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岩井 雪乃(いわい・ゆきの)/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授 略歴はこちらから

海外ボランティアの課題
「体験する」からその先へ

岩井 雪乃/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授

世界の潮流

 近年、大学生が海外ボランティアに参加する機会は飛躍的に増加している。私が早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)に勤めはじめた10年前と比べても、大手旅行会社が海外へのボランティアやインターンシップを数多く企画するようになり、海外ボランティアを仲介するNPOも増加している。一般には「若者の内向き志向」が問題視されているが、その一方で、東南アジアをはじめとした、いわゆる「発展途上国」に出かけて行く学生は増えていると感じている。私の周囲にいる学生たちを見ても、近年は東南アジアのみならず、アフリカまでボランティアやインターンシップに行く学生に出会うことが多くなった。

 このように大学生が海外ボランティアに出て行くことは、多くの場合「よきもの」と考えられることが多いが、本当にそうなのだろうか? ここでは、学生ボランティアの立場からと、現地社会の立場から問いなおしてみたい。

海外ボランティアという「鏡」

マレーシアで、移民の子どもに勉強を教える学生

 海外ボランティアを経験した学生にとって、自分自身の変化・成長は、もっとも大きな成果だろう。異文化に入り異なる生活や価値観に接することで、ものの見方や思考を広げることができる。また、活動をとおして、現地の方や他のボランティアなどの仲間もできる。現地の方に歓迎してもらえれば、自己肯定感も得られるだろう。

 しかし、本当に得るべき経験は、このようなポジティブなものではない。海外ボランティアを意味ある経験にするのに重要なのは、1)自分自身の無力さを感じること、2)日本では見えなかった社会課題に気がつくことである。

 私たちWAVOCが実施している活動も含めて、多くの海外ボランティアでは、まとまった成果を現地に残すことは難しい。ボランティア活動で取り組む課題は、政治経済的な影響を受けながら歴史的にその国で形成されてきて、今なお解決されていない問題である。それを、現地の言葉もわからない、特別なスキルもない、短期間しか滞在できない日本の大学生が解決するなど、おいそれとできはしないことは想像できるだろう。しかし、それでもなお、その問題に心を寄せ、何か変化を起こせないかと試みることで、学生には自分自身が見えてくる。何が自分に足りないのか、何を学ぶべきなのか、何を本当にやりたいのか、何を大切にしたいのか。そういった問いを自問自答する中で、生き方(キャリア)が見えてくるのである。

 そして、現地の課題について深く考えることをとおして、同じ課題が日本にあることも見えてくる。途上国では、まだ行政機能が弱かったり、社会福祉制度が整っていなかったりして、社会課題が見えやすい。貧富の格差、女性差別、移民問題など、現地の課題について考えているうちに、「では日本はどうなっているのか?」と調べてみると、たいていの場合日本にも、程度の差はあれ同じ問題が生じているのである。

 このように海外ボランティアは、「鏡」のような機能をもっている。日本にいるときには見えなかった自分自身が見えてくるし、日本社会が見えてくるのである。これが、学生にとっての海外ボランティアの大きな意味だろう。

現地への負の影響

タンザニアで、畑を荒らすゾウを追い払うプロジェクトを手伝う学生たち

 しかし、このとき注意しなければならないのは、現地に与える負の影響である。もちろんボランティアとして行くのであるから、意図して迷惑行為をするつもりはないだろう。しかし、気がつかないうちに迷惑をかけたり、相手文化を否定する言動をしてしまうことは、しばしば起こることである。

 私が顧問をしている学生ボランティア団体でも、現地の方から「自分の国のこともわかっていない学生に、うちの国を偉そうに批判されたくない」「本心から思っていないことを同情で言ってほしくない」など、上から目線になっていたことで相手を傷つけてしまったことがある。別な例としては、受け入れてくれた村長さんとその派閥グループとだけ一緒に活動してしまい、他の村人から「不平等だ」と嫉妬や批判を買ってしまったこともある。現地事情がよくわかっていないために、ボランティア活動の恩恵を受けられる人と受けられない人を生み出してしまい、地域内に衝突を起こしてしまったのだ。

 このような問題を起こさないように、現地状況を把握する努力をし、ボランティアによる負の影響を最小限にする意識をもつ必要がある。

帰国後の「ふりかえり」が本当の真価

 つまるところ現実としては、大学生の海外ボランティアが現地に成果を残すのは、簡単なことではない。行けば何かできるだろう、ということはまったくなく、活動やプログラムにかなりの工夫が必要であり、受け入れ団体や地域社会の理解と協力が不可欠である。

 しかし、それでもなお若者たちには、どんどん海外ボランティアに挑戦してほしいと願っている。まずは「鏡をのぞきこむ」行為をしなければ、自分自身も日本社会も見えてこない。そしてその次のステップとして、帰国後には「鏡をじっくり見つめる」、すなわち「ボランティア体験をふりかえる」ことをしてほしい。ちらっとのぞいただけで満足しては、ボランティア体験で得られる深い価値を獲得することは決してできない。

 この「ふりかえり」を支援するために、私たちWAVOCでは「体験の言語化」という科目を開講している。「体験をふりかえる」「現地と向き合う」「自分をみつめなおす」と言われても、何をどうしたらいいか、具体的な方法がわからない学生は多い。このふりかえり支援も含めて、海外ボランティアが学生にとっても現地の方にとってもよりよいものになるように、これからも邁進していきたい。

岩井 雪乃(いわい・ゆきの)/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授

【略歴】
京都大学大学院人間・環境学研究科アフリカ地域研究専攻博士課程単位取得退学。博士(人間・環境学)。青年海外協力隊(JICAボランティア)、特定非営利活動法人 アフリック・アフリカ代表理事(現在も併任)などを経て、現職。専門は環境社会学、アフリカ地域研究、ボランティア教育。
【主著】
『自然は誰のものか―住民参加型保全の逆説を乗り越える』(共著、京都大学出版会、2016年)、『グローバル社会を歩く―かかわりの人間文化学』(共著、新泉社、2013年)、『世界をちょっとでもよくしたい―早大生たちのボランティア物語』(共著、早稲田大学出版部、2010年)。