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豊泉 洋(とよいずみ・ひろし)早稲田大学会計研究科教授 略歴はこちらから

スタバの並び方って変じゃない?
:順番待ちの数学

豊泉 洋/早稲田大学会計研究科教授

 すでに気付いていると思いますが、マクドナルドとスターバックスでは並び方が違います。マクドナルドでは、一人の店員が全部対応してくれます。この店員、新人かな?もうちょっとキビキビ動けないかなと思いながらも、安心して自分のビックマックのセットを待ちます。スターバックスに行くと、注文してお金を払った後、
「お飲み物は、あちらのカウンターからお出します。」
と言われます。だいぶ慣れましたが、それでも、注文したキャラメルラッテを誰かに間違われないか、ドキドキしながら待ちます。心理的な側面は別として、マクドナルドとスターバックス、どちらの並び方が効率的でしょうか(図1参照)、それとも、効率は同じでしょうか?

図1 店員が二人の場合のマクドナルド(左)とスターバックス(右)の並び方(待ち行列)([1]から転載)

 普通、数学で行列というと下のように縦横に数字が並んだものを指します。(この行列は特殊です、どんな性質があるでしょう?)映画の題名と同じですが、この行列は英語で「マトリックス」と呼ばれます。

 今話題にしているのは、「マトリックス」と同じように「並び」ますが、もっと身近な行列、「待ち行列」です。経済学では、需要と供給がアンバランスなとき、価格が変化すると習います。ところが、一時的に需要が供給を上回った状態を解消するもう一つの便利な方法があります。「待ち行列」です。作って売れるハンバーガーよりも多くの客が店内にいるとき、マクドナルドはハンバーガーの値上げはしません、そのかわりに、客はカウンターの前に列を作ります。需要の集中が一時的な場合、徐々に列はなくなります。このような現象は、かなり昔から研究者の興味を惹き、その性質が熱心に研究されてきました。

図2 WimbledonのThe Queue。入場券を待つためにキャンプして楽しみながら待ち行列に加わるテニス好き達。筆者撮影2014年6月

 待ち行列は、高速道路の渋滞、人気のあるラーメン屋、新型のスマホの発売など、日常生活の様々な場面に現れます。筆者は大のテニス好きで、英国のWimbledonまでテニスの試合を観戦に行きます。Wimbledonでは、当日券をもとめて世界中のテニス好きが集まり、世界で一番有名な待ち行列、The Queue(図2)を作ります。The Queueは例外的にテニス好きに愛される待ち行列と言えますが、たいていの場合、サービスや商品を受けとるまでの時間がかかってしまうので、待ち行列は嫌われ者です。待ち行列を研究している私でさえ、嫌いです!

 嫌われ者の待ち行列を少し詳しく考えてみましょう。マクドナルドでは、カウンター毎に一人の店員がオーダー、商品受け渡しを担当します。それに対して、スターバックスでは、オーダーのカウンターと商品受け渡しのカウンターが別々で、待ち行列も二つできます。図1のように二人の店員がいて、まったく同じ能力だとします。マクドナルドでは一気に最初から最後まで仕事をするので、商品を受け取るまでの待ち時間が長そうに感じます。ところが、分業による作業の効率化がないとすると、マクドナルドの方が効率的なのです。なぜでしょう?スターバックスの待ち行列は二つに「分断」されています。そのため、片方の待ち行列から人がいなくなったときに、担当の店員はやることが無くなってしまいます。マクドナルドでは、二人の店員の前に一列に並ぶため、そのようなことは起こりません。そのため、平均的には、スターバックスの待ち行列の方が時間がかかることが数学的に証明することができます。詳細は拙著[1]をご覧ください。もちろん、分業により、効率的になったり、集中して上手にコーヒーをいれらる等のメリットもありえるので、一概にスターバックスのやり方が悪いというわけではありません(ちょっとフォローしたので、許してくださいね、スターバックスさん)。

 日常のちょっとした現象も科学や数学の目を使ってみるといろいろなことがわかります。

<参考文献>
[1]塩田茂雄,河西憲一,豊泉洋,会田雅樹.待ち行列理論の基礎と応用.未来へつなぐデジタルシリーズ29.共立出版,2014.

豊泉 洋(とよいずみ・ひろし)/早稲田大学会計研究科教授

【略歴】
1989年3月 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程物理学及び応用物理専攻修了
1998年3月 早稲田大学大学院理工学研究科博士(工学)取得
1989年4月 日本電信電話株式会社入社
1999年6月 会津大学性能評価講座講師
2005年4月 早稲田大学会計研究科助教授
2007年4月-現在 早稲田大学応用数理学科併任
2009年4月-現在 早稲田大学会計研究科教授
2013年7月-現在 国家公務員総合職試験専門委員

<受賞歴>
1997年3月 1996年度電子通信情報学会学術奨励賞受賞
1999年3月 1998年度電子通信情報学会交換研究会SSE研究賞
2013年3月  BIOTECHNO 2013 Best Paper Award

<主 著>
“待ち行列理論の基礎と応用,”共著,共立出版、2014
“モンテカルロ法ハンドブック,”共訳,朝倉出版、2014

<学 会>
日本オペレーションズリサーチ学会、電子情報通信学会、日本応用数理学会、IEEE、INFORMS、SIAM、日本数理生物学会