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松居 辰則(まつい・たつのり)早稲田大学人間科学学術院教授 略歴はこちらから

キャリアデザイン学
「自律的・自立的キャリアデザイン」の実践

松居 辰則/早稲田大学人間科学学術院教授

なぜ、「キャリアデザイン」なのか

 検索エンジンGoogleで「キャリアデザイン」をキーワードに検索すると、なんと3,060,000件のサイトがヒットする(2011年2月18日現在)。おそらく、少し前であればこのヒット数はもっと少なかったであろうし、もう少し前、例えば、バブル崩壊前にはこのような用語すらなかったのではないだろうか。「キャリアデザイン」は和製英語であり、多くのサイトでは「自身の人生において仕事に費やす部分を構想すること」と説明している。そして、「バブル崩壊とともに企業が終身雇用制・年功序列制から能力主義・成果主義へと体制を変換したため、常に自身で新しい知識を獲得し「必要とされる人材」になれるようキャリをデザインできることが必要になった」と説明されている。

 しかし、「キャリアデザイン」とは決して企業の中だけでの話ではなく、「どのような時にも人として大切なこと」としてもう少し広く捉えたい。つまり、「キャリア」とは「単なる仕事・職業」ではなく、「自分以外のために自立的・自律的に行う活動」として考えたい。例えば、ボランティア活動、サークル活動、地域での活動、イベントの幹事……すべて「キャリア」である。そもそも、「デザイン」とは日本語では「意匠」であり、これは「工夫して価値を付加する企画・計画」を意味する。では、この「価値」とは何か。それは、「自分自身が成長すること」である。したがって、「キャリアデザイン」とは「この社会に生まれてきた以上、この社会にどのような形で貢献できるかについて、自立的・自律的に考えて行動し、自身が成長すること」と考えたい。

産学連携による「キャリアデザイン学」の構築に向けて

 ここでは、高等教育機関における「キャリアデザイン」について考えてみたい。少子高齢化、大学への進学率の上昇等により、高等教育機関への入学者の能力やニーズは多様化の一途をたどっている。加えて、高度に情報化されたグローバル化により、社会の高等教育機関に対するニーズも多様化してきている。すなわち、学生(学部・大学院修士)の質保証という観点からは、従来の専門性を重視した教育に加えて、問題解決能力、人材のマネジメント力等の社会人基礎力、総じて実務能力と専門性(研究力・教育力)をバランスよく兼ね備え、組織の中核となれる人材の育成が重要な役割である。そのためには、学生がキャリアデザインを自立的・自律的かつ継続的に行うことを可能とする教育環境が必須である。

 このような背景のもと「キャリアデザイン」を標榜した学部や学科が国内においても見られるようになった。教育(人の育て方)、経営(人の働き方)、文化(人の生き方)をキーワードとして、それらを融合したカリキュラムをその特徴としているものが多い。しかし、上記のような意味での「キャリアデザイン」を実現するためには、「産学連携」によって企業が蓄積しているノウハウを大学教育の中でいかにして具現化するか、が重要である。

 そこで、早稲田大学では平成21年度・22年度の2年間「教育研究高度化のための支援体制整備事業」の一環として「産学連携によるキャリアデザイン学の構築事業(仮称)」を推進してきた。ここでは、特定の企業群と大学が密に連携して、学生(学部・大学院修士)の自立的・自律的なキャリアデザイン能力の獲得を支援することが主たる目的であった。産学連携のイメージは図1の通りであり、大学と企業の双方がスパイラルな連携を通して組織として成長すること、そして、その成果を通して理論と実践を融合した実学(キャリアデザイン学)の学問体系化を試みることを目指してきた。

図1 「産学連携によるキャリアデザイン学の構築事業(仮称)」のイメージ

「自立的・自律的キャリアデザイン」特別講義

 「産学連携によるキャリアデザイン学の構築事業(仮称)」の具体的な取り組みとして、早稲田大学と企業7社(ANA総合研究所、NECラーニング、内田洋行、三菱総合研究所、ソフトバンク、アクセル、人財ラボ)が連携して「キャリアデザイン学」を指向したカリキュラムを開発し「自立的・自律的キャリアデザイン」特別講義を実施した。この講義では「異なる業種におけるキャリアデザインの考え方から共通性を見出し、キャリアデザインの普遍的な意味を理解すること」を目的に90分15コマの講義を実施し、全学から約50名の学部生・大学院生が参加した。全ての講義が演習、コースワークを取り入れた実践的な内容であり、参加した学生からは一様に「自身の成長のために何をなすべきかを真剣に考える機会になった」との評価を得ることができた(写真)。

特別講義の様子(演習、コースワーク)

