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石田 大典(いしだ・だいすけ)早稲田大学商学学術院助教 略歴はこちらから

押しつける情報から引き出される情報へ-消費者行動から見るネットマーケティング

石田 大典/早稲田大学商学学術院助教

 ブロードバンド元年と呼ばれた西暦2000年から約10年、インターネットは驚くほどのスピードで普及し、我々の生活を一変させた。今では、日本にいながら海外のショッピングサイトを通じて買い物をしたり、様々な情報にもアクセスしたりすることは当たり前となった。さらには世界中のいろんな人と交流することさえ可能となった。このように、我々を取り囲む情報環境は大きく変化したが、インターネットによって消費者行動はどのように変わったのだろうか。本稿では、インターネットをはじめとする情報技術が消費者行動に及ぼした影響について、情報への接触、情報の探索、情報の発信という3つの視点から論じたい。

(1)情報への接触

 情報技術の発展とインターネットの普及によって、消費者が取得することのできる情報量は飛躍的に増加した。総務省情報通信政策研究所が2011年8月に発表した「我が国の情報通信市場の実態と情報流通量の計量に関する調査研究結果(平成21年度)」によると、テレビ局や出版社などの情報発信者がメディアを通じて伝送した流通情報量は、2001年から2009年の間に約2倍に増加しているという。特にインターネットでの流通情報量の増加は、約716倍にも上るという。

 このように情報量は増加してきたが、すべての情報が消費者によって処理されるわけではない。先の調査によると、受信した情報の内容を消費者が意識レベルで認知した情報消費量は、8年間でほとんど変化していなかった。無意識的に注意を向けない、あるいは意識的に無視することによって、我々は処理する情報を選択しているのだ。したがって、企業から発信される広告メッセージの多くは、余程のことがない限り消費者にスルーされてしまっているだろう。

(2)情報の探索

 インターネットの登場により、我々の情報探索行動が大きく変化したことは改めて言うまでもない。たとえば、インターネットが登場する前は、大学の講義などで何か分からないことがあると図書館へ行って関連書籍で調べるのが一般的だっただろうが、今では「ググる」だけでたいていは事足りてしまう。

 一般的に、消費者の情報探索行動は、関心を寄せる製品やサービスのタイプによって異なる。たとえば、電化製品やパソコンのような探索財(消費者が購入する前に品質をある程度評価できる製品・サービス)では、スペックや価格のような客観的な情報の探索が中心となる一方で、化粧品やレストランのような経験財(消費者が使用あるいは経験して初めて品質を評価できる製品・サービス)では、主としてユーザー・レビューのような主観的な情報の探索が行われる傾向にある。

 消費者の情報探索行動は購買前に限らず、購買後においても行われる。その目的の一つは、認知不協和の低減である。認知不協和とは、購買後において、自分の選択が正しかったのかどうかについて葛藤を抱くことである。たとえば、洋服を購入した時のことを思い浮かべてほしい。あの色にしておけばよかった、もうひとつ大きいサイズにしておけばよかったなどと後悔したことある人は少なくないはずだ。こうした葛藤を低減させ、自分の意思決定は正しかったと納得するために、消費者は追加的な情報を探索することがある。

 また、購買後に行われる情報探索は、後のクチコミのための裏付けを取るために行われることもある。早稲田大学マーケティング・コミュニケーション研究所と株式会社朝日新聞社が共同で行った調査では、インターネット上でのクチコミにはいわゆる炎上のようなリスクが伴うため、消費者はクチコミをする前に様々な情報探索行動を行うことが明らかにされている。

(3)情報の発信

 インターネット・コミュニティやブログなどによって、消費者は不特定多数の他者へ情報を発信できるようになった。こうしたインターネット上でのクチコミは、製品やサービスの満足あるいは不満足といった消費経験以外にも、様々な動機によって引き起こされる。たとえば、自分の意見や体験などを他者に知ってもらいたいという自己表現欲求や、自分と同じような関心事を有している他者と出会ったりコメントしあったりしたいという社会的欲求、あるいはクチコミによって獲得できるポイントなどを目的とした経済的欲求などが明らかにされている。

 マーケティング・コミュニケーション戦略を策定する際、上記のような消費者の情報の接触、探索、発信行動を考慮するべきである。消費者の情報接触は極めて選択的であり、ほとんどの情報には注意が向けられない。その一方で、インターネットで積極的に情報を探索し、さらには様々なクチコミ情報を発信するようになっている。消費者にとって情報は、メディアを通じて押し付けられるものではなく、自ら引き出すものと変化している。

 したがって、一方的なメッセージを伝えるだけのマス広告の多くは、消費者にとってノイズとなってしまい、処理されないだろう。しかし、マス広告の効果が低下すると考えるのは早計である。消費者はブランドについて何かしらの手がかりを有していなければ検索することができない。マス広告は消費者に手がかりを与えたり、検索のきっかけとなる上で重要な役割を果たす。したがって、一方的に情報を押し付けるのではなく、検索あるいは情報探索を引き起こさせることを目的としたマス広告の展開を図るべきである。

 また、自社サイトやブランドサイトなど、消費者が情報を引き出すための場をデザインする際、見込み客と既存顧客で情報探索の目的が異なることを意識すべきである。見込み客へは買う理由となるような情報を提供することが効果的だが、既存顧客へは購入が正しい選択だったと納得させる理由を与えることが効果的である。

 広告や自社サイトなど、それぞれが持つ役割を認識し、接触から探索、発信といった消費者の情報動線を考慮しながら各メディアを連携させていくことが肝要だろう。

石田 大典(いしだ・だいすけ)/早稲田大学商学学術院助教

【略歴】
1980年 広島県生まれ。
2004年 早稲田大学商学部卒業。
2006年 早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。
2011年 早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。
2011年 早稲田大学商学学術院助教。

2009年 商品開発・管理学会優秀発表賞受賞「部門横断的な製品開発チームと新製品パフォーマンス」
2011年 消費者行動研究学会研究奨励賞受賞(青木幸弘賞)「苦情対応と公正知覚が顧客満足に及ぼす影響:メタアナリシスによる先行研究の統合」

専門はマーケティング戦略、消費者行動、マーケティング・リサーチ