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野口 智雄(のぐち・ともお) 早稲田大学社会科学部教授  略歴はこちらから

米国発「ライフスタイルセンター」
日本に根づくか? 新型ショッピングモール

野口 智雄/早稲田大学社会科学部教授

エンクローズド・モールは過去のもの

 筆者が客員研究員としてスタンフォード大学へ発った2006年前後に、日本ではショッピングセンターにスポットライトがあたるちょっとした「出来事」があった。それは、イオンモールとダイヤモンドシティ(両社は2007年に合併)による「郊外型ショッピングセンター」、東京ミッドタウンや表参道ヒルズなどの「都市型高感度ショッピングセンター」、JR東日本ステーションリテイリングによる「エキナカショッピングセンター」(ecute)などの開業である。

 これらは、内外装もあか抜けていて、魅力的なテナント群をそろえることにより、鋭い日本の消費者の購買意欲をジンジン刺激し、オシャレで、便利な商業施設として定着した。

 これらの大部分は多数のテナントをビルの大きな屋根で一体的に覆ったボックス型の施設で、米国ではエンクローズド・モールと呼ばれるものである。だが、米国では現在、この種の屋根を外したオープンエアのショッピングセンターが人気で、いわゆるクッキーカット・スタイルのエンクローズド・モールは過去のものといった見方がなされている。

オープンエア型の代表

ロサンゼルス郊外グレンデールにあるライフスタイルセンター「アメリカーナ・アット・ブランド」

 オープンエア型ショッピングセンターの代表がライフスタイルセンターである。これは、アンカーテナントを持たないフリースタンディング店舗の集積型施設で、意匠を凝らした建造物群と、遊歩道や噴水などを伴った美しい景観を湛え、シネコンや上質なレストランなどのエンターテインメント施設を内包し、加えて購買に便利な店舗前駐車場を備えたのものと、一般に解されている。ここは、来場者にとって単に商品を購入する場を超え、長時間滞留して自分なりの生活(ライフスタイル)を楽しむ憩いの場を形成しているのだ。

 このような商業集積の形態は、歴史をひも解けばかなり古くからある。1922年に開業した米国最古のショッピングセンターといわれるミズーリ州カンザス・シティのカントリー・クラブ・プラザもオープンエア・スタイルである。ここは、スペイン風の建築様式を取り入れた120以上の小売店舗群と、ヨーロピアン・テイストのアートや噴水などを備えた立派なライフスタイルセンターであり、現在でも人気が高い。

 しかし今日の米国ショッピングセンターの主役を演じているライフスタイルセンターは、エンクローズド・モールの代表である画一的なリージョナル・ショッピングセンターからの消費者離れにより、1990年代から巻き起こったニューウェーブの産物だ。統計上はいまだ200ヶ所にも満たない水準だが、新規開発物件の多くがこの形態であり、増加の一途をたどっている。

 態様面では、すでに明確な多様化傾向を示しており、カリフォルニア州ラスベガスのタウン・スクエアにみられるような世界の伝統的な建築様式を建物に取り入れた「本格トラディショナル志向」のもの、カリフォルニア州グレンデールのジ・アメリカーナ・アット・ブランドのように広大な噴水広場と休憩施設とを配した「アメニティ志向」のもの、さらにテキサス州オースチンのザ・ドメインのように7万坪にも及ぶ巨大な敷地に小売テナントやレストランだけでなく、オフィスやレジデンス、そしてホテルまでも組み込み、それぞれの相乗効果を狙った「ミニシティ志向」のもの、などに開発ベクトルの分化がみられる。

日本での本格的普及に期待

 日本でも米国を見ならい、徐々にライフスタイルセンターへのチャレンジがみられ始めている。だが、本格的な米国流ライフスタイルセンターの登場はこれからだろう。異論はあるものの、筆者は今後、この種のショッピングセンターが日本でも増えていくと予想している。

 沈滞する経済のもとでも、日本には富裕層が多く、自分なりのライフスタイルを確立し、それを大切にする人々が少なくない。かつ昨今、スローライフや自然派を信奉する人々は増加する趨勢にある。明るい太陽の下で開放感あふれる街路風景を楽しみながら充実したゆとりのある時を過ごしたいという人々が増加傾向にあるのだ。

 そのような人々に、ライフスタイルセンターは、絶好の憩いの場を提供してくれる施設だと筆者は思っている。

野口 智雄(のぐち・ともお)/早稲田大学社会科学部教授

【略歴】

早稲田大学社会科学部教授。1984年、一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位修得。その後、横浜市立大学助教授を経て、92年に早稲田大学助教授。93年から現職。2006年3月から2008年3月まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部で主に米国小売業の研究を行う。著書に『流通 メガ・バトル』(日本経済新聞社)、『I型流通革命』(講談社)、『価格破壊時代のPB戦略』(日本経済新聞社)などがある。