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高口 洋人

高口 洋人(たかぐち・ひろと) 早稲田大学理工学術院准教授 略歴はこちらから

オイルピーク後の住宅用エネルギーシステム

高口 洋人/早稲田大学理工学術院准教授

 洞爺湖サミットを控え、各方面で地球温暖化に関する議論が活発に行われている。住宅の生産やそこでの暮らし、自家用車から輩出される二酸化炭素は、日本の排出量の20%と多く増え続けている。ここでは住宅のエネルギーシステムについて論じたいと思うが、その前に地球温暖化問題とは何か、ということを今一度確認しておきたい。

地球温暖化の原因

 そもそも地球は、二酸化炭素や水蒸気のような温室効果ガスの働きにより、植物園の温室のような状態にある。温室効果ガスが増えればその働きが強まり、気温は上昇するとされる。そしてある水準以上になると、加速度的に温室効果ガスが増え、気温が極めて不安定になると考えられている。

 地球温暖化現象の主たる原因は、温室効果ガスの1つである二酸化炭素を人類が大量に排出し続けていることにある。化石燃料から発生する二酸化炭素は、6500万年以上も前に数億年という途方もない時間をかけて、植物プランクトンや植物が固定したものだが、それを人類はものすごいスピードで解放しているのだ。

 気温上昇は海面上昇や生態系の変化など様々な変化をもたらす。熱帯性の植物や昆虫の生息域が北進させられたり、台風の数が増えたりと、その変化は少しずつ我々の身の回りでも起きつつある。

化石燃料の消費削減=生産削減

 地球温暖化現象を止めることは可能なのだろうか。IPCCの第4次報告書は、温室効果ガスの濃度安定には、人為排出量と自然吸収量をバランスさせる必要があり、それには化石燃料起源の二酸化炭素排出量を約60%削減することが必要としている。これは世界全体の目標であり、先進国だけが削減すればよいのではない。人口増加と途上国の経済発展を考えれば、これは相当難しいように思える。

 日本も省エネルギー法などの制度を整えているが、各分野で四苦八苦している。しかし考えれば、化石燃料の消費先は発電所から自動車、石油ストーブまで千差万別だが、元は石油や石炭などで化石燃料1つである。下流よりも上流での対策が公害対策の基本だとたち帰れば、二酸化炭素を60%削減したければ、世界の化石燃料の生産量を60%減らせばよい。生産国が協調すれば、つまり価格を2倍にして生産量を半分にすれば、儲けは変わらないので、やればできるように思うのだが、このような議論はあまり聞こえてこない。産油国をこれ以上長く儲けさせたくないということだろうか。

 いずれにせよ、化石燃料は枯渇性の資源であるから、将来のエネルギーシステムは、化石燃料価格の高騰とその先の枯渇を見越したものでなければならない。

原子力と燃料電池

 脱化石燃料の選択肢として、再び原子力に注目が集まっている。アメリカでは原子力関係の学科が人気になり、入学と同時に企業から誘いがあるという。日本の原子力の割合は発電で36%、全体では9%に過ぎず(石油、石炭、天然ガスで全体の84%を占める)、余地は大きい。太陽エネルギーや風力などの再生可能エネルギーは、水力を除くと発電では1%未満、全体でも3%程度に過ぎず、期待と現実とのギャップが大きい。安全面への不安は残るが、中期的には原子力に頼らざるを得ない。

 原子力は出力調整が難しいことから、夜間の電力需要のボトムに合わせて発電し、昼間のピークは火力発電で調節している。昼間の火力発電を原子力で代替しようとすると、今度は夜間に大量の電気が余ることになる。蓄電できれば良いのだが、ロスが少なく大量に蓄電できるシステムはまだ実用化されていない。

