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渡邉 孝信/早稲田大学理工学術院教授  略歴はこちらから

シリコンは続くよどこまでも

渡邉 孝信/早稲田大学理工学術院教授
2018.9.3

シリコンは優等生じゃない

 シリコン(Si)は、CPUやメモリの製造に不可欠な半導体材料である。1960年代から主要な半導体となり、現在の市場規模は全半導体基板の90%を占める。データセンターのメモリ需要やAIなど新需要の拡大に伴い、Si基板の生産量は今も増加し続けている。2017年には過去最高を4年連続で更新。今年もまだこの勢いは続いているようだ。

 なぜSiばかり使われるのか。Siが他の半導体と比べて優れた物性を持っているかというと、決してそうとは言えない。まず、電気を流す能力の指標となる「移動度」がさほど高くない。光を電気に変換する能力に至っては、むしろ劣等生の部類に入る。にもかかわらず、太陽電池パネルのほとんどがSiで作られている。最近注目されているパワー半導体も、市場の主役は依然としてSiである。パワー半導体では、オフ状態で高電圧に耐えてしっかり電流を食い止め、オン状態でたくさん電流を流せる半導体が要求されるが、Siよりも炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)の方が潜在性能は高い。

シリコンなら大きな結晶を安く作れる

図1 Si結晶の引き上げの様子(左列)と完成した単結晶Siのインゴット(右)(グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社提供)

図2 LSIが作り込まれた直径300mmのSiウェハ

 Si結晶は、高純度に精製したSiを高温でドロドロに溶かし、そこにSiの小さな種結晶を浸して引き上げることで作られる(図1参照)。種結晶を回転させながら徐々に引き上げると、原子配列がそろった円筒状の結晶塊(インゴット)が出来上がる。これをスライスして薄い円板(ウェハ)を沢山切り出す。こうして大量のSi基板が生産される。

 現在の先端LSI用のSi基板の直径は300mmもある(図2参照)。径を大きくすると1枚の基板上に沢山のLSIチップを作り込めるので、その分チップ単価を下げられる。大きな円板の端から反対側の端まで、小さな原子が乱れなく整然と並ぶのだから、まさに驚異的な技術である。

 同じ要領で他の材料でも大きな結晶が作れるかというと、なかなかそうはいかない。Siは大気圧下、1420℃で融解する。一方、次世代パワー半導体のSiCを溶かすには35気圧、2830℃にする必要がある。GaNに至っては45000気圧、2500℃が必要と計算されている。現在、SiCやGaNの結晶は、原料ガスから析出させる方法で時間をかけて育成される。

 Siは、イレブン・ナインの純度、すなわち99.999999999%と、9が11桁並ぶほど高純度に精製されてから結晶化される。ただし、上記のように融液から引き上げて形成されるSi結晶には、Si融液の容器として使われる石英るつぼ由来の酸素原子が結構な割合で混入している。実はそのおかげでSi基板が強固になり、大口径化に一役買っているのだ。酸素を含まない真に高純度のSi結晶はもろく、薄く大きな円板状にして扱うことが難しい。

シリコンなら良質の絶縁膜が形成できる

図3 半導体デバイス中の半導体と絶縁膜の界面

 もう一つ、Siを優位にしている決定的な理由として、良質の絶縁膜を簡単に形成できる点が挙げられる。CPUでも、メモリでも、パワー半導体でも、およそ半導体デバイスは、半導体と絶縁膜の界面で電気の流れをコントロールして動作している(図3参照)。この界面に原子間結合の欠陥があると、そこに電子が捕獲されて正常なデバイス動作を妨げてしまう。欠陥のない良質な界面を形成することは、半導体デバイス技術の最重要課題なのである。いくら素材として優れていても、良質な絶縁膜との界面を作れなければ役に立たない。

 Siの場合、炉の中で加熱すると表面が酸化され、石英と同じ組成の絶縁膜「Si酸化膜」が形成される。このSi酸化膜は絶縁性能が高い上、界面のSi原子10万個に対してわずか1個の割合でしか欠陥が生じない。しかも長期的に電気ストレスを印加しても劣化しにくい、極めて信頼性の高い絶縁膜である。

 Si以外の材料でデバイスを作るには、このSi酸化膜に匹敵する高品質の絶縁膜が必要である。これまで世界中で研究開発が行われ、Si酸化膜に代わる絶縁膜の形成技術もかなり進んでいるが、長期信頼性まで含めて合格基準をすべてクリアするものはなかなかできていない。

シリコンはとにかく使える半導体

 要するにSiは使い勝手の良さが抜群なのだ。有能すぎて扱いにくい人より、愛嬌があって上司にうまく使ってもらえる人の方が出世しやすいと言われるが、Siもそんな存在に例えられるかも知れない。

 近年のナノ加工技術の進歩により、Siの新たな能力がまた一つ開花しつつある。筆者が最近研究している、熱エネルギーから電気エネルギーを生み出す能力だ。Siのテクノロジーは一体どこまで続くのか。終わりはまだまだ見えない。

渡邉 孝信(わたなべ・たかのぶ)/早稲田大学理工学術院教授

【略歴】
1995年 早稲田大学理工学部電子通信学科卒業/1999年 同大学理工学研究科電子情報通信学専攻博士課程修了。博士(工学)取得/日本学術振興会特別研究員、早稲田大学講師、准教授を経て、2012年より現職/専門分野は、電子材料工学、計算科学。