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依田 照彦(よだ・てるひこ)/早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

インフラの経年劣化・老朽化
橋にも迫る危険、予防措置が急務

依田 照彦/早稲田大学理工学術院教授

 我が国の21世紀における課題は、「持続可能な社会を造る」、「人口減少社会へ対応する」、「環境と経済の両立を考える」、この3つとされている。個人的には2050年までに、我が国の姿を、「安全安心長寿大国」、「環境先進国」にすることが重要であると考えている。他にもキーワードがあると思うが、2011年3月11日の東日本大震災を経験した日本にとっては、この2つのキーワードが特に大事ではないかと思う。持続可能な安全・安心社会の構築で欠かせないものは、インフラである。我が国には現在大量のインフラのストックがある。大量の資産があると言ってもよい。私の専門分野である橋の分野でも、我が国は、戦後の高度経済成長期に、多くの橋を建設した。実は、これらの橋の多くが高齢期を迎えようとしている(図1参照)。

図1 インフラも高齢化する日本(橋:一般国道+都道府県道、橋長15m以上)

 さらに、インフラの高齢化の問題だけでなく、災害に対するインフラの脆弱化の問題など、課題が顕在化している。我が国は地震、風水害などの自然災害による被害を受けやすい宿命を負っている。地震の可能性をほとんど考えずに済む国、台風のことを考えずに済む国とまったく違うのである。他国との比較はほとんど意味を持たない。人間と違って移動や避難ができない橋にとって過酷な状況に我が国の橋は晒されているのである。したがって、もし多くのインフラを巨大災害や老朽化から護り、長生きさせられる技術を我々が持てたら、世界中でインフラが造れる技術を手にしたことになる。その意味で、今、我が国は重要な時期を迎えている。

 2007年8月1日午後6時5分、米国ミネソタ州のミネアポリスのミシシッピ川に架かる道路橋が崩落した。橋を長持ちさせるための努力が十分なされている米国で起こった事故である(写真1参照)。事故現場を見たときのショックは未だに忘れられない。振り返って、日本の道路橋は本当に大丈夫であろうか。米国に比べてわが国では道路橋の多くが定期的に点検されていない。加えて米国の後を追うように、橋が急速に高齢化している。我が国の道路橋は、未点検と急速な高齢化という二重苦を抱えている。また、高齢化した橋を鞭打つように、我が国の道路では、重量オーバーのトラックが走行している。橋などの構造物が健全なうちは、大型の重量車の通行も可能であるが、人間と同じで高齢化した場合には若いときほど丈夫ではない。もちろん高齢化イコール老朽化ではない。100歳近い橋で健全な橋も沢山ある。

 しかしながら、多くの橋が疲れているのも事実である。橋の疲れや痛みとも取れる変状を計測器や力学的知識を利用して、簡易にコストをかけずに測定する技術の開発が望まれる。とにかく、見えないところみる(視る、診る)技術が大切である。橋だけでなく、インフラ全体に、気づかないうちに損傷や事故の危険性が迫っている。損傷や事故に遭遇してからでは手遅れである。人間と違って、傷ついた橋やインフラに自己回復力を期待することはできない。橋の健康管理は人間にしかできないのである。軽微な損傷の早期発見・早期治療が一番である。橋の事故による交通止めや橋の架け替えは大きな負担を国民に強いることになる。しかしながら、社会の関心は薄い。できるだけはやくすべてのインフラを点検し、迫る老朽化に備えるべきである。方策としては、経年劣化・老朽化に伴う損傷が顕在化する前に予防的な保全をするしかない。特に、わが国では、高度経済成長期の1960年代に建設されたインフラが、現在高齢期に近づいている。橋についていえば、橋の建設がピークに達したこの時期は、大量生産の時代にあたり、経済性優先の考えから、少ない材料で橋が造られており、橋の構造が軽薄長大となっている可能性が高い。そのため老朽化が急速に進むことが懸念される。橋が老朽化して弱ってくれば、損傷や事故が起きる可能性が高くなる。これらの軽薄長大の橋を重点的に補強する必要がある。橋の寿命を延ばす方策の第一は、技術者の熱意と住民の協力、そして適切な点検・診断、効果的な対策を行うことで、それさえあれば寿命は延ばせる。

写真1 ミネソタの橋の崩落(出典:MN/DOT)

写真2 橋梁の経年劣化(依田照彦撮影)

 予防的な保全を実行するにしても、予算の問題と技術力の問題は切り離せない。予算が少ないことを前提にすると、技術力の確保・向上に期待するところ大である。少子高齢化で技術者が減って、インフラが高齢化して老朽化し、若者が減ってくれば、技術の継承は難しくなる。橋の団塊世代(図1)と我が国の男性の団塊世代は同じペースで高齢化する。我々が考えるべきことは、インフラの維持管理の大切さを強調するとともに、よいインフラの仕事を準備することである。よい現場が何もないところに技術の継承はないのではないだろうか。現世代の技術者が、次世代の技術者に対して仕事を託し、仕事を任せることがインフラの老朽化を防止し、長寿命化を図る上で大切ではないかと思っている。

依田 照彦(よだ・てるひこ)/早稲田大学理工学術院教授

【略歴】
1970年 3月 早稲田大学理工学部土木工学科卒業
1977年 4月 早稲田大学理工学部・助手
1980年 4月 早稲田大学理工学部土木工学科・専任講師
1981年 2月 日本電信電話公社中央電気通信学園・非常勤講師
1982年 4月 早稲田大学理工学部土木工学科・助教授
1987年 4月 早稲田大学理工学部土木工学科・教授
2003年 4月 学科名称変更により早稲田大学理工学部社会環境工学科・教授
2005年 4月 国立大学法人広島大学・非常勤講師
2006年 9月 改組により理工学術院創造理工学部・教授 現在に至る

【著書】
橋があぶない(共著)、ぎょうせい、2010年10月
構造力学(共著)、彰国社、1999年7月
鋼構造技術総覧[土木編] 第3章 設計基準、日本鋼構造協会、技報堂出版、1998年5月
土木工学ハンドブック“第7編 構造力学”(共著)、土木学会、技報堂出版、1989年11月

【表彰】
2005年 5月 土木学会田中賞(論文部門),土木学会
2006年10月 2006年度グッドデザイン賞(商品デザイン部門)、日本産業デザイン振興会
2008年 6月 2006 Best Paper Award , Advances in Structural Engineering
2010年 2月 土木学会デザイン賞・優秀賞、土木学会
2012年 6月 2012 KSSC-POSCO Award, KSSC

【専門分野】
構造工学、橋梁工学、構造力学