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紙屋 雄史(かみや・ゆうし)早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

エコカー本命は何になる?
ハイブリッド、電気、燃料電池―普及への条件

紙屋 雄史/早稲田大学理工学術院教授

 近年、自動車の分野においても、いわゆる環境・エネルギー問題が大きな話題となっており、従来の内燃機関自動車のクリーン化や代替自動車の開発等が強く求められている。内燃機関代替自動車については、車両や燃料に関して製造から走行までの二酸化炭素や有害なエミッションの排出量が少ないこと、また、燃料の持続的供給が可能で供給施設が広く整備される可能性があること、等の条件を満たすことが必要であるが、候補の一方式としての電動車両の研究が長年精力的に進められている。

 電動車両とは、動力源としてモータを搭載した車である。いわゆる電動車両三兄弟(電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車)がこれにあたる。長所はほぼ共通しており、内燃機関自動車と比較して(1)低炭素効果が絶大(しかも高効率)、(2)エネルギーシフト効果あり、(3)乗車環境が良好(変速ショック無し、低騒音かつ低振動)、(4)周囲環境負荷が微小(ゼロエミッション、低騒音)、等の点が主なものとしてあげられる。しかしながら、コストの問題、エネルギー車載の問題(航続距離性能に劣る)、エネルギー補給の問題(長い充填時間を要し新規インフラ建設も必要)、等短所も多々存在し、これらが足かせとなりなかなか大量普及できない。

 このような状況のもと、現在唯一実用化された電動車両がハイブリッド自動車である。トヨタ・プリウス、ホンダ・インサイト等、この不況の中でも大変な人気を博している。このタイプの車両は、今後車種も増え爆発的に普及していくものと考える。しかし、この単純ハイブリッド方式は内燃機関自動車比較で環境調和性に優れていることは確かであるものの、電動車両ファミリーの中ではこの効果が最も薄い。そのため、自動車メーカに対しては、より一層環境調和性に優れた電動車両の研究開発が求められている。

 極めて遠い将来ではあるが、いつの日か自動車用エネルギーとして化石燃料が使えなくなる時代は確実に来る(22世紀?)。その時代の主役は電気自動車、燃料電池自動車、もしくはその中間のシステムを有するプラグイン燃料電池自動車と考える。しかし、これらの心臓部である「リチウムイオン電池」や「燃料電池」の技術はまだまだ成熟していないため、ハイブリッド自動車から燃料電池自動車等にいきなり進化することは絶対にありえない。非化石燃料を補給・利用するような究極の電動車両に移行するまでには、極めて長い「過渡期」が必要ということになる。

 この過渡期においては種々の車両方式が乱立する。リチウムイオン電池や燃料電池等が実際にどこまで性能向上やコスト削減を達成できるか不透明な点もこれの長期化や方式乱立の理由となる。近年普及し始めた単純ハイブリッド方式の次に出現する電動車両としては、「用途限定電気自動車」、「プラグインハイブリッド自動車」等が候補としてあげられよう。前者はさらに「中航続距離コミュータカータイプ」と「短航続距離・高頻度充電タイプ」に分類できるため、まずはこれら3種が世に出てくると予想される。電気エネルギーを補給・利用する本格的電動車両の普及の始まりである。

 中航続距離コミュータカータイプの電気自動車とは、小さな車両を電気自動車化したものである。これらは利用方法が限定されるため、電気自動車最大のハードルとなっているバッテリ問題への対処が比較的容易となる。航続距離性能を例にとると、内燃機関自動車の場合、乗用車タイプで500~600km程度であるが、コミュータカーは遠乗りしないため50~150km程度もあれば充分となる。最高速性能や空調性能等もそれほど高レベルは要求されない。このような理由から本方式は技術ハードルが比較的低く、今年、来年あたりにデビューラッシュを迎える(スバル・プラグインステラ、三菱・i-MiEV、日産、等)。

図1

 第二の候補の短航続距離・高頻度充電タイプとは、短距離走行と急速充電を繰り返すことで、コストや性能面で何かと問題を抱えているバッテリの搭載量を大幅に削減すると同時に航続距離問題に対処しようというものである。本方式は、路線バスやゴミ収集車そして構内連絡車等、走行距離・ルート・充電場所がほぼ定まっているような車両に対して採用できる。これにより車両コストと車両重量の大幅削減が可能となる。現状では、電気自動車のコストの半分程度は電池分となっているため、この効果は絶大である。軽量化は電力消費量削減に直結する。我々早稲田大学においても、本方式を地域密着型コミュニティーバスに採用する研究を長年進めている(図1、2)。このコンセプトを採用する際に生じる高頻度の充電作業に対して、これを「安全・手間いらず・短時間」に行うための世界最高水準の性能を誇る非接触急速誘導充電装置の独自開発にも成功している。

図2

 プラグインハイブリッド自動車も間もなくデビューラッシュを迎えると考える。これは、電気自動車とハイブリッド自動車の中間的存在の自動車であり、ガソリンだけでなく電気エネルギーも補給して走行する点が特長となる。動力システムが複雑化するため車両重量増加を招くものの、日本における利用形態ではクリーンな電気エネルギーへのシフト効果の方がはるかに高く、ハイブリッド自動車比較でより一層の低炭素化とエネルギーコスト節約が可能となる。

 以上、特に近未来に注目して今後の電動車両の展望について私見を述べさせて頂いた。非化石燃料を補給・利用するような究極の電動車両を近い将来大量普及させるためには、長所を生かした車作りと使い方の工夫が必要と感じる。内燃機関自動車も液体燃料の長所を生かした車づくりを行った結果、現在の性能(例えば航続距離性能)が得られたわけであり、使用エネルギーを変更した際、車の特徴が変化するのは当然である。従来車と同レベルの使い勝手を求めていては、なかなか先は見えてこない。ヒトと地球にやさしい電動車両の普及には、ユーザーの意識改革も必要と考える。

紙屋 雄史(かみや・ゆうし)/早稲田大学理工学術院教授

経歴
1993年3月 早稲田大学理工学部電気工学科卒業
1997年3月 同博士後期課程修了、博士(工学)早稲田大学
1998年4月 運輸省交通安全公害研究所運輸技術研究員
2000年4月 群馬大学専任講師
2007年4月 早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科准教授
2009年4月 早稲田大学理工学術院教授

著作など
・燃料電池自動車、交通論おもしろゼミナール2、交通と乗り物文化-人力車からジェットコースターまで-,成山堂書店(2008)
・先進電動マイクロバス-路線バスをより魅力的に、新時代への視点、上毛新聞社(2006)
・燃料電池自動車の特徴ならびに研究開発や実証試験の動向、燃料電池自動車のすべて~世界の潮流~ 、山海堂(2005)