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内田 直(うちだ・すなお)早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

睡眠は、年をとると本当に短くなりますか?

内田 直/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

 年をとると、だんだん睡眠の質が悪くなります。20代の頃であれば朝までぐっすりと眠れていたのが、40代くらいからは中途覚醒(夜中に起きる)ことが多くなってきます。このような変化は、誰にでもおきる加齢による正常な睡眠の変化で、異常なものではありません。高齢になると、睡眠はさらに浅くなり睡眠中にしばしば覚醒するようになります。

 高齢になってからの変化はこの他にも、早寝早起きの朝型になるということがあります。これは、高齢になると体力が低下して疲れやすいために、早寝をする人が多くなり、その結果として早くおきるということで説明されています。また、同様の理由で昼寝をすることが多くなるという変化もあります。高齢になると、健康度や体力に個々人のばらつきが大きくなるということももう一つの特徴としてあります。したがって、「いや、私はそうでもない。割りと夜更かしで遅くまで起きているし、どちらかと言うと朝寝坊。昼寝はしません。」という方ももちろんいると思います。

 しかし、NHKが1960年から行っている国民の生活時間調査をみると、24時間のなかで睡眠にあてられている時間は、高齢になるに従って多くなってきます。では、年をとると睡眠時間は長くなるのでしょうか。

 厚生労働省は11年ぶりに睡眠の指針を見直し、健康づくりのための睡眠指針2014として、睡眠12箇条を発表しました。これは、国民が良い睡眠を取るために重要な心得が盛り込まれており、多く国民の健康増進に貢献するとても良い内容であると思います。しかし、その中で、高齢者に睡眠に関連した記述に、一部注意が必要であると思われる項目がありました。厚生労働省の睡眠12箇条の中で、下記のような項目があります。

9-②年齢にあった睡眠時間を大きく超えない習慣を

脳波を用いて客観的に調べると、夜間に実際に眠ることのできる時間(正味の睡眠時間)は加齢とともに短くなるのに対して(Ohayon et al. 2004)、実生活では年齢が高くなるほど寝床に就いている時間は延長している(NHK2010 国民の生活時間調査)。これは、高齢者の多くは仕事や学業などの日中の制約から解放され、十分な時間を睡眠に充てることが可能であることが原因と考えられる。ただし、必要以上に長い時間、寝床に就いていると、中途覚醒が出現し、熟眠感が損なわれ、不眠を呈しやすくなることが指摘されている(Wehr et al. 1999)ことから、注意が必要である。

 このような、厚生労働省の指針は、必要以上にたくさん眠らなければいけないと考えている高齢者に、そんなに眠らなくても大丈夫ですよという情報を与えるという意味で、大事な指摘だと思います。しかし、高齢者では実際に眠る時間が短くなるのでしょうか。ここでは、スタンフォード大学のOhayonらの研究とNHKの調査を引用しています。Ohayonらは、睡眠効率=寝床に就いている時間のうち実際に眠っている時間の%を算出して、これが高齢になると低くなる、つまり睡眠効率が低下するというデータを多くの夜間睡眠の研究を集めた解析から算出しています。このデータによれば、高齢者では夜間実際に眠っている時間は短くなっています。

 一方で、NHKの調査は、夜間睡眠だけでなく24時間の中での睡眠時間について調査です。先にも述べたように、高齢者は昼寝や夜間の睡眠など一日何度も眠ることが多くなり、NHKの調査では、昼寝も含めた睡眠時間を調べていることになります。

 この部分では、これを区別せずにまとめて議論しています。つまり、寝床に居る時間は24時間の中で昼寝を含めて測定し、実際の睡眠時間は夜間の睡眠時間を見ているということです。このような視点では、まだ高齢者が24時間の中でどのくらい眠っているのかという実際のしっかりとしたデータは提出されていません。

 そこで、私はNHKの調査による睡眠時間の中で、Ohayonの研究による高齢者の割合で実際に眠った場合に、年をとった時には一日の睡眠時間がどのくらいになるのかを算出してみました(Uchida, S. 2014)。その結果のグラフが下記のものです。これをみると、40代、50代で睡眠時間は最も短く、その後増加しています。

 この図は、実際に睡眠時間を測定したものではなく、あくまでも2つのデータからの推定値です。また、日本人の生活を考えると、40代50代の人達は、睡眠時間が短くて良いという意味ではなく、仕事など生活上睡眠時間を十分取れないということもある可能性があります。したがって、本来必要な睡眠時間となると、30代から70代までゆるやかに減少するという可能性もないとはいえません。

 このように、それぞれの年代の人々がどのくらいの時間眠っているのかという基本的なデータも、まだ十分には無いのが現状です。睡眠は、国民の心と体の健康に欠かせない重要な要素です。今後も、さらに睡眠研究が盛んになり、多くの人達がより健康的な睡眠が取れる情報が発信されていくと良いと思います。

    <引用文献>
  1. 健康づくりのための睡眠指針2014 厚生労働省健康局 平成26年3月
  2. Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello MV. Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals: developingnormative sleep values across the human lifespan. Sleep 2004; 27: 1255–73.
  3. 日本人の生活時間・2010 NHK国民生活時間調査 NHK放送文化研究所, 東京 2011.
  4. Uchida S. Does sleep really shorten when we get older? Sleep and Biological Rhythms 2014; 12: 308–309

内田 直(うちだ・すなお)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】
2003- 早稲田大学スポーツ科学学術院 教授
1992- 東京都精神医学総合研究所 副参事・睡眠障害研究部門長(退職時)
1990- カリフォルニア大学ディビス校医学部精神科客員研究員
1983- 東京医科歯科大学付属病院精神科神経科 医員

【資格等】
博士(医学)東京医科歯科大学
厚生労働省 精神保健指定医
日本精神神経学会 精神科専門医
日本睡眠学会 睡眠医療認定医
日本体育協会 スポーツドクター
日本スポーツ精神医学会 メンタルヘルス運動指導士

【学会】
日本精神神経学会
日本スポーツ精神医学会 理事長
日本睡眠学会(評議員)
日本臨床スポーツ医学会
日本体力医学会
アジア睡眠学会
アメリカ睡眠学会