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後藤 巻則(ごとう・まきのり)早稲田大学大学院法務研究科教授 略歴はこちらから

マンション更新料は違法か?
消費者契約法における“信義則”

後藤 巻則/早稲田大学大学院法務研究科教授

異なる判決

 更新料を定める約定が消費者契約法10条に違反するかどうかについては、大津地判平成21・3・27までは同条に違反せず有効とする判決が続いていたが、京都地判平成21・7・23、大阪高判平成21・8・27、京都地判平成21・9・25は、相次いで更新料は消費者契約法10条に違反して無効と判断し、無効判断が定着するかに見えた。ところが、最近、大阪高判平成21・10・29は、再び更新料は10条に違反せず有効とする判断を示した。

 8月判決は、月額賃料4.5万円で1年ごとに10万円の更新料を支払うとする契約について、本件更新料は、当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約時に、あらかじめその次の更新時に賃借人が賃貸人に定額の金銭支払いを約束したものでしかなく、それらの契約において特にその性質も対価となるべきものも定められないままであって、法律的には容易に説明することが困難で、対価性の乏しい給付というほかはないとした。これに対して、10月判決は、月額賃料5.2万円で2年ごとに賃料の2カ月分、3回目の更新時に賃料を5.0万円、2年ごとに旧賃料の1カ月分の更新料を支払うという契約について、本件更新料は、賃借権設定の対価の追加分ないし補充分と解するのが相当とし、さらに、適正な金額にとどまっているということができるとし、借主の義務を加重する特約であるが、借主が信義則に反する程度まで一方的に不利益を受けていたということはできないとして有効とした。

 8月判決は、契約期間を通常行われている2年間より短い1年間と定め、また、通常よりも高額な賃料の2倍を超える金額を定めていた場合に更新料特約を消費者契約法10条違反とした例外的な事例という見方もありうるが、両判決には、消費者契約法10条の基本的な理解に違いがある点が注目される。

消費者契約法10条をめぐる解釈

 同法10条は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって」(前段要件)、「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」(後段要件)は、無効と規定している。大阪高裁の2つの判決は、いずれも更新料の約定が前段要件に該当することは認めるが、後段要件の該当性については、8月判決が、消費者契約法の目的規定(同法1条)に照らし、「あくまでも消費者契約法の見地から、信義則に反して消費者の利益が一方的に害されているかどうかを判断すべきである」とするのに対して、10月判決は、消費者と事業者との間にある情報、交渉力の格差を背景にして、「本来は法的に保護されるべき消費者の利益を信義則に反する程度にまで侵害し、事業者と消費者の利益状況に合理性のない不均衡を生じさせるような不当条項」が後段要件に該当するという。

 10月判決は、消費者の利益が信義則に反する程度にまで侵害されることが要求されるとして、両当事者の利益状況の不均衡を重視するが、10条において信義則という基準がなぜ採用されたのか、そこにおいて信義則の意味がどう理解されているのかが重要である。

 これまでの判決を見ると、敷引特約が10条に違反すると判示する際に、特に信義則に違反するということを述べていないもの(京都地判平成18・11・8最高裁HP)、敷引特約は、これを認める合理的ないし正当な理由がなく、また、同特約を一方的に押し付けられる状況にあるとして、信義則に反し賃借人の利益を一方的に害するものとして無効と述べたもの(神戸地判平成17・7・14判例時報1901号87頁)、自然損耗等についての原状回復費用を賃借人に負担させる条項につき、貸主において使用の対価である賃料を受領しながら賃貸借期間中の自然損耗等についての原状回復費用を借主に負担させることは、借主に二重の負担を強いることになり、貸主に不当な利益を生じさせる一方、借主には不利益であり、信義則に反するとし、また、敷金と清算条項の合意は、原状回復の内容をどのように想定し、費用をどのように見積もるか、借主に適切な情報が提供されておらず、貸主が汚損、破損あるいは回復費用を要すると判断した場合には、借主に関与の余地がなく原状回復費用が発生する態様となっており、借主に必要な情報が与えられず、自己に不利益であることが認識できないままされた合意は、借主に一方的に不利益であり、この意味でも信義則に反するとして、無効としたもの(東京簡判平成17・11・29最高裁HP)などがある。

 これらの判決では、信義則に反するかどうかは、消費者の利益を一方的に害していることの枕言葉のように使われており、消費者の利益を一方的に害していれば、信義則に反するものとされているようである(田島純蔵「消費者契約法10条」法科大学院要件事実教育研究所法6号92頁)。

 すなわち、10条後段要件については、「消費者契約法の見地から、信義則に反して消費者の利益が一方的に害されているかどうか」(8月判決)という観点から判断することが、これまでの下級審判決に整合的である。最高裁がこれと異なった判断を下すとすれば、これまでの下級審判決の積み重ねに対してどう応接するかが求められよう。

後藤 巻則(ごとう・まきのり)/早稲田大学大学院法務研究科教授

【略歴】
1952年生まれ。早稲田大学法学部卒業、早稲田大学大学院法学研究科博士課程満期退学。早稲田大学法学部教授等をを経て、現在、早稲田大学大学院法務研究科教授。専攻は、民法と消費者法。博士(法学、早稲田大学)。

【主要著書】
消費者契約の法理論(弘文堂、2002年)、契約法講義(第2版、2007年)、要件事実論と民法学との対話(共編著、商事法務、2005年)。