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森川 靖(もりかわ・やすし) 早稲田大学人間科学学術院教授 略歴はこちらから

“地球にやさしい”・・本当か?

森川 靖/早稲田大学人間科学学術院教授

 環境問題の解決に向けた「地球にやさしい」あるいは「環境にやさしい」は感覚的で自然科学からみると「あやしい」と言わざるを得ない。人間が地球にどんな悪さをしても決して壊れない。人間が滅びるだけである。人間が生き続けていくためには、「地球にやさしい」ではなくて「人にやさしい」でなくてはならない。「地球にやさしい」と謳う商品が実は「人にやさしくない」商品であることをみきわめる必要がある。エコ○○、エコ△△と感覚が先行して、科学的根拠を持たないことに問題解決の難しさがある。

思い込みの排除・・酸性雨

 数年前までの理科の教科書に、トピックス的に酸性雨問題が書かれており、必ず森林が枯れる写真が載せてあった。教科書は義務教育の中ですべて真実が書かれていることが前提である。すなわち、酸性雨で森が枯れる、が教育の過程で刷り込まれる。日本の例でいえば、酸性雨で森が枯れる現象はほとんどない。酸性雨と森林衰退での科学的根拠は雨、露、霧の酸性度の測定結果であるが、森林サイドのデータは枯れている写真である場合が多い。こうした酸性雨データと同様に、気象データ、大気汚染データなどは資金と自動計測器があればそれこそゴマンとでてくる。ところが影響を受けたとされるデータは被害写真である。(図表1)

図表1

 例は悪いが、道路で無傷のネコが死んでいたとする。クルマに轢かれた、かわいそうに、とういことでそれこそ交通量調査などが行われるであろう。しかし、ネコの死んだ姿から原因はわからない。ネコにも老衰、心臓発作など多くの死因を抱えているはずである。酸性雨問題も同様で、環境サイドの状況調査ばかりでは原因を特定できない。ネコで言えばネコの側の死因、森林であれば森林衰退の内的メカニズムを解明しなければならない。

 環境問題で大切なことは、原因と結果とされる事象が因果関係なのか、平行関係なのかを明示すること、すなわち科学的根拠をもって問題解決にあたる必要がある。

総論賛成、各論反対・・京都議定書

 気候変動枠組み条約は温暖化抑制に向けて多くの国が同意した。これは一種の紳士協定で総論賛成である。さて具体的な行動、すなわち京都議定書となると各国の思惑からなかなか調印しない。米国が良い例だろう。

 「地球にやさしい」商品を売る企業は環境を配慮した良い企業とイメージされる。こうした企業が増えても、日本の二酸化炭素排出量は増え続けている。日本は、京都議定書で1990年の6%削減を約束したが、2002年度ですでに7.6%オーバーになっている。2012年までに、13.6%削減しなければならないことになるが、できるだろうか。企業ばかりではない、増加している多くの原因は民生、運輸部門であるが私たちにその努力ができるだろうか。国内では温暖化防止が総論であるが、各家庭あるいは個人レベルではどうであろうか。クリスマスのシーズンを迎える。どこの企業、団体などが今年のライトアップはやめたというだろうか。かつて、オイルショックのときは、テレビも深夜放送を中止したが、そんな機運は全く感じられない。

植える、燃やす・・熱帯林再生問題

図表2

 最後に、海外研究の経験から述べよう。(図表2)熱帯地域では過度の焼畑などで荒廃放棄地が多く、森林への自然再生が難しい地域が多い。こうしたことから、日本の政府、企業、NGO などの資金援助で熱帯林再生プロジェクトが行われてきた。しかし、多くの場合、植林地は焼畑に戻る。これは植えるー燃やす(plant and burn)の繰り返しである。なぜだろうか。植林プロジェクトは期限付きで、10年、20年と続くものではない。荒廃地の植栽時には地域住民に植栽労賃として収入があるので彼らにはハッピーである。プロジェクトが終わり、木が育ち始めるが、まだ木材収入にもならないので、利益はあがらない。将来の利益は地域住民にとって不確実な約束事だから、火をいれて焼畑・換金作物生産で月収・年収を得ようとする。少しでも緑があれば焼いて木灰を肥料にできるからこのことのほうが住民にとってハッピーである。こうして植える、燃えるが繰り返され、熱帯林再生がほど遠くなる。地域住民の持続的な収入が可能なシステムをプロジェクトにいれないかぎり、「木を植えた」だけの自己満足となってしまうのである。

森川 靖(もりかわ・やすし)/早稲田大学人間科学学術院教授

【略歴】

1944年生まれ、1973年3月 東京大学大学院農学研究科修了(農学博士)
1973年4月 農林省林業試験場・研究員、1991年農林水産省森林総合研究所・植物生態科長、1995年1月 現職

【著書等】

森川 靖、1997、森林衰退の原因、朝日百科・植物の世界、11巻254-256
瀬戸昌之・森川 靖・小沢徳太郎、1998、文科系のための環境論・入門、有斐閣アルマ、198頁
森川 靖、1999、樹木の生理生態、鈴木和夫編「樹木医学」、朝倉書店、83-109
森川 靖、2004、森林のCO吸収源としての評価と問題点、環境資源工学、51巻4号、228-233