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池田 清彦(いけだ・きよひこ) 早稲田大学国際教養学術院教授  略歴はこちらから

環境問題を考える
―地球温暖化という偽問題―

池田 清彦/早稲田大学国際教養学術院教授

新たなデメリットを生むCO2削減

 環境問題というと、CO2の人為的排出による地球温暖化問題のみが大きくクローズアップされている昨今であるが、環境問題は他にも沢山ある。そもそも環境問題とは、人間の活動が環境の劣化をもたらす状況のことだ。一般的には人間は生活条件の改善をめざして活動するわけだが、人間の活動は多少とも現在の地球環境を変更し、しばしばこれが環境問題をもたらす。

 たとえば、農耕は不可避的に自然生態系の改変の上に成立している。何であれ自然生態系の改変を環境劣化であると考えれば、農耕はそれ自体が環境問題とならざるを得ない。しかし、通常農耕それ自体は環境問題と考えられてはいないだろう。それは農耕が人間にもたらすメリットはデメリットよりもはるかに大きいからに違いない。

 もちろん、メリットがデメリットを上回るように思えても、極力デメリットを減らす努力は大事であろう。農業の場合であれば、農薬を過度に使わないとか、河川の流量を余り減らさない水利用とかがこれに当たるであろう。問題はデメリットを減らそうとの努力が別種のデメリットを帰結する時に起こる。人間が自然に働きかけることによって生ずるデメリットを第一段階の環境問題と捉えるならば、このデメリットを除去しようとの努力の結果生ずるデメリットは、第二段階の環境問題と呼べるであろう。

 地球温暖化防止と称する今日日大流行のCO2削減運動は、実にこの第二段階の環境問題なのではないかと私は思う。

石油資源枯渇の恐怖

 化石燃料の使用は人類に大きなメリットをもたらした。石油の利用が本格的になった20世紀の初頭、16億5000万人であった世界人口は現在68億人である。石油エネルギーが人間の活動範囲を拡げ、食糧の増産をもたらしたからだ。石油がなければ、肥料を作ることも、効率よく田畑を耕すことも、魚を沢山獲ることも、いくつもの大都市を造ることもできなかったであろう。

 当然、石油資源は有限である。専門家の予測ではあと10年でピーク・アウト(需要に生産が追いつかなくなる)に達するという。石油が枯渇すればどうなるか。エネルギーと食糧価格は高騰し、失業者は激増し、沢山の人々が飢餓に直面し、世界はパニックに陥るだろう。そう考えれば、石油の使用自体が第一段階の環境問題なのである。この環境問題を解決するには、石油に代わる代替エネルギー源を開発するか、石油がなくても人類が現在の生活水準を余り落とさないで生活できるレベルまで世界人口を減らさなければならない。

 恐らくこの事態を冷静に受け止めるのは恐怖だったのだろう。多くの人々は化石燃料の使用による環境問題は地球温暖化だとの瑣末な偽問題に走った。化石燃料の使用によるCO2の排出は確かに地球の気温上昇に多少ともプラスの効果をもたらすことは確からしく思われる。だから、化石燃料の使用による最大のデメリットが地球温暖化だと考えれば、CO2を削減することには大いなる意義がある。しかし、どう考えてもエネルギーの枯渇に比べれば地球温暖化はたいした問題ではない。

効果の乏しいCO2削減政策

 もちろん、余り大きなコストをかけずにCO2が削減できるのならば、削減することに反対する理由はない。残念ながら、CO2の削減にはべらぼうなコストがかかり、その割には効果はほとんどない。たとえば、日本は年間1兆円以上もの税金を投入して、先進国のCO2削減目標を定めた京都議定書を守ろうとしているが、日本が京都議定書を守ったとしても(実際には守れてないのだが)、100年後の地球の温度上昇を0.004℃ほど下げるのに貢献するだけだ。焼け石に水である。要するに膨大なコストをかけても温暖化は防げないのだ。税金を無駄遣いすることは大きなデメリットであるから、CO2の削減政策は、デメリットを除去しようとして、更なるデメリットを帰結するという、第二段階の環境問題の典型例なのだ。

代替エネルギー開発に総力を

 人類が直面する最大の環境問題であるエネルギーの枯渇と食糧不足に対処するためには、代替エネルギーの開発に総力を挙げなければならない。太陽光、風力、地熱などが有力なエネルギー源の候補だが、効率のよい装置を造るためには多大な開発費、実用化のためにはそれに加えてエネルギーが必要だ。太陽光は天から降ってくるが、太陽光発電所は天から降ってくるわけではない。現時点では石油エネルギーを使って造る他はない。換言すればCO2をバンバン排出して代替エネルギーのインフラを整備しなければ、未来は暗いということだ。

 もうひとつ大きな問題は、いろいろやってみたけれども、植物を植えておく以上に効率のよい代替エネルギーは見つからないかもしれないことだ。この場合は、どうやって平和裡に世界人口を減少させるかという大問題に人類は直面することになる。いずれにせよ、CO2の削減などという偽問題にかまけているヒマはないのだ。

池田 清彦(いけだ・きよひこ)/早稲田大学国際教養学術院教授

【略歴】

1947年東京都生まれ、東京教育大学理学部生物学科動物学専攻卒業。都立高等学校教諭を経て東京都立大学大学院理学研究科博士課程生物学専攻修了。山梨大学教育人間科学部教授を経て2004年より現職。主な研究テーマは理論生物学、生命の形式についての研究、昆虫の生態学と分類学。生物学の分野に留まらず、多彩な評論活動を行っている。

【2008年の著書】

『信念対立の克服をどう考えるか』 構造構成主義研究 2
『細胞の文化、ヒトの社会―構造主義科学論で読み解く』 北大路書房
『遺伝子がわかる!』 ちくまプリマー新書 87
『やがて消えゆく我が身なら』 角川ソフィア文庫372
『ほんとうの環境問題』 共著 新潮社
『正義で地球は救えない』 共著 新潮社(10月刊行予定)
その他著書多数