高いと評価された項目は無く、低いと評価されたのは対外交渉力と人脈です。同じ検証をミドルに対して行うと、日本人の方が高評価の項目はゼロである一方、低評価の項目は45項目もありました。評価の厳しさは、インドや中国と比べて操業期間の長い企業が多いASEANで顕著でした。

 日本人派遣者が低く評価される理由はいくつか考えられます。基本的には処遇が高いわりに期待に応える能力や仕事ぶりを発揮していないと現地の部下が見ているということです。また構造的な問題として、日本人が現地に派遣されるとき2ランクほど職位が上がるケースが多く、リーダーシップ経験がないために役割を十分に果たせていないという事情もあるでしょう。

 以上の検証結果から、グローバル人材の育成における課題として、日本人ビジネス・パーソンの人的資産の維持向上を前提として、派遣前のリーダーシップ経験の付与、国内におけるダイバーシティ度の高い仕事の推進などが挙げられます。

将来、海外で活躍したい方へ

 若いうちにビジネス・ナレッジやビジネス・スキルを十分身に付けることが基本ですが、20代や30歳前後の若手のうちに海外経験をした方がキャリア上の大きな刺激を受けやすいことは間違いがないでしょう。海外では異文化リテラシーが仕事の成果を高める重要な要素となります。それを身に付けるには、若いときに海外に出た方が覚えが早く、後程その経験や気づきに基づいてキャリアを通じて自分をトランスフォームしたり、高めたりすることができるのではないかと思います。

 海外での成果を高める要因として異文化リテラシーが重要であると述べましたが、ノン・ネイティブの国で仕事をする場合、英語でコミュニケーションをすることはもちろん大切ですが、ローカル言語にも多少の関心を持ってほしいと思います。それはビジネス用語にはならないけれども、現地理解という意味で重要です。また、トップ・マネジメントの場合、現地の上流社会と付き合う機会が増えます。そのとき気の利いた会話ができないと尊敬されません。語学力だけでなく、話す内容や表現力も磨いていく必要があります。 以上のような問題意識、マインドセットを学生のうちに持つことが理想的ですが、現実は必ずしもそうなっていない面も否めません。

白木 三秀(しらき・みつひで)/早稲田大学政治経済学術院教授・トランスナショナルHRM研究所所長

【略歴】
1951年滋賀県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。
国士舘大学政経学部助教授・教授等を経て、1999年より現職。
専門は社会政策、人的資源管理。
現在、日本労務学会会長、国際ビジネス研究学会常任理事等を兼任。

<主な著作>
『日本企業の国際人的資源管理』(単著、日本労働研究機構、1995年)
『アジアの国際人的資源管理』(単著、社会経済生産性本部、1999年)
『海外派遣とグローバルビジネス』(共監訳、白桃書房、2001年)
『チャイナ・シフトの人的資源管理』(編著、白桃書房、2005年)
『国際人的資源管理の比較分析』(単著、有斐閣、2006年)
『内部労働市場とマンパワー分析』(監訳、早稲田大学出版部、2007年)
『チェンジング・チャイナの人的資源管理』(編著、白桃書房、2011年)
『新版 人的資源管理の基本』(編著、文眞堂、2013年)
『ケースに学ぶ国際経営』(共編著、有斐閣、2013年)
『グローバル・マネジャーの育成と評価』(編著、早稲田大学出版部、2014年)、等。