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滝沢 研二(たきざわ・けんじ)早稲田大学高等研究所准教授 略歴はこちらから

“シミュレーション”という名のチャレンジ
有人宇宙船のためのパラシュート設計支援

滝沢 研二/早稲田大学高等研究所准教授

宇宙開発とパラシュート

 私にとって宇宙といえば、NASA、そしてスペースシャトルでした。しかし、ついに、そのスペースシャトルは昨年度ついに引退してしまいました。したがって、宇宙からの帰還にはパラシュートが唯一の方法となりました。

パラシュートと流体力学

 私は高所恐怖症なのでパラシュートを実際に体験したことはありません。そんな私にとって身近なパラシュートといえば、子供のころ花火のセットについてきたパラシュート花火です。直径は10cmぐらいでしょうか。地面に落ちる前にキャッチしようとするのですが、ゆらゆら落ちてきてなかなかキャッチできなかったのを覚えています。同じパラシュートでも、実はそのサイズによってパラシュートの動きも、そしてその周りの空気の振る舞いも違います。宇宙開発で使用されているパラシュートは、パラシュート花火のものとは比べ物にならないくらい大きなサイズです。例えば、米国のオリオン宇宙船に使われるパラシュートの直径は25メートルもあります。つまり25メートルプールの長さです。パラシュートを展開することだけでも、大変だと言うことが想像できるのではないでしょうか。

パラシュートの数値シミュレーション

 私たちT*AFSM (www.tafsm.org) が現在取り組んでいるオリオン宇宙船のパラシュートは、リングセールパラシュートと呼ばれるものです。図1のように上部がリング形状しており下部がセールと呼ばれるように膨らみがあります。その間には、合計数百もの穴が開いています。これらの穴から空気が抜けることで、パラシュートは安定化します。しかし、穴が大きくなるとパラシュートの降下速度が速くなってしまいます。つまり、降下速度を一定にしようと思うと、より大きなパラシュートが必要なのです。このように、パラシュートの設計は、目的に応じて、安定性や降下速度などの要件を満たすように設計していかなければなりません。

図1リングセールパラシュートの上部(左)と下部(右)

 パラシュートの降下試験を行うには、まずパラシュートを作らなければなりません。そして、上空に運び、降下させるというとても大規模な実験が必要です。ご想像の通り、これには費用もかかり、時間もかかります。私たちはこの様な実験を補助するために、数値シミュレーションを行っています。

 パラシュートの数値シミュレーションにはいくつもの困難があります。パラシュートの形は周囲の空気の流れから決まる流体力によって変化しますし、空気の流れはパラシュートの形や運動と密接な関わりがあります。そのため、慎重に、そして正確に、空気とパラシュートの力学的条件と、それぞれの支配方程式を満たすように計算する必要があります。このような計算のことを「流体構造連成シミュレーション」と呼びます。このようなパラシュートの数値シミュレーションは、Tayfun Tezduyar教授(ライス大学、ヒューストン)が始めました。彼のチームがパラシュートの流体構造連成シミュレーションを始めたのは1999年のことで、NASAのオリオン宇宙船のパラシュートの計算は2006年にスタートさせ始めました。私は、2007年よりチームに参加し、現在は早稲田大学でチームを作り、ライス大学のチームと共同で研究を進めています。

 私たちが行った、数値シミュレーションは、まず、同一条件下でNASAの降下テストと比較を行いました。その結果、計算が、実験結果によく一致することを確認できました。そこで、今度は様々なデザインのパラシュートについて数値シミュレーションを実施しました。例えば、図2のパラシュートのように異なる傘のデザインのパラシュート同士の比較を行いました。また、図3のように、サスペンションラインと呼ばれる傘と宇宙船をつなぐケーブルの長さを変更して計算を実施しました。これらの変化でパラシュートの動きは大きく変わります。例えば、降下速度が大きくなったり、斜めに滑空しやすくなったりと、その結果は様々です。この様なシミュレーションを繰り返し、目的にあうパラシュートのデザインを絞り込んでいます。最終的には、降下テストで確認しますが、数値シミュレーションはその回数を減らすことが出来、結果的に、費用を抑え、また開発期間を短縮することができるのです。

図2私たちが計算した様々なパラシュートの傘のデザイン

図3私たちが計算したサスペンションラインの長さの異なるパラシュート

 ところで、パラシュートは実際には単独では使われません。それは、パラシュートが巨大化しすぎると開くことが困難になってしまうからです。したがって、宇宙船が重い場合は、図4の様に3つのパラシュートを同時に使用します。実は、このことが数値シミュレーションをより難しくしています。

図4パラシュート同士が衝突している様子を計算したもの

おわりに

 私たちはこのように、複雑なシミュレーションに日々チャレンジしています。こうして培った技術は様々なシミュレーションにいかされています。例えば、血管と血流の流体構造連成も、同じ技術で行うことができます。私たちの数値シミュレーション技術の一部を、ぜひ次のウェブページよりご覧ください。http://www.tafsm.org/~ktaki/

滝沢 研二(たきざわ・けんじ)/早稲田大学高等研究所准教授

【略歴】
長野県上田市出身。
長野県上田高校、東京工業大学工学部機械宇宙学科卒業。
2005年3月に東京工業大学 大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻 博士(理学)。
独立行政法人 海上技術安全研究所研究員(2005年)、米国ライス大学 リサーチアソシエート(2007年)、同リサーチサイエンティスト(2009年)を経て2011年から現職。

主な著書に矢部 孝、尾形陽一、滝沢研二/著、森北出版「CIP法とJavaによるCGシミュレーション」、
Yuri Bazilevs, Kenji Takizawa, Tayfun E. Tezduyar/著、Wiley「Computational Fluid-Structure Interaction: Methods and Applications