早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > オピニオン > 国際

オピニオン

▼国際

篠原 初枝 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 略歴はこちらから

国際連合の70年、その「光」と「影」

篠原 初枝/早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授

 日本にとって「戦後70年」である2015年は、世界史の上では第二次世界大戦終結70年を意味する。人類にとって2度目の世界大戦を経験し1945年に設立された組織が国際連合(国連)である。今年は国連が70周年という節目を迎えた年となる。日本や世界大戦という視点からではなく、「平和」な世界構築をめざした国際組織である国連にとってこの70年とはどのようなものであったのだろうか。その70年の軌跡を振り返り国連の意義や問題点を考えてみたい。

 まず手始めに二つの質問を提起する。最初の質問は、「今現在、国連が完全に消滅し活動を停止したら、誰が一番困るのだろうか」という質問である。第2には、「なぜ有為な能力ある若者たちは国連で働きたい」と望むのであろうかという質問である。この二番目の質問は、私が教員として日々学生たちに接するなかで得た経験に基づく。「国際関係論を勉強して将来どのようなキャリアに進みたいですか」と尋ねると、多くの学生が国連やその関連機関で働きたいと応える。

もし国連がなかったら

 最初の質問への回答は、貧困、差別、疾病などに苦しみ、実際に国連やその専門機関から実際に援助を受けている人々になるのではないかと思われる。国連はその傘下に多くの機関をかかえており、その活動も多岐にわたる。たとえばUNDP(国連開発計画)やUNICEF(国連児童基金)による活動で、実際にワクチン接種や貧困撲滅プログラムで恩恵を受けている発展途上国の人々にとって、その活動停止は直ちに彼らの生活や福祉に影響を与えるであろう。

 第二の質問についての回答は、若い人々が抱く理想的な思い、つまり世界平和に貢献し世界で困っている人々を助けたいという純粋な思いにある。国連が理想を体現する機関としてとらえられているのである。このような国連についての理想的イメージを単なる幻想として却下することはできない。なぜなら、国連におけるさまざまな活動の現場は、実際にこのような理念や信念を持った人々によって支えられてきたからである。国際連合70年(あるいはその前身である国際連盟)の歴史を振り返るならば、世界を少しでも良いものにしようという人々や加盟国の努力によって、この国際組織は支えられ進歩してきたといえる。

 貧困や疾病への対策、人権・民主化への試み、国連海洋法条約のような規範形成や世界遺産保護などの取り組みについて、国連は一定の成果をあげてきた。

NY国連本部にて

問題点

 一方で、国連が1945年の創設時に掲げた主たる目的は紛争の平和的解決であった。この目標達成については、国連を称賛することはできず、場合によっては消極的な評価が下されるであろう。1945年創設時に予測できなかった冷戦の進展は、国連憲章起草者が想定した集団的安全保障(collective security)を基幹とする紛争への対処ではなく、集団的自衛権にもとづく同盟システムの発展をもたらした。憲章に違反した国に対して国連全体で紛争に対処する試みは、ほとんど機能してこなかったといえる。

 他方で、1956年の第二次中東戦争の経験から、国連憲章に存在しなかった平和維持活動(PKO)が創設された。平和維持活動は、「国連のプレゼンス」により紛争後に停戦を監視し事態の沈静化を図る活動であり、冷戦後その任務は拡大しその派遣地域も増えた。しかし、国連が待機軍や緊急軍を有しておらず、旧ユーゴスラヴィア紛争は最終的にはNATOの介入によって終息したように、国連は紛争に対処する「牙」を有していない。したがって、国家が安全保障を考える場合、自国の軍備あるいは同盟に頼るという実績が積み重ねられてきた。このような集団的自衛権にもとづく同盟システムを中心的に構築してきたのは国連創設の中心となったアメリカである。アメリカの「国連離れ」がいわれて久しいが、このような傾向は今後もある程度続くであろう。

 さらに、国連が大国中心主義という批判も挙げられる。国連改革を唱える動きはあるが、五大国に拒否権という特権を与える制度は変わっていない。かつてのアメリカによるベトナム戦争もそうであったが、最近のロシアのクリミア進出や中国の南シナ海進出に国連が有効な対処策を講じることはできないであろう。他方で、新独立国が国連加盟を申請するように、加盟国は国連総会において平等な投票権を有し、法的・制度的平等性が担保されている。また、長年その中立政策から国連未加盟であったスイスが、2002年に国民投票によって国連に加盟したことも記憶に新しい。

 国連70年の歴史は国際社会の「光」と「影」を映し出すものであったといえる。グローバル化が進み越境する国際問題が増える中で、国際社会や世界全体の漸進的進歩に国連は必要な組織である。大国や加盟国が自国の国益促進に国連を利用し、国連の威信低下が起こり得るとしても、国連が存在しない世界はもっと「暗黒」なのである。

篠原 初枝/早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授

略歴
早稲田大学法学部卒業、法学研究科博士課程修了、シカゴ大学PhD。

著書
『国際連盟』(中央公論新社、2010年)
US International Lawyers in the Interwar Years: A Forgotten Crusade (Cambridge University Press, 2012).