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小尾 敏夫(おび・としお) 早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授(博士)早稲田大学電子政府・自治体研究所所長 略歴はこちらから

iPhone3Gによる社会的革新

小尾 敏夫/
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授(博士)
早稲田大学電子政府・自治体研究所所長

 7月11日にソフトバンクから、アイフォーン(iPhone)が発売された。世界21カ国に同時に発売し、3日間で100万台を売り上げたとのこと。

 アイフォーンは、日本の携帯電話市場にどんな影響を与えるか、について論評したい。 第1世代のアイフォーンは昨年6月末に米国にのみ、最大手通信事業者のAT&Tから発売された。その秋に、ワシントンでの国際会議に出席した際、隣席した米国教授がアイフォーンの使い方を親切に教えてくれたのを覚えている。このときの印象ではそれほど魅力的な端末とは思わなかったが、マルチタッチパネルの斬新なデザインの商品として米国内でも大変な関心を集めていたことは確かである。秋のタイム誌の「今年の発明」に選ばれている。また、AT&Tが発表した年次業績では、アイフォーンの独占販売権による効果で収益及び加入者増が記録されている。

“3G”発売で様相一変

 今年3月にドイツで世界最大のIT見本市「セビット」が開催され、会場を視察して欧州勢の反響を確かめてみた。もともと携帯電話は、欧州のほうがはるかに普及しており、専門家の意見も賛否両論であった。既に世界最大の通信機器メーカー・ノキアや韓国のLGが類似のタッチフォンを発売しており、競争相手が出現していたのもさすがに欧州である。

 ところが、7月に“アイフォーン3G”という第2世代の端末が発売され、様相が一変した。そもそも、製造元のアップル社は、主要国のトップ通信事業者に独占販売権を与える方針であったから、日本ではNTTドコモがそれに該当していた。しかし、ふたを開けてみると、加入者数で二強一弱の三位のソフトバンクが請け負うことになった。また、今秋と予想されていた発売が7月に前倒しになったのも、アップル社のビジネスモデルの戦略変更と思える。今後のアジア市場や法人市場を睨んでのことか。

購入者の新潮流

 アイフォーンの特徴は、マルチタッチスクリーン式のインターフェース、高速データ通信、オープンソフト環境、などいろいろ紹介されているが、最大の特徴はやはりタッチパネルではなかろうか。しかし、この端末はiPodに電話機を内臓したような機能であり、市場調査でも購入希望者の大半は音楽配信機能とスタイリッシュなデザインに魅力を感じており、肝心な電話機能には関心を持っていないというのが、購入者優先機能の新潮流をあらわしている。詳細に分析すれば、従来の携帯電話機能がWiMAX、無線LAN、スマートフォンなどの融合によって、より便利な端末になっている。

 しかしながら、おさいふケータイ、ワンセグ、デコメ、MMSや、一般のモバイルサイトの閲覧が出来ないという不便さは今後の宿題といえよう。購入者からはバッテリーの寿命に不満が出ている。

 もともとはアップル、ソフトバンク双方が関心を持つビジネス(法人)の市場開拓を期待していたが、実際に購入している層は若者の個人層であるのが、アップル+ソフトバンクの客層を色濃く反映している。

日本型ビジネスモデルの変貌

 日本は、世界で最初にiモードを普及させたハイエンドの高機能携帯電話が売れている市場だけに、欧米と違い、社会現象を認めるにしてもそれほど大きなインパクトを市場で与えていない。しかし、専門家の意見を集約すれば、日本型ビジネスモデルの変貌という点では重要な意味を持つ。

 それらは第1に、携帯電話のニーズが通話機能よりも音楽配信、ゲーム、などを含むデータ通信に変貌した点である。第2に、従来の垂直統合型の通信事業者の主導による企業及びユーザーの囲い込みがオープンな市場に変わりつつある点だ。製造から販売まで、通信事業者が強い影響力を持つ日本型の市場において、アイフォーンに関しては製造のアップル社が主導権を握り、ソフトバンクから奨励金を受け取る特異な関係を成立している。日本では販売店が通信事業者から奨励金を貰うが、今回は米国のメーカーが貰う形になっている。

ユビキタス社会におけるガバナンス

 今後、アイフォーン3Gは年末までに一千万台を世界で売上げる目標を立てており、おそらく達成できると思うが、日本においてはあまり急速に販売が伸びると、基地局の不足や無線LANシステムの不備などから購入したユーザーが不満を持つことも予想される。

 したがって、ドコモ、KDDI、ソフトバンク3社の熾烈な競争を見ていると、加入者獲得のみに走るのではなく、インフラの整備に全力をあげなければ、顧客満足度を高めることは出来ないと言わざるをえない。将来の携帯電話市場は図で示したとおり、ますます機能が進化していくと思われる。特に次世代ネットワークや固定電話・無線の融合、テレビ・インターネット・電話などの融合、2010年以降の第4世代携帯電話の出現など今後、技術革新の射程距離に大きな変化が予測できる。

 最後に、携帯電話は、社会インフラであり、便利さの追求とともに、情報通信の基本をなすセキュリティ、個人情報保護、知的財産権などのガバナンスをしっかりと築くことがユビキタス社会における新しい必要性だと思っている。iモードに始まった技術的イノベーションは、アイフォーン3Gに至って社会的イノベーションに進化し、第2次モバイル革命を迎えるに至っている。国際競争力の強化が叫ばれる日本にとって、刺激剤になることを期待したい。

小尾 敏夫(おび・としお)/
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授(博士)
早稲田大学 電子政府・自治体研究所 所長

【略歴】

専門領域は、電子政府 国際情報通信政策、日米欧IT産業比較、CIO。慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院終了後、国連開発計画の企画担当官として、 ニューヨーク本部、パキスタンに赴任。コロンビア大学日本経済経営研究所日本代表、主任研究員、労働大臣秘書官、文教大学教授、早大客員教授を経て現在に至る。内閣府、総務省などの各種委員を歴任。国際CIO学会前会長。著書に「CIO学(東大出版会)」「iモードの挑戦」(PHP研究所)」「日本の情報システムリーダー50人(ソフトバンククリエイティブ)」ほか多数。