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貴田寿美子(きだ・すみこ)/早稲田大学理工学術院講師  略歴はこちらから

夜空は遥かに美しい──目には見えない電波で星を見る

貴田寿美子/早稲田大学理工学術院講師

 我々は夜空に輝く無数の星々を眺めて美しいと感じる。実はそこには目には見えない、さらなるダイナミックな夜空が広がっている。夜空は我々が感じるよりも、遥かに多くの輝きを有している。

目で星を見る

 天体観測という言葉を聞いて、思い浮かべるのはどんな光景だろうか?おそらく多くの人が望遠鏡を覗いて星を見ている光景を思い浮かべるのではないだろうか。この光景をもう少し丁寧に表現すると、望遠鏡を覗いて「目で星を見る」ということになる。人の目は電磁波(電波、赤外線、可視光、紫外線、エックス線、ガンマ線)の内、波長が凡そ400nm-750nmの可視光を見ることができる。「目で星を見る」とは、目で星から放射される可視光を見る、ということである。星は可視光のみを放射するのか?というと、そうではない。星の種類にもよるが、電波からガンマ線まであらゆる電磁波を放射している。可視光以外の電磁波を見ることが出来るならば、目には見えない新たな星の姿を見ることが出来るのである。

電波で星を見る

 人類は紀元前より目で星の観測を行ってきた。人類は非常に長い時間、空から可視光以外が降り注いでいる事実を知ることはなかった。20世紀に入り、アメリカの無線技術者であったカールジャンスキーが偶然に空から未知の電波を受信し、その正体が天の川銀河に由来するものであると解明した。電波天文学の登場である。

図1 早稲田大学那須観測所
口径20mの望遠鏡が8基、口径30mの望遠鏡が1基ある。掃天観測により、電波源の強度変動を毎日モニターしている。

 目には見えない「電波で星を見る」とはどういうことか?赤外線カメラやエックス線によるレントゲンを思い浮かべると分かりやすい。星から放射された電波を集めて像をつくることにより、「電波で星を見る」ことができる。星からの電波を集めるためには、巨大な望遠鏡が必要となる。可視光の目で覗く望遠鏡とは異なり、大きなアンテナが電波望遠鏡である(図1)。星からの電波は非常に微弱であること、電波は波長が長いことから、口径の大きな電波望遠鏡が必要である。現在の主流は、望遠鏡を複数設置し、それらを1つの大きな望遠鏡として用いる電波干渉計という技術である。

 目で見ると何も見えない場所に、電波では強く輝く星が見えることもある。またその逆で、目で輝く星が見えるのに電波では真っ暗であることもある(図2、3)。電波は可視光よりも波長が長く、エネルギーが低い。従って、電波では可視光で輝くほどエネルギーを持っていない形成途中の星、宇宙誕生時に放射され時間の経過と共にエネルギーが弱くなったビックバンの名残などを見ることができる。電波天文学は天文学の中でノーベル賞の受賞件数が最も多く、過去の天文学への貢献は非常に大きい。2013年から本格稼働が始まった、南米チリのアタカマ砂漠に建設されたALMA望遠鏡は、東京から大阪に落ちている1円玉を見ることが出来る性能を有する※1。視力の良さは電波の特徴の1つでもある。電波天文学は、未来の天文学へも大きな貢献が望める。

図2 触覚銀河(ALMA望遠鏡による電波観測)
電波の強度を色により表している。
(国立天文台提供)Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

図3 触覚銀河(ALMA望遠鏡による電波観測とハッブル宇宙望遠鏡による可視光観測の重ね合わせ) 電波と可視光では、輝く領域が異なっている。
(国立天文台提供)Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). Visible light image: the NASA/ESA Hubble Space Telescope

電波天文学とスマートフォンの凌ぎ合い!?

 このコラムをスマートフォンで読まれている方は多いのではないだろうか。今、読者の皆様が握っているスマートフォンと上述の電波天文学には密接な関係がある。

 目で星を見る場合、都心などの周辺が明るい地域ではたくさんの星を見ることが出来ない。これと同様に、電波で星を見る場合にも見えなくなってしまうことがある。我々の生活空間には無数の電波が飛び交っている。星から地球に到達する電波はスマートフォン等から発せられる電波に比べ、数十桁も弱い。強い電波が混信すると、観測は困難となってしまう。無線通信等の電波発信と電波天文学等の電波受信は、周波数による分別が必要であり、法的にも定められている。国際的には国際電気通信連合により無線通信規則が定められており、日本では総務省の管轄下で周波数の割り当てが行われている。この割り当ての中に電波天文用の帯域があり、それらの限られた帯域内で観測が行われている。割り当てられた電波天文帯域には、完全に受信のみの帯域(発信禁止帯)もあるが、発信と受信の両方が同じ帯域に共存している場合もある。世紀の大発見かと思いきや地上における通信電波であった、ということもさながら発生している。筆者も苦労して得た観測データが混信により、全く使えないという苦い経験が何度かある。無線通信の急速な普及は、電波天文学の存続危機と背中合わせである。

 電波天文学を多くの人々に認識して頂き、生活の利便性や安全性との共存を図る努力が必要な時代である。日本では、電波法により「電波とは300万MHz以下の周波数の電磁波」と定義されている。「以下」と表記されていることからも明らかな通り、電波は有限の資源、財産である。スマートフォンを始めとする無線通信を行う際には、ほんの少し電波天文学への配慮を持って頂けると幸いである。

  1. ^ ※1アルマ望遠鏡 国立天文台 http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/

貴田寿美子(きだ・すみこ)/早稲田大学理工学術院講師

【略歴】
早稲田大学理工学術院先進理工学研究科物理及応用物理学専攻にて博士(理学)取得。 日本学術振興会特別研究員、早稲田大学教育学部助手を経て2013年より現職。日本大学理工学部非常勤講師兼任。専門は電波天文学。日本天文学会正会員。