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鳥居 祥二(とりい・しょうじ)早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

国際宇宙ステーションにおける日本の宇宙研究開発

鳥居 祥二/早稲田大学理工学術院教授

 宇宙研究開発には、人類が新たなフロンティアを求めて宇宙を開発する技術的側面と宇宙を研究する科学的側面があり、国際宇宙ステーション(ISS)はその両者を国際協力により実現するという極めてユニークな発想によって建設されている。ISSには、日本を始め米国、ロシア、カナダ、欧州宇宙機関(ESA)など15カ国が参加しており、1999年から2011年まで約13年の歳月をかけて完成している。

 各国はそれぞれにユニークな施設を運用しているが、日本は特に、与圧部(船内実験室:PM)と曝露部(船外実験プラットフォーム:EF)と呼ばれる2つの施設からなる有人宇宙実験施設「きぼう」日本実験棟(JEM:Japanese Experiment Module)を建設し、その特色を生かして研究開発が実施されている。さらに、「こうのとり」(HTV)と呼ばれるISSへ約6トンの物資の輸送が可能な宇宙ステーション補給機を開発して独自の物資打ち上げを行っており、その自動航行技術が高く評価されている。とりわけ、日本が始めて有人活動の機会を得て宇宙開発に関わる多くのノウハウを獲得している事は、最近の若田飛行士のコマンダーとしての活動においても顕著である。

 科学実験・観測としては、PMでの微小重力環境を利用した研究や、EFにおける宇宙科学観測が重要な役割を果たしている。ここでは、JEM-EFにおける日本の搭載装置について概説するとともに、筆者が研究代表者である「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)」についてその概要と観測の意義について紹介する。

 JEM-EFは、図1に見られるように宇宙曝露環境を利用して科学観測、地球観測、通信、理工学実験等を行う多目的実験スペースであり、12カ所の結合部(ポート)に実験装置を取り付けことが出来る。現在、日本が開発した装置としては、宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)、全天X線監視装置(MAXI)と超伝導サブミリ波放射サウンダ(SMILES)のほか、地球観測、理工学実験、民生用ハイビジョンカメラを混載したポート共有実験装置(MCE)が設置されている。CALETは日本の5番目の装置として、2014年度に打ち上げが予定されており、現在SEDA-APが設置されているポートに、装置を取り替える形で設置が予定されている。

図1:JEM船外実験プラットフォームにおけるCALETの設置概念図。

 CALETが観測の目的としているのは、宇宙線と呼ばれる宇宙から降り注ぐ高いエネルギーを持つ素粒子・原子核である。宇宙線の研究は、粒子の生成・消滅という素粒子物理学または原子核物理学と、粒子の加速・伝播という宇宙物理学の視点から行われている。宇宙の構造や個々の天体現象の総合的理解のためには、可視光、赤外、X線などの電磁波の観測に加えて、宇宙線や高エネルギーガンマ線の観測による、素粒子的宇宙像と天文学的宇宙像の双方の解明が不可欠である。しかしながら、これらの観測は、測定技術上の困難さにより未開拓な領域であり、これらの高エネルギー粒子の起源は宇宙科学に残されたフロンティアの一つとなっている。特に100ギガ電子ボルト(GeV)以上の電子やガンマ線は直接観測が難しいため未開拓な分野であり、宇宙物理学における最大の謎の一つである暗黒物質や粒子加速天体の解明など、今後に新発見を含む飛躍的な観測の成果が期待されている1)。図2に宇宙線の起源を概念的に示す。

図2:宇宙から降り注ぐ素粒子の起源の概念図。

図3:CALETの概念図。

 CALETは筆者等が20年間に亘る気球実験の経験に基づいて開発したイメージングカロリメータ(CAL)を主検出器とした図3に示すような観測装置である2)。同種の観測装置としては、すでにISSで観測を実施しているAMS-02やガンマ線衛星Fermiがあげられるが、これらは何れも総質量が7トンもある大型観測装置であるのに対して、CALETはその1/10程度の質量であるが観測方法を最適化することにより、これらより高いエネルギーまで観測できるという利点を備えている。これらの装置と相補的な観測の実施により、相乗的に大きな成果が期待できる。

 宇宙研究開発は巨額の予算を必要とするため、ISSに代表されるような国際協力が不可欠であるが、各国がそのような協力関係のなかで独自な発想に基づくプロジェクトを推進することがその発展の要点であると言える。国際共同研究を含む日本の宇宙研究開発が今後に発展する鍵は、ISSで始まった国際協調と国際競争を両立することにあると考える。

参考文献

1)「宇宙線を直接捉える」鳥居祥二
日本物理学会誌(特集 宇宙線100周年)第67巻 pp.821-826 (2012)

2)「高エネルギー宇宙を解明するCALETミッション」、鳥居祥二
IEEJ Transactions on Fundamentals and Materials Vol.132 pp.603-608. (2012)

鳥居 祥二(とりい・しょうじ)/早稲田大学理工学術院教授

【略歴】
早稲田大学理工学術院教授、先進理工学部物理学科、同研究科。
1972年京都大学理学部卒業、1977年京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学、1978年京都大学理学博士。1977年日本学術振興会奨励研究員(東京大学宇宙線研究所)、1979年東京大学宇宙線研究所研究員、1982年米国ユタ州立大学物理学科Research Associate、1983年神奈川大学工学部助手、講師、助教授、教授を経て、2004年より現職。
専門:宇宙線物理学

【著作】
「シリーズ現代天文学第17巻 宇宙の観測Ⅲ ―高エネルギー天文学」 共著 担当 §3.2 飛翔体観測と観測技術(日本評論社)(2008)