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栗山 浩一(くりやま・こういち) 早稲田大学政治経済学術院教授 略歴はこちらから

世界は低炭素社会へ転換できるか
―洞爺湖サミットで問われた日本の課題

栗山 浩一/早稲田大学政治経済学術院教授

 7月7日から9日に開催された洞爺湖サミットでは,主要テーマの一つが温暖化問題であった。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた第4次報告書によれば,気温上昇を2℃に抑えるためには2050年までに温室効果ガスの排出量を世界全体で半減させる必要があり,京都議定書で定めた先進国全体で5%削減という数値目標からさらに大幅な削減が求められている。洞爺湖サミットでは,IPCCの報告を受けてEUが2050年までに半減という数値目標を設定することを主張した。一方,アメリカは,中国やインドなどの新興国が削減義務を負うことなく,先進国のみが数値目標を設定することに反対した。

 こうしたEUとアメリカの対立を経て,洞爺湖サミットは「2050年までに世界の排出量を少なくとも半減させるという目標についてのビジョンを,国連気候変動枠組み条約の締約国と共有し,採択することを求める」という環境宣言を行って閉幕した。京都議定書から離脱したアメリカも巻き込んで「2050年までに半減」という長期目標を示したという点では一定の前進とも言えるかもしれない。しかし,この長期目標を実現することは容易ではない。なぜなら,中国やインドなどの新興国では温室効果ガスの排出量が急増しているにもかかわず,経済成長を優先するため数値目標の設定に反対しているからである。

排出量が急増する新興国

 図1は世界の二酸化炭素排出量の国別内訳を示したものである。1990年においては中国やインドなど途上国の占める割合は36%にすぎなかったが,2005年においては51%と約半分を占めるようになった。一方,京都議定書が削減義務を課している先進国の排出量は2005年では全体の29%にすぎない。今後,先進国が温暖化対策を進めて排出量を削減したとしても,中国やインドなどの新興国が排出量を増やしたならば,世界全体の排出量を半減化することは困難である。

 主要8カ国に中国やインドなどの温室効果ガスの排出量の多い8カ国を加えた主要排出国会議(MEM)が洞爺湖サミットと同時に開催された。主要排出国会議では,長期的な数値目標を求める先進国と,数値目標を拒否し続ける中国・インドとの対立を解消できず,最終的に数値目標を示すことができなかった。「これまで先進国が温室効果ガスを大量に排出してきたことが温暖化問題の原因であり,したがって,まずは先進国に削減の義務があるはずだ」という中国・インドの主張は,これから経済発展を目指す新興国の立場を考えるならば理解できないわけではない。だが,新興国が今後も温室効果ガスを増やし続けるならば,たとえ先進国が対策を進めても温暖化問題を解決することは不可能となるであろう。

リーダーシップを発揮できない日本

 世界的規模で温暖化対策が求められる中で,日本の省エネ技術が注目を集めている。オイルショック以後,省エネを進めてきた日本は,世界最高水準のエネルギー効率性を達成している。図2は世界各国のエネルギー効率性を示しているが,同じ経済活動を行うために中国やインドは日本の約9倍のエネルギーを使っており,それだけムダに温室効果ガスを排出していることが分かる。このことは,日本の省エネ技術を中国やインドに移転することができれば,温室効果ガスの排出量を大幅に削減できる可能性があることを意味する。

注:一次エネルギー供給量をGDPで割った数値をもとに日本を1として基準化。
出典:経済産業省『エネルギー効率の国際比較』平成19年4月

 日本は,世界最高水準の省エネ技術を持っており,したがって温暖化対策で世界のリーダーシップを発揮できるはずであった。だが,現実には京都議定書で日本に課せられた6%削減の数値目標すら達成が困難な状態にある。日本は省エネ対策を進めてきた結果,さらに削減しようとする膨大なコストが必要となる。このため,産業界は温室効果ガスの排出規制を強硬に反対し,日本の温暖化対策はあくまでも企業の自主的取り組みにとどまっていた。その結果,削減どころか逆に排出量が増えてしまったのである。日本は世界に誇る温暖化対策技術を持っているにもかかわらず,それを活かして低炭素社会への転換を実現することができなかったのである。

低炭素社会を実現するには

 今後,「2050年までに半減」という長期目標を達成するためには,これまでの大量にエネルギーを消費する社会から低炭素社会へと世界各国が転換することが必要である。とりわけ,中国やインドなどの新興国も含めた世界的規模での温暖化対策が不可欠である。むろん,これから経済発展を目指している新興国に削減義務を課して温暖化対策のコストを負担させることは容易ではない。だが,温暖化対策のコストを先進国のみが負担するにしても,あるいは先進国と新興国が協力して負担するにしても,いずれにしても低炭素社会を実現するためには,日本の温暖化対策技術が重要な役割を果たすことは間違いない。

 すでにEU各国は環境税を導入し,本格的な排出量取引制度(EU―ETS)を開始するなど,低炭素社会に向けた社会制度の構築が着実に進みつつある。はたして,日本は低炭素社会に向けて大幅な政策転換を行うことができるのか。そして日本の進んだ温暖化対策技術を背景に,世界の低炭素社会の実現に向けて日本がリーダーシップを発揮することができるのか。世界が低炭素社会へと変貌しようとしている中,日本の温暖化対策の今後の動向が問われているといえよう。

栗山 浩一(くりやま・こういち)/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】

1967年生まれ。1994年京都大学農学研究科修士課程修了。博士(農学)。1994年より北海道大学農学部森林科学科助手,1999年より早稲田大学政治経済学部専任講師,同・助教授を経て、2006年より現職。専門は環境経済学。著書に『環境経済学をつかむ』(馬奈木俊介氏と共著),『環境の価値と評価手法』,『公共事業と価値の評価』他,編著書・共著書多数。

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