特別講義の様子(レクチャ)

特別講義の様子(プレゼンテーション)

国策、そして、今すぐに「自立的・自律的キャリアデザイン」を実践しよう……

 最近、「就業力、就業力育成支援」、「職業教育」、「リーディング大学院構想」という言葉をよく耳にする。いずれも我が国の文教政策を表す重要なキーワードである。中でも、「リーディング大学院構想」は「国内外の優れた教員・学生を結集して、世界でも卓越した大学院教育を展開すること」が政策の中心テーマであることは言うまでもないが、「アカデミアのみならず、企業や国際機関等、社会の各界各層で活躍できるリーダーを輩出すること」を最終ゴールとしている。「就業力支援」「職業教育」の本質は「大学での教育と企業のニーズとの接続性の実現」にある。一方、日本は欧米諸外国と比較して、大学と企業の連携が弱いとされている。諸外国と比較して博士学位をもった企業人が極端に少ないという現状、就職後3年以内にやめてしまう新入社員が極めて多いという問題・・・として現実化している。これらの問題を解決するためには大学にも企業にも変革が求められる。大学には、アカデミズムを主軸としつつも企業ニーズを十分に考慮した質保証の仕組みを考えること、企業には、産学連携で育った学生を積極的に評価するシステムを導入することが求められる。すなわち、「産学連携のキャリアデザイン支援」が重要課題となる。

 ここで、大学生・大学院生として「自立的・自律的なキャリアデザイン」能力を獲得するためには、十分な勉強・研究・経験を通して専門的な知識・技術を獲得することや、将来の自身をイメージして、それを実現するために今何をするべきかを考え、それに集中することなどが考えられる。「将来」といってもそれは5年先でも10年先でも構わないし、もっと近々のことでも構わない。常に「今何をするべきかを工夫して計画・企画すること」が大切である。これが「キャリアデザイン」の基本である。

 最後に、今回の特別講義(上記)における重要なフレーズの一部を紹介する。これらのフレーズはいかなる時でも役立つはずである。

  • 自分自身が成長し他者に役立つ自分を意識したとき初めて自立・自律となる。
  • 人は人により磨かれ成長する。
  • 「ホスピタリティ」がコミュニケーションの基本である。
  • 社会に貢献する高い志とプロを目指す強い意志、そして飽くなき知的探究心を自立してもち、日々の行動の中で自律することが重要。
  • 報酬・処罰・管理といった「外発的動機付け」ではなく、自立性・熟達・目的といった「内発的動機付け」が重要である。
  • 自立的・自律的に仕事を進めることが成果創出と自己成長につながる。
  • 客観的な自己分析によりMust(やるべきこと)、Can(できること)、Will(したいこと)間のギャップを認識し、向上への取り組みが大切。
  • 他責から自責へ。これが大いなる飛躍成長につながる。

松居 辰則(まつい・たつのり)/早稲田大学人間科学学術院教授

【略歴】
1994年早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了、1993年早稲田大学理工学部助手、東京学大学、電気通信大学大学院助教授、早稲田大学人間科学部助教授を経て、2008年より早稲田大学人間科学学術院教授。教育評価の数理的手法、学習課題、学習環境の最適化手法に興味をもっている。最近は、人間の深い知識(暗黙知、感性)の科学的扱いとその応用についての研究に従事している。博士(理学)。日本教育工学会論文賞、教育システム情報学会論文賞等受賞。電子情報通信学会、人工知能学会、教育システム情報学会(理事)、感性工学会、日本認知科学会、行動計量学会、IEEE、ACM各会員。

【主な業績】
1) "e-Learning環境での学習オブジェクトの適応的系列化手法に関する研究", 電子情報通信学会論文誌D-I, Vol.86-D-I, No.5, pp.330-344, 2003.

2) "好意的発言影響度を取り入れた議論支援システムの開発", 人工知能学会論文誌, Vol.19, No.2, pp.95-104, 2004.

3) "Development of Know-How Information Sharing System in Care Planning Processes -Mapping New Care Plan into Two-Dimensional Document Space-", Knowledge-Based Intelligent Information and Engineering Systems, Springer, pp.977-984, 2006.

4) "コンテントスペースの概念に基づく美的感性と心の構造の理解", 日本感性工学会論文誌, Vol.8, No.3, pp.819-828, 2009.

5) "ケアプラン策定過程におけるノウハウ情報共有システムとその教育的な効果", 情報処理学会論文誌, Vol.51, No.11, pp.1234-1252, 2010.

6) "産出課題としての作問学習支援のための実験的検討", 教育システム情報学会誌, Vol. 27, No.4, pp.320-315, 2010.