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島 善高(しま・よしたか)早稲田大学社会科学総合学術院教授 略歴はこちらから

女性宮家問題管見

島 善高/早稲田大学社会科学総合学術院教授

 平成23年10月、羽毛田信吾宮内庁長官が、天皇陛下の公務負担を軽減させたいとの理由で女性宮家創設を政府に提言し、11月には秋篠宮殿下も天皇定年制に言及された。これを機に、各方面で女性宮家創設問題が活発に議論されるようになった。

 宮内庁のホームページによると、天皇陛下の国事行為・公務は夥しい数に上っており、平成22年度中に、閣議決定書類への署名・押印は約900件、宮殿における拝謁・御会見などは約240回、外国からの賓客との応対が36人、各国大使の離着任時の応対は56か国、外国に派遣する大使夫妻との応対が93か国、外国元首へのご親電の数は約420件であるという。

 この他、天皇陛下には宮中祭祀の執行という重大な任務もある。皇居には賢所、皇霊殿、神殿の三殿があって、賢所には、天皇の祖神天照大神を祀り、神鏡が安置され、皇霊殿には歴代天皇および皇族の霊が祀られ、神殿には天神地祇が祀られている。この宮中三殿では、皇室の私事のみならず、国家国民の繁栄を祈るために、年間を通じて多くの祭祀が厳修されている。

 御高齢の天皇陛下にとって、これらの多種多様な仕事が非常な御負担であることは、容易に察せられる。東日本太平洋岸大震災の折、天皇皇后両陛下が各地の被災者を見舞われた御姿を見て、両陛下の御仁愛を有りがたく思うと同時に、御高齢の御姿に痛々しささえも覚えたのは筆者一人ではなかろう。

 現在、内廷には天皇、皇后、皇太子、皇太子妃、敬宮の5方、宮家の皇族には秋篠宮(5方)、常陸宮(2方)、三笠宮(2方)、寛仁親王(4方)、桂宮(1方)、高円宮(4方)の18方がおられて、天皇陛下の御仕事を支えられているが、男性皇族7方のうち4方は60歳を超えておられ、未婚の皇族女子8方のうち6方は既に成人されている。現在の皇室典範では、皇族女子は御結婚後、皇族を離脱しなければならないことになっているので、皇族の数がますます減少することは誰の目にも明らかなことである。

 ゆえに、宮内庁長官が天皇陛下の公務を支える皇族を増やすために女性宮家創設の提言をし、秋篠宮殿下が天皇定年制導入について触れられたのも、なるほどと思われる。天皇陛下の公務負担軽減、そして天皇陛下の公務を支える皇族の増加は、確かに当面の急務である。

 しかし、女性宮家を創設すれば、それで事が解決するかというと、決してそうではない。 御結婚後、皇族女子が当主となって女性宮家を創設したとしても、配偶者や御子様方の地位をどうするか、皇位継承権を認めるのかどうか、女性宮家は女系天皇、女性天皇への道を開くのではないかなど、さまざまな難問がある。

 そこで、各方面から、女性宮家創設に反対する意見が出てきた。12月8日、保守系超党派国会議員の集まり「創生『日本』」(会長、安倍晋三元首相)は、50名の国会議員を集めて、女性宮家創設反対、天皇は男系であるべきことを表明し、民主党内部でも男系天皇派が勉強会を開いていると聞く。

 さらには、戦後の混乱期の昭和22年10月22日、半ば強制的に皇籍を離脱させられた旧11宮家の皇籍復帰も叫ばれている。旧宮家が現在どのような状況であるのか、詳しくは知らないが、既に断絶したり、後継者が女性のみであったりして、該当するのは4~5の家のみであるという。このうち竹田宮恒徳王に連なる竹田恒泰氏が、男系天皇維持の立場で盛んに言論活動をしておられることは、周知の事実である。

 このような男系主義の意見に対して、女性天皇や女系天皇も容認すべきであるという意見もある。しかしながら、長年の伝統である男系主義を変更することについて、国民大多数の理解を得ることは難しいであろう。

 私は、かつて本欄にも書いたように(2005年1月「皇統永続のために」)、皇室典範第9条の「天皇及び皇族は、養子をすることができない」という規定を改正して、天皇や皇族に養子をする権利を認めることこそが、最善の方法だと思っている。勿論、どういう方を養子にするかは、皇室会議で慎重に審議されるべきであるが、当然、皇統につながる方が候補者でなければならない。養子となられる方は、皇族身分を取得した後、次第に皇族としての品格を身に着けられるであろう。

 さらに、次善の策として、一代に限って女性宮家を創設するという案も認めてよかろう。御誕生以来、皇族として育ってこられた方が、御結婚後も皇族身分のままで天皇の御公務を支えられるということは、当面の急務を解消する一つの有効な手段であると同時に、人情にも叶っているからである。配偶者が皇統に連なる方であるならば、配偶者御自身も皇位継承権を有する可能性が出てくるし、誕生された男子にも皇位継承権が認められるであろう。

 いずれにしろ、目下の急務は天皇陛下の御負担を如何に軽減するかである。皇位は、今上天皇の後、皇太子、秋篠宮、そして悠仁親王へと継承されることになっており、当分は安泰である。女系天皇、女性天皇の問題は、今のところ議論する必要はないと考える。

島 善高(しま・よしたか)/早稲田大学社会科学総合学術院教授

【略歴】
昭和27年佐賀県に生れる。昭和51年早稲田大学法学部卒業。昭和57年國學院大學大学院法学研究科博士課程満期退学。専攻、日本法制史。名城大学助教授を経て、平成3年早稲田大学社会科学部助教授。同7年教授。平成16年より社会科学総合学術院教授。博士(法学、京都大学)。
主要編著書、『近代皇室制度の形成―明治皇室典範のできるまで―』(成文堂、平成6年)、『明治皇室典範』上・下(共編、日本立法資料全集16・17、信山社、平成8・9年)、『元老院国憲按編纂史料』(編、国書刊行会、平成12年)、『早稲田大学小史』(早稲田大学出版部、平成15年)、『副島種臣全集』(編、慧文社、平成16年~)、『律令制から立憲制へ』(成文堂、平成21年)、『大隈重信』(佐賀城本丸歴史館、平成23年)。