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加藤 哲夫(かとう・てつお)早稲田大学法学学術院教授・エクステンションセンター所長 略歴はこちらから

早稲田大学における知の開放と生涯学習の推進

加藤 哲夫/早稲田大学法学学術院教授・エクステンションセンター所長

 昨今生涯学習が話題になることが多い。それは、団塊の世代が会社定年を迎え、今後のライフステージをどのように過ごすかという点に関係させて論じられている向きが多い。もとより的は外れてはいないが、生涯学習の本質はこれに限られるものではない。そこで、現在、早稲田大学エクステンションセンター所長を拝命している立場から、生涯学習の視点でエクステンションセンターのことをお話しすることにする。

ユニバーシティ・エクステンションの活動

 大学が進めている生涯学習は「ユニバーシティ・エクステンション」といわれる。それは、大学における研究教育の成果を社会に開放するという活動ないし取組みと一般に理解されている。このような大学の取組みは日本では1970年代に社会的に認知され、欧米ではそれ以前から活発に推進されている。

 早稲田大学にあってはいち早く創立者大隈重信によって、さらには戦後の総長・大濱信泉によっても標榜されている。その後、現在のような本格的なエクステンション事業が1981年に開始されている。現在のエクステンションセンターは、早稲田校及び八丁堀校において学内外の魅力ある講師陣による年間約1,500講座を提供している。特に、これらの講座には本学名誉教授を含む約250名に及ぶ本学に関係する教員、研究員が積極的に携わっており、早稲田大学による研究成果の発信の面でも重要な役割を果たしている。

生涯学習の推進

 エクステンションセンターは、大学の蓄積してきた研究成果を広く社会に開放し市民とこれを共有する目的で設置され、ノンディグリーの公開講座を柱に、広く市民が学習機会をもてるように工夫されている。4年毎に更新する会員制を採用しており、会員は年齢や学歴等を問わず、講座を受講できるシステムになっている。2012年3月時点における会員数は25,630名、男女比は、男性40%に対し女性60%である。会員の年齢層は、平日日中の開設講座ではシニア層が中心であり、夜間、土曜日は、若手ビジネスマン層が中心である。

 また、会員が継続的に学習する目標を明確にできるように、1988年に独自の単位制が導入され、76単位を取得することにより修了する制度(修了生制度)を設けられた。この制度により、これまで延べ1,753名が修了している。昨年には、修了後も学習を継続している修了生のために、150単位取得者を対象とした「オープンカレッジ紺碧賞」を新設し、237名がこの賞を受賞している。

 このように、多くの会員が早稲田において学習する機会を得て様々にライフステージを過ごしている。早稲田大学において多様な年齢層の人びとが学習の機会を通じて時間を共有することの価値は、大学によってこそ実現されうる研究教育の開放にまさに通底するところであろう。

エクステンションの今後の展開

 以上のように、本センターによるオープンカレッジは、開設講座数、会員数において国際的にみても屈指の規模を有するまでに発展してきている。ここでは、急速な社会状況の変化さらには情報化社会への変貌を踏まえ、今後の展開を提示してみよう。

 第1に、eラーニングの展開である。それは、「いつでも・どこでも」をキーワードに、2009年度に開始されたオンデマンド形式の講座の展開である。初年度の6講座、受講者276名に始まり、2011年度は23講座、702名が受講している。今後もプログラムのいっそうの充実を図る予定である。

 eラーニングをさらに展開させる上で、オープンコースウェアの考え方や他の低受講料のWeb講座の存在等から、有料講座として提供することが難しい領域であること、進化し続けるネット環境に伴いより適切なシステムを検討し続ける必要があること等、今後における課題もある。しかし、eラーニングは大学の知を学外に広く開放するという視点からは有用かつ有効なツールであり、国内のみならず国外でも早稲田の知を渇望する多くの人びとにとって活用の余地は広いといえる。

 第2に、学生のキャリア支援の視点である。昨今、進路選択や就職活動で学生に求められる素養が複雑化、高度化し、それに伴い、学生の今後の人生をサポートする学習機会が必要になっている。本センターは、本学の専門部署であるキャリアセンターと連携しつつ、本学学生のキャリア形成を補完する役割、さらには学外を含む若者の広範なキャリア支援を果たせないかと考えている。

 その一例として、本年4月から、将来法曹を目指す学部学生を対象に、「法曹をめざす基礎講座」を開講する。本学出身の弁護士が講座を担当することで、法曹現場の生の声を届けるとともに、学生に近い目線で学部教育における学習の補習的機能を果たすことが期待されている。

 今後においてはさらに、若手ビジネスマンのための社会人としての基礎力養成につながる講座の設置、中堅ビジネスマンのキャリア展開をサポートする講座の充実をも検討しているところである。このように大学によるエクステンション活動が市民一人ひとりのあらゆるライフステージに関わることにより、大学が常に市民の生き方を意識するところまで昇華できればと考えている。

社会貢献としての責任

 最後に、今後の生涯学習機関の未来を展望してみよう。

 大学が展開している生涯学習は、地域連携や学外連携をも含めて語られることが多い。本センターは各国大使館や自治体等との連携講座の実績に厚く、現に進行している講座も多い。他方、学内には社会連携推進室、平山郁夫記念ボランティアセンター等があり、地域や学外機関と密接に連携した活動を推進している。大学としていっそう強固に地域連携や学外連携を推進する上で、これらをより有機的に結び付ける学内での仕組みの構築が今後の重要な検討課題といえよう。さらには、各大学の生涯学習機関が相互に連携して有用な情報を交換するいっそうの機会が必要となろう。

 大学が果たす生涯学習機関としての役割は今日社会的に認知されている。これは、生涯学習機関が大学の「顔」として社会貢献の役割を担っているところまで確実に到達しているという意味をもつ。この面での大学が果たすべき社会貢献の責任と役割は大きい。なぜならば、大学における研究教育は市井の人びとのあらゆるライフステージに生かされてこそ完成するものと考えるからである。このことは常に肝に銘じておきたいところである。

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エクステンションセンター

加藤 哲夫(かとう・てつお)/早稲田大学法学学術院教授・エクステンションセンター所長

【学歴】
早稲田大学第一法学部卒業
早稲田大学大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学
博士(法学)[早稲田大学]取得

【職歴】
2002~2004年 法学部長
2004~2006年 法学学術院長・法学部長
2006~2010年 図書館長
2010年~現職

【政府等委員】
最高裁判所・下級裁判所裁判官指名諮問委員会地域委員会(東京)委員(委員長代理)/文部科学省・大学設置学校法人審議会(大学設置分科会)専門委員(法科大学院特別審査会委員)/同・中央教育審議会(大学分科会)専門委員/日本民事訴訟法学会理事長/日本公証法学会理事長など

【専門分野】
民事手続法学(民事訴訟法・民事執行法・倒産法)