原子力の割合を増やした場合の余剰電力

 住宅の次世代のエネルギーシステムとして期待される燃料電池は、この余剰電力を上手く利用できるのではと期待されている。燃料電池は水素を燃料として発電するもので、発電する際に高温になることから、給湯もできる熱電併給システムとして開発されている。水の電気分解の逆を思い浮かべれば良い。現状では水素を供給するインフラが整っていないため、天然ガスやガソリンから水素を取り出し使っている。その過程で二酸化炭素が発生するため、高効率の熱電併給システムという位置づけになる。水素が供給できれば、水ができるだけの画期的なクリーンエネルギーということになる。その鍵は原子力の余剰電力にある。夜間の余剰電力で水を電気分解し、水素を作ることができれば、両方の問題を解決できる。これは水素という形で蓄電しているともいえ、実は燃料電池は蓄電システムの一つということになる。この場合、燃料電池と電池などの蓄電システムは競合関係にあり、どちらが優位になるかは今後の技術開発次第ということになる。

 この様に住宅のエネルギーシステムといえども、社会全体のエネルギー供給体制と密接に関連し、全体のシステムとしての効果を見なければならない。日本にはこの視点が欠けている。しかし、ウランもまた枯渇性の資源であることから、今世紀中半にはそれに代わるエネルギー源を見つけなければならない。

カーボン・ニュートラル

BedZED(グリーンルームに太陽電池が見える)

 ロンドン郊外にあるBedZED(Beddington Zero Energy Development)は、再生可能エネルギーでの自給を目指し、開発されたコミュニティである。太陽電池とウッドチップを燃料とする熱電併給システムにより、電気と温水を供給している。高い断熱性気密性(超断熱と呼んでいる)を備えているため、冷蔵庫やテレビなどの家電製品や人からの発熱だけで冬期も充分暖かく暖房の必要がないという。遠くからも見える風見鶏のような煙突は、換気による室温の低下を防ぐ、風力を利用した熱交換換気システムで、この開発のシンボルとなっている。この他にも各戸には家庭菜園が用意され、雨水や雑排水が再利用されている。

キッチンで見ることができる各種メーター

 BedZEDが目指すのは、バイオマスや風力など、二酸化炭素排出を伴わないカーボン・ニュートラルな生活であり、その提案は住宅の建設から食生活に及ぶ。建物の材料はリサイクル・リユースされたものを優先し、可能な限り半径35マイル内で生産されたものを利用している。食料も近くの農家から購入するなどしてフードマイレッジを意識している。オフィスもコミュニティ内にあり、職住近接型の生活をすることもできる。余った太陽電池の余剰電力は電気自動車に蓄電され、電気自動車はカーシェアリングに供されている。

 また、電気や給湯のメーターは台所にあり、どれくらい使用したか、目に入りやすい配慮がなされるなど、細やかな工夫が施されている。

 脱化石燃料のライフスタイルとはこういうものだという強いメッセージを感じる。

目に見えるシステムを

 地球温暖化現象の原因が、自分たちの生活ある以上、今のこのライフスタイルを続けることは難しいと漠然とは認識され始めたように思う。しかしそこから一歩踏み出す勇気は持てずに躊躇している。そこまでの危機感はない。ジャレド・ダイヤモンド氏は「文明崩壊」の中で、危機感の共有こそが克服の鍵であり、その為には危機とその原因の因果関係が見えやすいことが条件だと指摘している。現在のエネルギーシステムは、そういう意味では巨大すぎるのかもしれない。もう少し小さく、我々の目の届く範囲にエネルギーシステムを再構築することがライフスタイル見直しの鍵であるように思う。

高口 洋人(たかぐち・ひろと)/早稲田大学理工学術院准教授

【略歴】

1970年 大阪府大阪市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院理工学研究科修了。博士(工学)。早稲田大学助手、早稲田大学理工学総合研究センター講師、九州大学人間環境学研究院特任助教授を経て、2007年より早稲田大学理工学術院准教授。

【主著】

『健康建築学―健康で快適な建築環境の実現に向けて』(共著、技報堂出版、2007年)、『データで読みとく都市居住の未来』(共著、学芸出版、2005年)、『都市環境学』(共著、森北出版、2003年)、『完全リサイクル住宅 I~III』(共著、早大出版部、1999年、2001年、2002年)