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竹山 春子(たけやま・はるこ)早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

科学とダイバーシティ

竹山 春子/早稲田大学理工学術院教授

 私の専門は、生物工学、カタカナで書くならばバイオテクノロジーである。最近は、サンゴ礁環境をはじめ、種々の環境中の微生物の遺伝子解析とその遺伝子資源の活用研究を行っている。研究を通じて感じることは、例えば、サンゴ礁は、まれにみる多様性の高い環境であり、さまざまな生物が協調、相互関係を持ちながら生態系を維持している。そして生物同士の関係だけでなくそれらを取り巻く化学的、物理的環境との相互関係も重要である。ダイバーシティ、日本語で多様性であるが、その高さは生態系の健全性を示すものでもあり、多様性の高い生態系は、環境変動にも順応することのできる柔軟な集団でもある。

サンゴ礁。多様性の高さが健全性を示す

 私達の社会でも同じことであり、性別、年齢、国籍など多様性に富んだ社会は柔軟性をもって様々な課題の解決に立ち向かいながらも発展することが可能であろう。では、科学という分野はどうであろうか?幅広い分野を有する科学は、時代、社会とともに育ち、変遷・発展していくものである。多種多様な感性と発想、能力等を持つ研究者の関わりが科学の発展をより確実なものにしていく。その中で、多様性の高さは科学という果てしもなくゴールのない世界においてはますます重要な因子と言えるであろう。

大学という生態系

 大学には学部、学科(専攻)、研究室というユニットがあり、それぞれにおいて教育と研究という大きな二本柱が存在する。ユニットに規模の違いはあるものの、何かしらのミッションを共有しながらも個々の能力の育成と成果の追及を行っている。

 多様性の一番目のミッション、性差に関して考えてみる。日本の高等教育においては、男女における区別はなく自由に教育を受けている。しかしながら理系の大学における男女比は世界的な傾向同様女性の割合は大幅に少ない。その中で生物を扱うバイオ分野における女性比率は他と比較して高いと言えるであろう。私の所属する早稲田大学の生命医科学科の入学者をみると、女性の比率は例年3割前後であったのが2015年度では約半数に達している。実際、教育の現場、研究を行う研究室では性差の影響は私個人としては感じていない。科学においては、研究能力は個人に由来することから、性差よりも個人差の方が大きいと感じている。小学生までは、理科好き学生は男女半々ではあるが、中学校ぐらいから急激に女子学生比率が減少すると言われている。その一因に、社会構造とその構造を築き上げてきた背景もある。女の子が理科系に行くと苦労する、などの囁きもあるのかもしれない。どこに行っても苦労はつきもの、楽な分野などないはずであるが。

 研究室のような小さな集団でも、男女どちらかに偏った集団よりも適度な比率で構成されることは、集団としての協調性、柔軟性、精神性に影響する気がする。科学はある面では個人プレイのところもあるが、これだけ先端技術が発展してくると、一人だけで研究行うのではなく異分野、新しい技術を有する研究者との連携は必須であり、それを可能にするコミュニケーション、研究体制作り、運営能力も問われてくる。このように、ひとたびユニットとして機能する集団が作られる場において、女性の存在は、集団の円滑な推進に寄与する印象がある。ここで強調したいのは、性差は研究には影響はしないにもかかわらず、男性が大半を占める理系社会の不自然さは是正するべきであり、性差を超えて、個々の能力を発揮することで科学のすそ野も広がると信じている。

地球的多様性

研究室にて

 国籍の多様性についてであるが、グローバル化を目指す社会では必要不可欠であろう。しかしながら、まだ表面的なグローバル化しか進んでいない日本、特に大学においては個々の意識改革につながる機会かと思っている。私の研究室では、留学生を受け入れてはいるが、人数もまだまだ少ないことから日本人学生にとって国籍の違いを容認しつつ協調することの必要性を認識する場となっているだけである。そこで、研究室としては、積極的に外国の研究者と共同研究をすること、学生はいろいろなプログラムを通じて外国のラボで異なる国籍の学生、研究者らと研究の機会を経験することを推進している。これらを経験した学生は、科学というものをより大きな土俵でとらえ始めているようである。

 早稲田大学の理工系では、英語ですべての授業を行う国際コースがあり、外国人学生や帰国子女が学んでいる。日本人の学生集団に比べて、人数が少ないこともあるが、クラスでは積極的な質疑が行われている。日本人の大学生には見習うべき点である。科学にはディベートが重要であり、その点では多様なバックグランドを持つ外国人学生、研究者の存在は日本において非常に重要だと感じている。

「違う」を肯定し発展する

 日本の社会は、「違うこと」を必ずしもポジティブに受け入れてきてはいなかった。科学の分野は、違いを重要視し個性として扱い創造性の原点としてきたと思っている。だからこそ、科学の分野には多様性を重んじる気風があると信じている。しかしながら、大学、研究室という組織になった瞬間、日本的風習が持ち込まれてきたのも事実である。科学は、多様な人材を生かす場であることから本来の発展を望むのであれば、「違い」を個性として貴び受け入れることを積極的に行うべきである。特に、日本の科学の発展は現在の社会同様停滞期に入っており、その打開の活力を得るためにも多様性を高めるチャレンジを進めるべきだと思う。

竹山 春子(たけやま・はるこ)/早稲田大学理工学術院教授

【略歴】
<学歴>
昭和55年4月~昭和59年3月:東京農工大学農学部環境保護学科:卒業
昭和59年4月~昭和61年3月:東京農工大学農学研究科環境保護学専攻修士課程:修了
昭和61年4月~平成1年3月:東京農工大学資源応用化学科研究生
平成1年4月~平成4年3月:東京農工大学工学研究科物質生物工学専攻:修士、博士(工学)取得

<職歴>
昭和61年4月~平成1年3月:(株)アドバンス入社研究所配属
平成3年1月~平成6年2月:米国マイアミ大学海洋研究所研究員(平成4年4月から博士研究員)
平成6年3月~平成8年3月:米国マイアミ大学海洋研究所Adjunct Assistant Professor
平成6年3月~平成11年6月:東京農工大学工学部物質生物工学科助手(平成7年生命工学科へ改組)
平成11年6月~平成17年9月:東京農工大学工学部生命工学科助教授(平成16年4月、部局化により大学院共生科学技術研究院生命機能科学部門助教授)
平成17年10月~平成19年3月:同教授
平成19年4月~現在:早稲田大学理工学術院先進理工学部生命医科学科教授
平成19年4月~現在:東京農工大学工学部生命工学科客員教授
平成20年4月~現在:東京農工大学・早稲田大学大学院共同先進教育課程共同先進健康科専攻教授(併任)

<専門分野>
・マリンバイオテクノロジー、遺伝子工学、分子生物学、微生物工学、環境ゲノム工学
・バイオマスエネルギー、バイオセンサー、バイオ計測